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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵
閑話①~シュナ視点~
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苛々する。
ガゴン! と大きな音を立てて思い切り扉を蹴り開けた僕の行動に、宿屋のベッドでいちゃついていた二人がぎょっとした様子でこちらを振り返った。
「……おいおい、シュナ。扉……」
「壊れてないし~」
どかどかと足音をたてながら部屋に入ると、二人の片方――友人でもあり、冒険者の仕事での相棒であるジークが呆れた表情でこちらを見ながらため息を吐いてきたけど、僕は謝る気はない。
ジークも一応は言ってみたものの、僕にそんなこと期待はしていないのかそれ以上は言ってはこなかった。
王城内への招待を断り、神子の旅に同行する守護者の一人でもある彼と、この宿屋の一室を共同で取ったのは、約二週間程度前の話だ。
最初は僕もジークも王城内に用意された部屋で滞在する予定だったのだが、色々な事情から取りやめた。
かなり値の張る高級宿屋に長く泊まるのは、金銭的には中々の痛手ではあった。けれど、ジークと僕の稼ぎなら不可能ではないし、面倒くさそうな匂いしかしなかった王城内に泊まるという選択をしなくて良かったと、今では心の底から思えるので、その時の判断は大正解だったと言える。
「てかさ、君帰ってくれる? 邪魔だからさ」
「ひっ……!」
ぼけーっとしていたもう一人の男を僕がきつく睨みつけると、男がびくりと身体を震わせた。はっきり言って美しいとは言い難いその男は、ジークとは全く釣り合っていないのだが、それがジークの好みなのだから仕方ない。僕には全く理解が出来ない好みではあるけどね。
ジークは、燃えるような赤い髪が印象的な、野性味あふれる美丈夫で、彫が深く男らしい顔立ちと、屈強な肉体美から、寝る相手が絶えることが無い程に人気な男だ。
まぁ、お貴族様や特別なステータスを求めるような相手から見ると、ワイルド過ぎる装いもあってか、イマイチ人気は無いようだけど。
不潔では無いけど、機能性重視なんだよね。ジークの好む格好は。
それに、下品では無いけど品行方正とは言い難い。市井の奴らは顔とか金、力みたいな分かりやすいものに惹かれるけど、貴族や自分が上流階級だということに誇りとやらがあるとそういう訳にはいかないらしい。
まぁ、それでもジークは十分モテ男だけどね。
そんな彼のお眼鏡にかなうのは、いつも器量の悪い男ばかりだ。
不細工専門。ジークは周りからそう言われている。
ジークは一般的に美人や可愛い、カッコイイという顔立ちを好まないのだ。美的感覚は正常で、誰が美人かは分かるそうなのだが、とある理由から多くの美形が恋愛の対象外となってしまうからだ。
――竜人。それがジークの種族だ。竜の血を引く彼らは、他の種族とは一線を画している存在だ。彼らは本来は、外見の美しいものを愛玩動物として囲う習性がある一方、番う相手には外見の美しさよりも潜在的能力の高さを重視する。
戦いに重きを置く彼らにとっては、いくら相手の外見が美しくても、能力が低ければただの遊び相手でしかない。
一般的には武力と魔力を重視し、次に知力の高さを好むと言われているが、基準は結構あいまいだ。
ジークは彼らの中では少々、いやかなりの変わり者だ。
何せジークにとって重要なのは外見でも能力でもなく、魂や心の美しさなのだ。エルフやドワーフと同じで、心の清らかな者でないと受け入れられないため、自分に自信のあるようなタイプが多い美形が苦手らしいというのが本人の談だが、エルフたちと同じとは正直思えない。
エルフたちは外見には拘らないけど、ジークはむしろ美しくないことに拘っているし。
美形の中にもいる内気な男には、大抵既に相手がいるだけで偶然だってジークは言っていたけどさ。
個人的には絶対、単純に不細工が好きなだけなんじゃないかって思うんだよね……。
それに、ジークの好みに関してはもう一つ厄介なところがある。
それは、一般的に性格が悪いと言われるほどの目に見えた欠点でなくても、ふとした切欠で相手の嫌な部分が目につくと駄目になるという所だ。
