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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵

苦手な男③-2

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「昔、ジークと何かあったの?」

 強い魔物と戦うなら、互いに協力をするのは当然だし、ラインハルトもそれは分かっているだろうから下手はうたないとは思うけれど、万が一ということもある。ジークのためにというよりは、ラインハルトのために俺はそう聞いた。勿論、関係の修復が難しい程の問題なら俺がどうこういうことではないんだけれど……。

 ラインハルトは眉間に深く皺を寄せたままだったが、俺がじっとその表情を見つめると、ラインハルトが目をすっと細めた。明らかに更に機嫌が急降下したのを見て、俺は思わずびくりと体を震わせる。

(えぇ、なんで俺睨むの!?)

 美形の睨みは迫力が違いすぎて心臓に悪いのでやめて欲しい。特にラインハルトは基本的に俺には甘いので、あんまりこういう態度を取ることがないので余計に怖く感じるんだよ。

 ラインハルトの目は、明らかに俺に何か言いたそうな目をしていた。まるで、俺が話に関係している感のようだ。

「あー……もしかして」

 だんまりを決め込んだラインハルトを前に、しばらく凍り付くような沈黙が流れた後、シュナが何かに気づいた様子で小さく声をあげた。俺とラインハルトを交互に見て、何故かニヤニヤと笑みを浮かべたシュナは、ラインハルトが何に怒りを覚えているのか分かったのか、しきりに「いや~。でもそりゃそうだよねぇ」と頷きだした。

「……?」

 全く意味が分からず、どういうことだ? と首を傾げる俺に、シュナはにっこりと笑みを浮かべた。

「ラインハルトは、ジークのトオルへの言動が気に入らなかったんだよ~、トオルのこと色々微妙な感じに言ってたじゃん?」

「えぇっ? さすがにそれはないでしょ……そんなことくらいで……」

「そんな事じゃないだろう……! お前はもっと怒るべきだ!」

「……っ」

 いくらなんでもそんな理由ではないだろう。そう言おうとした俺の話を、ラインハルトの声が遮った。明らかに怒っていると分かる温度の低い声に声にならない小さな悲鳴をあげてしまったが、ここまで怒っているラインハルトは珍しい。

 多分他には俺が知っている限り、伊藤相手の時くらいだな。こんなラインハルトが不愉快だっていう気持ちを全面に押し出すの。

「……っ、すまん」

 俺の怯えに、ラインハルトはすぐに気づいたのかすぐに謝ってくれた。

「う、ううん、大丈夫少し驚いただけだから」

 確かに無茶苦茶驚いたけれど、ラインハルトは俺を傷つけるようなことは絶対に言わないし、しないと分かっているので、俺は深呼吸と共に肩の力を抜いた。安心させるようににっこりと微笑むと、ラインハルトも申し訳なさそうに微笑み返してくれる。

 しかしだ。……どうやら本当に俺への態度が気に入らなくて、ラインハルトはジークを無視していたらしいと知り、俺は少しだけ顔を引き攣らせた。

「あの男には幻滅したんだ。まさかあんな男だったとは……」

 確かに、『……何なんだ、あいつは』って、あの時ラインハルトうんざりしたもんね……。失望した呟きだったんだ、あれ。

「怒鳴らなかっただけ我慢した方だぞ、私は……!」

 ラインハルトが言うには、決して親しくはなかったものの、有能な男ではあると昔からジークのことは認めていたらしい。だから多少ジークが変わり者であるということは知ってはいたが、共に神子を守護する立場ということも考え、少しくらい不愉快な思いをしても我慢くらいはするつもりだったそうだ。

 だが、それはあくまで自分のことでは我慢するという意味で、俺については想定外だったらしい。

 ……確か、ラインハルトが初めて同席した日にジークがラインハルトへ開口一番言ったのって、「平凡チビのどこが良いのか?」的な感じだったなと思いだす。確かに中々の罵倒だけど、実際この世界では俺はチビだし、地味な顔だから見たまんま本当のことなんだけど、ラインハルトは無茶苦茶怒ってくれていた。

