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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵

苦手な男①-1

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(はー……帰りたい)

 たくさんの人でごった返す王城内の広間。

 半ば強制的に参加させられた久しぶりの夜会。本来ならラインハルトにエスコートされてやって来る筈だった俺は、一人で体を縮こまらせながら、壁際にひっそりと佇んでいた。

 神子ではないと判明して以降、俺が夜会に呼ばれる機会は殆どなかった。俺を夜会に誘って何らかの旨味がある訳ではないし、まれに誘いはあっても、それはすべてラインハルトが断ってくれていたのだ。

 だから平和な日々を過ごせていたのだが……結局、今回はこうして参加するはめになってしまった。

(いや、まぁ……失敗だったかもしれないなぁ)

 俺は、少し離れた場所で貴族連中を侍らせているド派手な男に気づかれないように、ごくごく小さなため息を吐いた。

 悔しいが、王太子であるフェリックス殿下はとんでもないイケメンだ。

 フェリックス殿下以外の王子もまぁまぁイケメンというか端整な顔立ちをしているのだが、フェリックス殿下に関しては何というかオーラが派手で、他とは違うなというのがすぐにわかるくらい全然違う。

 ラインハルトやこの間友達になったシュナも十分に美形だけれど、キラキラ感はフェリックス王太子殿下に軍配があがるだろう。

 金緑石色の髪に白い正装衣装が滅茶苦茶似合っている。ちょっと目つきは鋭いけど、ラインハルトと比べればかなり甘い顔立ちで、冷たい美貌というよりは凛々しいって感じなんだよな。受ける印象は。

 ラインハルトは割と広く年齢問わず万人にもてそうだが、フェリックス王太子殿下は若い人に集中してモテるってイメージがする。良い意味でも悪い意味でも大衆受けしそうというか。正統派の美形というには、少し癖は強いけどね。

 俺様感は、ラインハルトの方が上だな。王族より態度がデカいのもどうかとは思うが……。

 背はラインハルトと同じくらいか少し高いくらいで、体格はラインハルトよりは細身に見えるけど、俺と比べれば勿論筋肉質な体躯をしている。
 王太子は白魔術師なのだと前にちらっとラインハルトに聞いたけど、多分ある程度は近接戦もこなせるんだろうな。あの体格じゃ。

 少なくとも、全く身体を鍛えていないタイプではないだろう。
 
 今俺の周りにいる貴族連中の多くは、背こそ俺よりも大分大きいが、横幅は大きくは変わらない。俺の方がちょっと華奢かな? くらいだ。まぁ、実際には身長差がある上、東洋人と西洋人の差があるように脱いだらすごいのかもしれないので、どちらにせよ俺よりはかなり力はあるんだろうけれど。

「フェリックス様、本日もとても素敵です」

「本当に……!」

 周りを取り囲んでいる可愛い系や美人系のヒトたちが頑張ってフェリックス殿下に話しかけてるけど、殆ど反応していない。一応は笑みを浮かべてはいるが、口角が上がっているのに目は笑っていないのが遠めでも分かる。

(伊藤以外には本当塩対応だからな、あの人……)

 フェリックス王太子殿下は、神子――つまり、伊藤がお気に入りだ。

 暫定とは言え王太子という立場もあるので取り巻きというほど神子との距離は近くないが、高価なプレゼントをあげたりお茶に呼んだりと、明らかにフェリックス王太子殿下が伊藤に好意を抱いているのは傍から見ていてわかる。可愛い可愛いと褒めているのも見かけているし、王太子という立場でなければきっとずっと伊藤の傍にいたいと思っているのだろうなと、俺は予想している。

 現在の政は父親である国王や宰相たちが中心とはなっているが、王太子を含めた他の王子にも中々の量の仕事が振り分けられているので、神子の世話だけをするわけにはいかないようだ。

 魔物が活性化している以上、やらなければいけない事は多いんだろう。

 この国の中では所謂保険的な意味合いで与えられている仮初の地位ではあるが、絶対に現在の王太子が王になる可能性がゼロというわけ訳ではない。

 神子に選ばれなければ最終的には地位を返上することになるが、神子に選ばれさえすれば仮初ではなく本物の地位に変わるのだ。

 ちなみに、俺は夜会は嫌いだし俺を呼んだフェリックス王太子殿下に恨み言は言いたいけれど、フェリックス王太子殿下のことは自体は実は嫌いではない。

 もちろん恋愛感情ではなく、一般的な話でという意味でだ。

 フェリックス王太子殿下の伊藤と俺への態度はかなり違うし、まぁ俺にはぶっちゃけかなり冷たいのだけれど、他の取り巻きが超えてはいけないラインを越えて、半ば俺に無理矢理接触しようとするのに対して、フェリックス王太子殿下はそういったことは絶対にしてこない。

 ラインハルトが俺をガードしてくれているのもあるだろうが、フェリックス王太子殿下は合理主義者なところがある。だから必要性があって初めて俺に嫌味を言ってくるので、気に入らないからとか訳の分からない八つ当たりで一々絡んでくるような他の取り巻きとは違う。
 
 そういう意味で、俺はフェリックス王太子殿下のことを生意気かもしれないが結構評価していた。

(とはいえ……緊張する)

 俺は思わず胃のあたりを押さえた。

 ラインハルトが側に居てくれたら、ここまで精神的には辛くならなかったに違いないが、ラインハルトは凶暴化した魔物の討伐のために王城を離れることになってしまい、俺は一人で夜会にやって来る事になってしまった。

「お前と一緒なら夜会も楽しいと思えるかもしれないな」

 前日まで、そう少し嬉しそうに俺に言っていたラインハルトは、悔しそうに延々と恨み言を言いながら早朝に遠征に出かけて行ったが、今回ばかりは俺も恨み言を言いたい気分だ。ずっとラインハルトのガードがあったから忘れていたが、王城の貴族たちの黒い腹の探り合いは俺には荷が重いなんてものではない。

 なおラインハルトを迎えにやって来たのは、神子の守護者でもある騎士団長ハーミットさんと騎士団員の一人アンヘルだった。どうやら、短期決戦で魔物を殲滅するように命じられたらしい。

 魔物の討伐依頼はこれからもっと増えるそうなのでラインハルトのことが心配だが、あの三人で組むなら絶対大丈夫だろうなという妙な安心感がある。

――ちなみにあの後、何とかシュナとは話し合いをすることは出来た。
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