この点は、まだエルフやドワーフの方が全然寛容だ。
エルフやドワーフは魂の美しい相手を好むけれど、さすがにある程度は許すし、許容範囲というものがある。
例えば嫉妬とか、何か理由があって誰かを憎んでしまうとか、そういう限定的な部分に関しては、程度にもよるが、別段強拒否反応は示さないし、愛していた相手の内面がすっかりと変容してしまっても、すぐには「じゃあさようなら」とはならない。
けど、ジークの場合は違う。すごく許せる範囲が狭いのだ。嫉妬とか、本来なら状況によっては可愛らしいと思えるような一面を見せられても駄目になる場合があると聞いた時は、同情すると同時にかなり引いたのを覚えている。
外見の美醜は関係なく、本来恋人同士であれば嫉妬することは往々にしてあるだろうに、それが許せないというのだから本当に色々と拗らせている。
出会った頃はもう少しマシだった気がするんだけどな。
最終的に、今では自己肯定感の低い相手じゃないと長続きしなくなってしまい、もっぱら夜のお相手は所謂男娼のような恋愛感情を挟まない相手ばかりになったようだけど……男娼がそのままジークの恋人になったりすることもあるので、結局は同じ結果――つまり破局ばかりしていた。
(ジークの恋愛観は正直言って歪んでるよな~。別れてもいつもたいして堪えた様子もないし)
心の清らかな相手を求めていると言いながら、実際には綺麗な心の持ち主を汚したいという暗い深層心理が働いているのでは? というのが最近の僕の見解だ。
もしそうなら、ジークと恋愛する相手には心の底から同情する。
表立って最低な男と、そうは見えないが無意識に最低な男。どちらかといえば後者の方が問題を抱えていると客観的に見れば誰でも思うだろう。でも周りが気づかなければ、クズだとは言われない。
それに、ジークは友人として冒険者としては非常に信頼のおける相手だ。
恋愛以外でも、中々理解し辛い独特の価値観のある奴だけど、僕との相性は良いしね。
「はー……ったく。ごめんな。今日は帰ってくれるか?」
僕の剣幕に声も出せずに震える男の頭を、優しく微笑みながらジークが撫でると、男は頬を赤く染めた。男の身なりからして、おそらくは男娼なのだろうなと僕は当たりをつける。
ジークが選ぶほどに心の綺麗な相手だからなのか、それとも僕が怖いのか、彼は特に文句を言うこともなかった。
ぺこりと僕にお辞儀しながら去っていく姿を見て、さすがに少しだけ良心が咎めた。
もう少し、優しく帰ってくれるように言えば、あの子ならきっとすぐに帰ってくれただろう。やりすぎたかもしれないと少しだけ後悔するが、後の祭りだ。
「……ほんとさ、ジークってば趣味悪いよねぇ」
扉が閉められた後、気まずくて本心を誤魔化すように僕がそう呟くと、ジークはまた呆れた様子で本日二回目のため息を吐いた。
そのまま、とにかく落ち着いて座れと近くの椅子を勧めてられて、僕は仕方なく椅子に腰をかけ、ジークと向き合う。
「シュナ。何があったかはしらないが、あんな風にあたるのはよせ。お前は顔が綺麗で迫力がありすぎる。もう少し、言葉を選んでだな......」
「いや、それジークが言う? 僕よりも失言多いのは君だよ?」
僕は思わずそう言い返していた。
竜人であるジークは、正直言って僕よりも遥かに無神経なところがあるし、そういうところが原因で地味に問題を起こすことも今までに何度かあった。
「ぐ。そ、それよりどうしたんだ? いきなり。最近ずっとご機嫌だったよな、お前」
ジークは僕の言葉に一瞬うっと黙り込んだが、聞いていませんでしたとばかりに、誤魔化すようにそう言ってきた。
話題の変え方が強引すぎるが、これ以上僕の態度について色々言われるのも鬱陶しい。
どちらにせよ、これ以上絡んでも不毛なだけだし、僕もこれ以上は言い返すのを辞めた。
「……別にたいしたことじゃないよ」
僕がそう言うと、ジークは嫌な……というか、少し怒ったような表情を浮かべた。
「いや、お前なぁ……。たいしたことじゃねぇなら、急いであの子帰さなくても良かっただろうが。終わってからで良くないか? 相当の事件でもあったのかと思いきや……。せっかく、これからってところで入って来るか、普通!」
どうやら僕の言葉がお気に召さなかったようだ。
「いや、帰したのはジークでしょ」