「褒めまくれとは言わないが、あの言動は許しがたい。たとえ、意図的にお前を傷つける意味合いがなくてもな」

 あれが二人の最初の会話らしい会話だったから、前に多少良いイメージがあっても、帳消しになるくらいには最悪な印象の再会だったようだ

 でも、ちょっと照れるけど、俺のことで怒ってくれたのは嬉しいな……とは思う。

「ありがと」

 俺がそう言うと、ラインハルトは少し照れた様子だったが悪い気はしなかったのだろう、薄っすらと口角を上げて笑ってくれた。

 ジークに関しては、色々と話を聞いた今では「けど、竜人だから多少は仕方ないんじゃない?」と少し思ったが、結局それを口に出して言うことはなかった。俺のことで真剣に怒ってくれたラインハルトに対して失礼だと思ったからだ。

「まぁ、でもあれはジークが悪いからねぇ」

 シュナはうんうんと頷くと、愛する人を馬鹿にされたんだから仕方ないよと苦笑いを浮かべていた。なんか居た堪れないのは俺だけだろうか!?

 だが、問題はここからだと個人的には思っている。

「なぁ、シュナ。ジークについてなんだけど……大丈夫なのか? あんな調子で。王城内で色々やらかすんじゃ?」

 俺は思わず赤面しつつも、話を戻すためにそうシュナに尋ねた。

 シュナにジークのことを聞いたのは、個人的に色々ともやもやしたという理由もあったが、一番の理由は今後のトラブル回避のための情報収集だった。

 俺個人の話ならまだ俺が不快になるだけなので良いが、王城内で何か大問題を起こされてしまうというのは、さすがにまずい。一切関わらないなんて不可能だし、何よりシュナと仲の良い俺は絶対に巻き込まれる予感がするんだ。

 友達の友達のトラブルに巻き込まれるなんて最悪なシナリオすぎて、回避したい。
 
「あー。うん。大丈夫じゃないかなぁ? 外だと、ジークって人気もあって結構声をかけられるんだけど……人間の貴族とか、支配階級側の立ち位置の人はジークみたいな男はあまり好きじゃない……というか、どちらかといえば嫌いみたいで、今の所相手から近づいて来ないんだよね。ジークもそういう綺麗な感じのヒトたちは対象外だから平気だと思うよ」

 俺の問いに、シュナは「外の世界の人間と違って、王城内の人間は色々好みが煩いよねぇ」と笑いながら言う。だが、さすがにそれは楽観的では? と俺は思った。

「本当にそれ大丈夫なのか……?」

「うーん。多分……?」

 俺がそう聞くと、シュナは今度は少し迷った様子でそう言った。

(いや、駄目だろ!?)

 たらればなんて全く信用ならない。

「……そんな呑気なことを言っている場合ではないだろう。今までは何も無くても、今後絶対に何も起こらないとは限らない。そのまま放置しておくのは愚策以外の何ものでもないぞ」

 ラインハルトも俺と同じことを思ったらしい。呆れたような声で言った。

 シュナのこのいい加減さって種族の違いなのか、それともシュナ個人なのか。他に比較する対象がいないから分からないけど、後者であってほしいと切に思う。

 ちなみに俺もラインハルトに完全に同意見だ。多分大丈夫なんていうふわっとした考え方では、絶対にいつか何か起こると断言できる。最低限の対策は、絶対に取るべきだろう。

「シュナ。ジークに関しては、本当に気を付けた方が良いと思うよ。それに……万が一でも、ジークが辛い目に合うのは嫌だろ?」

 一応、これも本音だ。ジークはともかく、シュナの心が傷ついたり、落ち込んだりするところは俺も見たくはないからな。

 シュナはかなり複雑そうな顔をしていたが、俺が真剣に言っていると分かったのか、少し考えた後に「一応、色々考えてみるよ」と最後には言ってくれた。

 俺はほっと胸を撫でおろした。

 ラインハルトはシュナの返答に完全に納得はしてはいなかったようだが、親しくない自身よりもシュナが動くのが得策だと思ったのだろう、それ以上は何も言わなかった。



 だが、この時の俺もラインハルトも分かっていなかったのだ。シュナが猫の獣人で、ジークに勝るとも劣らない凄まじい自由人であること、地球における猫と同じ、いやそれ以上に本当にきまぐれな性格であるということを――。
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