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◆chapter1◆幼少時代編
一度目の異世界人生はトラウマ①
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(……あー……)
ぱちりと目を覚ました俺は、天井がやたら遠いことに気づき「またかぁ」と心の中でため息を吐いた。
起き上がり、よいしょと地面へと着地した俺は、念のために確認しようと部屋にある豪奢な姿見の方へと歩く。ふかふかの厚手の絨毯が敷き詰められたこの部屋は、過保護な俺のパパによって俺が怪我をしないようにとあらゆる工夫が凝らされている。
とことことこ。今の俺の足音を漫画的表現を使って表すなら、そんなところだろう。
(やっぱり……またポメってる)
姿見の前までたどりついた俺は、鏡に映った自分の外見――丸くて小さい体を白いもこもこの毛に覆われたポメラニアンの姿に「ふんす」と鼻息を荒くした。
魔王オブシディアンの末の息子、魔界皇子シオン。それがゲームの攻略に失敗して、元の世界に帰れなくなった俺に神からお情けとして与えられたらしい、三度目の俺の人生だ。
不幸の始まりは、とある一つのゲームだった。
大学の冬休みの間の暇つぶしとして、高校時代の友人から勧められたダウンロード販売サイト18DL.comで販売されていた、ファンタジーのアダルトゲーム――クレイドルガーデン。
普段俺はゲームの類は全くやらないのだが、オタクでPCゲームのヘビーユーザーだった友人があまりにも猛プッシュしてくるので、物は試しにと始めてみた。あと、レビュー欄に「ダークすぎる」「ヒロインが怖い」「難しい」という書き込みが溢れていたのも、正直かなり興味があったし。
ゲーム自体は、オーソドックスなファンタジーだったけれど、フラグ回収が難しくて攻略サイトを頼った末に何とかクリアできた。エロ部分は恥ずかしくて飛ばしちゃったんだけど、シナリオはしっかりしていたし、正直結構楽しめたと思う。
ただ、問題はそこからだった。
ハッピーエンドのタイトルがエンディング後に表示された瞬間にディスプレイ画面が光り出し、光がおさまったと思ったら、真っ白な何もない空間に移動していたのだ。そこにいたのは、一人の【神】を名乗る胡散臭い男だった。
「里中紫苑さん、ゲームの世界の入り口へようこそ。この世界にやって来たのは、貴方で七人目です」
戸惑う俺に、男は今俺の居る場所が、俺が先ほどまでやっていたゲーム、クレイドルガーデンの世界への入り口であり、ゲームをクリアしなければ元の世界には帰れないと語った。しかも、失敗イコール本物の死となり、二度と元の世界に帰ることが出来ないというのだ。
当然、俺は怒り狂って抗議した。だが、答えは他に方法はないという非情なものだった。俺には最初から選択肢はなかったというわけだ。
半ば強制的に、俺は主人公である【勇者シオン】として、ゲームへと参加させられた。
だけど、その時の俺は、何とかなると思っていたのだ。一度ゲームをクリアしていたし、獣医学を学ぶ程度には頭には自信があったので、同じ行動を取ればハッピーエンドに辿り着けるという自信があった。【勇者】のスペックは高かったし、油断さえしなければ問題ない筈だったのだ。
――だけど、俺はゲーム攻略に失敗し、デッドエンドを迎えた。
ハッピーエンドの際の選択肢を選び、同じように行動したというのにだ。
(ただ、今思うと失敗して当然だったんだよなぁ……)
俺の一度目の人生はゲームと殆ど同じ展開ではあった。だが、ゲームと完全に一致していた訳じゃなかった。一番違ったのは、周りのキャラクターの性格と彼らと俺との関係性だ。
ゲーム本編での主人公はゼナス帝国の第三皇子という設定で、不義の子であることから父親である皇帝からは憎まれており、皇室の血を継いでいないとして兄二人からも嫌われていた。実の母も幼い頃に怒り狂った皇帝に殺されていたため、誰からも必要とされない孤独な少年時代を送っていた、というのが本来の主人公の設定だ。
だけど……。
(兄さんたちと仲良しだったんだよなぁ……俺)
というか溺愛されていた。母上も殺されていないし、父上とはラブラブだった筈……。不義の子っていうのがちょっと分からなかったんだけど、そんなドロドロした話全く出てこなかったんだよな。兄さんたちのお母さんはちょっとおっかなかったけど……命を狙われるみたいなのは無かった。
俺に死なれたらまずいしだろうしね。なんていっても勇者だったんだから。
(まぁ、結局死んじゃったんだけどね~! はははっ)
笑い事じゃないんだけど、今となってはもう笑うしかない。と言うか、あの時の事を思いだしたくないのだ。兄さんたちは大好きだったし、楽しい思い出もいっぱいあったけれど、それ以上に最後のあたりの俺の人生が辛すぎた。幸せな記憶も、その時の不幸で全部上書きされるくらいのことが、あの時の俺には起きたんだから。
……いや、だって仲間全員に襲われて殺されるとか完全にトラウマでしょ。
しかも最後に俺にトドメを刺したのはメインヒロインのアリスティアである。アリスティアルートを頑張って進めていたのに、まさかのバッドエンド、いやデッドエンドだ。忘れたくなるのも仕方ないと思う。
まぁ、そんなわけで俺の人生はそこでジエンドの筈だったのだが……何故か、俺は同じ世界にまた生まれ変わることができた。まぁ、魔王の息子と言っても、実際に血縁関係は無いんだけどね。