しかし、僕からしてみれば、たいしたことじゃないというのは十分たいしたことなのだ。
ヨルムカトル王国で、僕は運命の相手と出会いを果たした。
――けれど、その運命には邪魔者の嫌な匂いがべったりとついていた。
ガゴン! と大きな音を立てて思い切り扉を蹴り開けた僕の行動に、宿屋のベッドでいちゃついていた二人がぎょっとした様子でこちらを振り返った。
「……おいおい、シュナ。扉……」
「壊れてないし~」
どかどかと足音をたてながら部屋に入ると、二人の片方――友人でもあり、冒険者の仕事での相棒であるジークが呆れた表情でこちらを見ながらため息を吐いてきたけど、僕は謝る気はない。
ジークも一応は言ってみたものの、僕にそんなこと期待はしていないのかそれ以上は言ってはこなかった。
王城内への招待を断り、神子の旅に同行する守護者の一人でもある彼と、この宿屋の一室を共同で取ったのは、約二週間程度前の話だ。
最初は僕もジークも王城内に用意された部屋で滞在する予定だったのだが、色々な事情から取りやめた。
かなり値の張る高級宿屋に長く泊まるのは、金銭的には中々の痛手ではあった。けれど、ジークと僕の稼ぎなら不可能ではないし、面倒くさそうな匂いしかしなかった王城内に泊まるという選択をしなくて良かったと、今では心の底から思えるので、その時の判断は大正解だったと言える。
「てかさ、君帰ってくれる? 邪魔だからさ」
「ひっ……!」
ぼけーっとしていたもう一人の男を僕がきつく睨みつけると、男がびくりと身体を震わせた。はっきり言って美しいとは言い難いその男は、ジークとは全く釣り合っていないのだが、それがジークの好みなのだから仕方ない。僕には全く理解が出来ない好みではあるけどね。
ジークは、燃えるような赤い髪が印象的な、野性味あふれる美丈夫で、彫が深く男らしい顔立ちと、屈強な肉体美から、寝る相手が絶えることが無い程に人気な男だ。
まぁ、お貴族様や特別なステータスを求めるような相手から見ると、ワイルド過ぎる装いもあってか、イマイチ人気は無いようだけど。
不潔では無いけど、機能性重視なんだよね。ジークの好む格好は。
それに、下品では無いけど品行方正とは言い難い。市井の奴らは顔とか金、力みたいな分かりやすいものに惹かれるけど、貴族や自分が上流階級だということに誇りとやらがあるとそういう訳にはいかないらしい。
まぁ、それでもジークは十分モテ男だけどね。
そんな彼のお眼鏡にかなうのは、いつも器量の悪い男ばかりだ。
不細工専門。ジークは周りからそう言われている。
ジークは一般的に美人や可愛い、カッコイイという顔立ちを好まないのだ。美的感覚は正常で、誰が美人かは分かるそうなのだが、とある理由から多くの美形が恋愛の対象外となってしまうからだ。
――竜人。それがジークの種族だ。竜の血を引く彼らは、他の種族とは一線を画している存在だ。彼らは本来は、外見の美しいものを愛玩動物として囲う習性がある一方、番う相手には外見の美しさよりも潜在的能力の高さを重視する。
戦いに重きを置く彼らにとっては、いくら相手の外見が美しくても、能力が低ければただの遊び相手でしかない。
一般的には武力と魔力を重視し、次に知力の高さを好むと言われているが、基準は結構あいまいだ。
ジークは彼らの中では少々、いやかなりの変わり者だ。
何せジークにとって重要なのは外見でも能力でもなく、魂や心の美しさなのだ。エルフやドワーフと同じで、心の清らかな者でないと受け入れられないため、自分に自信のあるようなタイプが多い美形が苦手らしいというのが本人の談だが、エルフたちと同じとは正直思えない。
エルフたちは外見には拘らないけど、ジークはむしろ美しくないことに拘っているし。
美形の中にもいる内気な男には、大抵既に相手がいるだけで偶然だってジークは言っていたけどさ。
個人的には絶対、単純に不細工が好きなだけなんじゃないかって思うんだよね……。
それに、ジークの好みに関してはもう一つ厄介なところがある。
それは、一般的に性格が悪いと言われるほどの目に見えた欠点でなくても、ふとした切欠で相手の嫌な部分が目につくと駄目になるという所だ。
この点は、まだエルフやドワーフの方が全然寛容だ。
エルフやドワーフは魂の美しい相手を好むけれど、さすがにある程度は許すし、許容範囲というものがある。
例えば嫉妬とか、何か理由があって誰かを憎んでしまうとか、そういう限定的な部分に関しては、程度にもよるが、別段強拒否反応は示さないし、愛していた相手の内面がすっかりと変容してしまっても、すぐには「じゃあさようなら」とはならない。
けど、ジークの場合は違う。すごく許せる範囲が狭いのだ。嫉妬とか、本来なら状況によっては可愛らしいと思えるような一面を見せられても駄目になる場合があると聞いた時は、同情すると同時にかなり引いたのを覚えている。
外見の美醜は関係なく、本来恋人同士であれば嫉妬することは往々にしてあるだろうに、それが許せないというのだから本当に色々と拗らせている。
出会った頃はもう少しマシだった気がするんだけどな。
最終的に、今では自己肯定感の低い相手じゃないと長続きしなくなってしまい、もっぱら夜のお相手は所謂男娼のような恋愛感情を挟まない相手ばかりになったようだけど……男娼がそのままジークの恋人になったりすることもあるので、結局は同じ結果――つまり破局ばかりしていた。
(ジークの恋愛観は正直言って歪んでるよな~。別れてもいつもたいして堪えた様子もないし)
心の清らかな相手を求めていると言いながら、実際には綺麗な心の持ち主を汚したいという暗い深層心理が働いているのでは? というのが最近の僕の見解だ。
もしそうなら、ジークと恋愛する相手には心の底から同情する。
表立って最低な男と、そうは見えないが無意識に最低な男。どちらかといえば後者の方が問題を抱えていると客観的に見れば誰でも思うだろう。でも周りが気づかなければ、クズだとは言われない。
それに、ジークは友人として冒険者としては非常に信頼のおける相手だ。
恋愛以外でも、中々理解し辛い独特の価値観のある奴だけど、僕との相性は良いしね。
「はー……ったく。ごめんな。今日は帰ってくれるか?」
僕の剣幕に声も出せずに震える男の頭を、優しく微笑みながらジークが撫でると、男は頬を赤く染めた。男の身なりからして、おそらくは男娼なのだろうなと僕は当たりをつける。
ジークが選ぶほどに心の綺麗な相手だからなのか、それとも僕が怖いのか、彼は特に文句を言うこともなかった。
ぺこりと僕にお辞儀しながら去っていく姿を見て、さすがに少しだけ良心が咎めた。
もう少し、優しく帰ってくれるように言えば、あの子ならきっとすぐに帰ってくれただろう。やりすぎたかもしれないと少しだけ後悔するが、後の祭りだ。
「……ほんとさ、ジークってば趣味悪いよねぇ」
扉が閉められた後、気まずくて本心を誤魔化すように僕がそう呟くと、ジークはまた呆れた様子で本日二回目のため息を吐いた。
そのまま、とにかく落ち着いて座れと近くの椅子を勧めてられて、僕は仕方なく椅子に腰をかけ、ジークと向き合う。
「シュナ。何があったかはしらないが、あんな風にあたるのはよせ。お前は顔が綺麗で迫力がありすぎる。もう少し、言葉を選んでだな......」
「いや、それジークが言う? 僕よりも失言多いのは君だよ?」
僕は思わずそう言い返していた。
竜人であるジークは、正直言って僕よりも遥かに無神経なところがあるし、そういうところが原因で地味に問題を起こすことも今までに何度かあった。
「ぐ。そ、それよりどうしたんだ? いきなり。最近ずっとご機嫌だったよな、お前」
ジークは僕の言葉に一瞬うっと黙り込んだが、聞いていませんでしたとばかりに、誤魔化すようにそう言ってきた。
話題の変え方が強引すぎるが、これ以上僕の態度について色々言われるのも鬱陶しい。
どちらにせよ、これ以上絡んでも不毛なだけだし、僕もこれ以上は言い返すのを辞めた。
「……別にたいしたことじゃないよ」
僕がそう言うと、ジークは嫌な……というか、少し怒ったような表情を浮かべた。
「いや、お前なぁ……。たいしたことじゃねぇなら、急いであの子帰さなくても良かっただろうが。終わってからで良くないか? 相当の事件でもあったのかと思いきや……。せっかく、これからってところで入って来るか、普通!」
どうやら僕の言葉がお気に召さなかったようだ。
「いや、帰したのはジークでしょ」
しかし、僕からしてみれば、たいしたことじゃないというのは十分たいしたことなのだ。
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