――魔王城ダークパレスの東部にある魔の森に突然現れた、謎の巨大なクリスタルに眠っていた赤ん坊が俺だった。
つまり俺は養子ってことだ。
ぱちりと目を覚ました俺は、天井がやたら遠いことに気づき「またかぁ」と心の中でため息を吐いた。
起き上がり、よいしょと地面へと着地した俺は、念のために確認しようと部屋にある豪奢な姿見の方へと歩く。ふかふかの厚手の絨毯が敷き詰められたこの部屋は、過保護な俺のパパによって俺が怪我をしないようにとあらゆる工夫が凝らされている。
とことことこ。今の俺の足音を漫画的表現を使って表すなら、そんなところだろう。
(やっぱり……またポメってる)
姿見の前までたどりついた俺は、鏡に映った自分の外見――丸くて小さい体を白いもこもこの毛に覆われたポメラニアンの姿に「ふんす」と鼻息を荒くした。
魔王オブシディアンの末の息子、魔界皇子シオン。それがゲームの攻略に失敗して、元の世界に帰れなくなった俺に神からお情けとして与えられたらしい、三度目の俺の人生だ。
不幸の始まりは、とある一つのゲームだった。
大学の冬休みの間の暇つぶしとして、高校時代の友人から勧められたダウンロード販売サイト18DL.comで販売されていた、ファンタジーのアダルトゲーム――クレイドルガーデン。
普段俺はゲームの類は全くやらないのだが、オタクでPCゲームのヘビーユーザーだった友人があまりにも猛プッシュしてくるので、物は試しにと始めてみた。あと、レビュー欄に「ダークすぎる」「ヒロインが怖い」「難しい」という書き込みが溢れていたのも、正直かなり興味があったし。
ゲーム自体は、オーソドックスなファンタジーだったけれど、フラグ回収が難しくて攻略サイトを頼った末に何とかクリアできた。エロ部分は恥ずかしくて飛ばしちゃったんだけど、シナリオはしっかりしていたし、正直結構楽しめたと思う。
ただ、問題はそこからだった。
ハッピーエンドのタイトルがエンディング後に表示された瞬間にディスプレイ画面が光り出し、光がおさまったと思ったら、真っ白な何もない空間に移動していたのだ。そこにいたのは、一人の【神】を名乗る胡散臭い男だった。
「里中紫苑さん、ゲームの世界の入り口へようこそ。この世界にやって来たのは、貴方で七人目です」
戸惑う俺に、男は今俺の居る場所が、俺が先ほどまでやっていたゲーム、クレイドルガーデンの世界への入り口であり、ゲームをクリアしなければ元の世界には帰れないと語った。しかも、失敗イコール本物の死となり、二度と元の世界に帰ることが出来ないというのだ。
当然、俺は怒り狂って抗議した。だが、答えは他に方法はないという非情なものだった。俺には最初から選択肢はなかったというわけだ。
半ば強制的に、俺は主人公である【勇者シオン】として、ゲームへと参加させられた。
だけど、その時の俺は、何とかなると思っていたのだ。一度ゲームをクリアしていたし、獣医学を学ぶ程度には頭には自信があったので、同じ行動を取ればハッピーエンドに辿り着けるという自信があった。【勇者】のスペックは高かったし、油断さえしなければ問題ない筈だったのだ。
――だけど、俺はゲーム攻略に失敗し、デッドエンドを迎えた。
ハッピーエンドの際の選択肢を選び、同じように行動したというのにだ。
(ただ、今思うと失敗して当然だったんだよなぁ……)
俺の一度目の人生はゲームと殆ど同じ展開ではあった。だが、ゲームと完全に一致していた訳じゃなかった。一番違ったのは、周りのキャラクターの性格と彼らと俺との関係性だ。
ゲーム本編での主人公はゼナス帝国の第三皇子という設定で、不義の子であることから父親である皇帝からは憎まれており、皇室の血を継いでいないとして兄二人からも嫌われていた。実の母も幼い頃に怒り狂った皇帝に殺されていたため、誰からも必要とされない孤独な少年時代を送っていた、というのが本来の主人公の設定だ。
だけど……。
(兄さんたちと仲良しだったんだよなぁ……俺)
というか溺愛されていた。母上も殺されていないし、父上とはラブラブだった筈……。不義の子っていうのがちょっと分からなかったんだけど、そんなドロドロした話全く出てこなかったんだよな。兄さんたちのお母さんはちょっとおっかなかったけど……命を狙われるみたいなのは無かった。
俺に死なれたらまずいしだろうしね。なんていっても勇者だったんだから。
(まぁ、結局死んじゃったんだけどね~! はははっ)
笑い事じゃないんだけど、今となってはもう笑うしかない。と言うか、あの時の事を思いだしたくないのだ。兄さんたちは大好きだったし、楽しい思い出もいっぱいあったけれど、それ以上に最後のあたりの俺の人生が辛すぎた。幸せな記憶も、その時の不幸で全部上書きされるくらいのことが、あの時の俺には起きたんだから。
……いや、だって仲間全員に襲われて殺されるとか完全にトラウマでしょ。
しかも最後に俺にトドメを刺したのはメインヒロインのアリスティアである。アリスティアルートを頑張って進めていたのに、まさかのバッドエンド、いやデッドエンドだ。忘れたくなるのも仕方ないと思う。
まぁ、そんなわけで俺の人生はそこでジエンドの筈だったのだが……何故か、俺は同じ世界にまた生まれ変わることができた。まぁ、魔王の息子と言っても、実際に血縁関係は無いんだけどね。
――魔王城ダークパレスの東部にある魔の森に突然現れた、謎の巨大なクリスタルに眠っていた赤ん坊が俺だった。
つまり俺は養子ってことだ。
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