おまけの神子は帰ることができない~平凡な筈の俺が美形たちに囲い込まれる話〜

宮沢ましゅまろ

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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵

にゃんこ(?)と俺⑤

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「シュナ。ごめん、待った?」

「ううん。全然待ってないよ~」

 あの日から、シュナとは薔薇園で度々会うようになった。

 大魔術師であるシュナは、当然かなりの有名人だ。あまりヨルムカトル王国には来た事がない為、顔がはっきりと知られているというほどではないとの事だが、黒猫の獣人である事は知られているので、王城内で堂々と会うと色々と煩わしいという理由から、比較的人目につかないこの場所を逢瀬の場に選んだ。

 ちなみに、シュナは当然神子の守護者に選ばれており、今回ヨルムカトル王国へと入国したのも、その任務の為だという。どうやら、世界中で選抜された守護者たちが、この王城に続々と集まってきているらしい。

 神子の守護者の人数は、総勢で十三人。俺としてはたったそれだけ?という感想だったが、神子を守る事が出来る程の手練れは限られているらしく、少数精鋭な様だ。
 それに、凶暴化している魔物たちも何とかしないといけないし、国の防衛にも数は必要だから、そこまで力を割けないというのもあるんだろうな。
 勿論、現地では兵士や魔術師なども力は貸してくれるらしいし、完全に十三人で戦うと言う訳ではないらしいし。

 ちょっと他の守護者の人に興味が出てきたかも……。

 ちなみに、俺がシュナ以外で顔と名前が一致するくらい面識があるのは、魔法剣士のラインハルト、聖騎士のアンヘル、あとは騎士団長のハーミット、かな? 他にも居るには居るけど、遠目でちらりとしか見たことがない。何せ他の守護者は俺の事嫌ってるっぽいし。

 しかし、それを踏まえた上で今一度考えると、実際の魔王を消滅させる旅は、俺が考えているよりもかなり危ない旅だよなぁ……。
 




「ラインハルトってさ、あんな冷徹って感じの雰囲気なのに結構、面白い奴でさ……」

「ふ~ん」

 持ち込んだお菓子を並んで食べながら、俺はラインハルトの事をシュナに話した。

 シュナは、以前に同じ空間に居合わせた事はあるらしいんだけど、実際に話したことは無いらしい。
 性格的にも合わないと思うし、と言うシュナに、俺は苦く笑うしかなかった。確かに、ラインハルトとは相性は悪そうだ。

(って言うか、ラインハルトの事、興味無さそうだよなぁ……)

 と言うか、ここ数日、俺がラインハルトの事を話すと、ちょっと機嫌悪くなる様に思える。
 
 最初の頃はラインハルトの能力などをシュナも褒めていたので、ラインハルトの事を嫌っているという感じではないのだが、どうも違和感があるのだ。

「……シュナ、何かあったのか?」

「べっつにぃ~?」

「いや、全然別にじゃないよな、それ!?」

 シュナが口を尖らせる仕草は、さすがに美形なのもあって様になっているけれど、まるで拗ねた子供みたいである。俺の言葉に、シュナはちろりと俺に流し目を送ると、肩を竦めた。

「んー。だってさ~、トオルってば毎日毎日、ラインハルト卿の事ばっかりなんだもん。折角僕と話してるのに、他の男の事ばっかりってちょっと辛いな~って」

 ゆらりと揺れるシュナの黒のしっぽが、べしんべしんと地面を叩くのを見て、俺はちょっとだけ慌てた。
 と言うか……。

「俺、そんなにラインハルトの事ばっかり話してた……?」

「うん」

 シュナに言われて、成程と俺は納得した。

(確かに面識のない奴の話を延々とされても楽しくないよなぁ)

 地球でもあったが、友達の友達の話みたいなそう言う話題って、たまになら良いんだけど、ずっと続くと嫌になるものだ。俺の場合は、対等に話が出来る様な相手は、今までラインハルトくらいだったので、仕方のない所はあるんだろうけど、気遣いが足りなかったと俺は反省した。

「なんかごめんな、シュナ。俺、あんまり人と話す機会って無くて、つい……。あ、ならさ。俺の世界の話とかなら、シュナは興味ある?」

「んー。興味が無い訳じゃないんだけどねぇ」

 俺の世界の話なら、こっちにない珍しいものもあるから、少しは楽しめるかなと思ったんだけど、シュナはあんまり食いついて来なかった。シュナって、魔導士なのにあんまり探求心がないんだよな。どうも、魔術師には実戦タイプと研究タイプがいるらしくて、シュナは前者。珍しい魔法がどうとかより、実用性があるかないかなんだよね。

 魔法で出来ない事の方が少ないので、特定条件でしか使用できない科学には興味が薄いらしい。

(じゃあ、シュナの話を……って言っても、シュナの話は何と言うか俺にはちょっと難しいんだよなぁ。うーん)

 せめてラインハルトとシュナが面識があれば、もう少し話が弾むんだろうけれど、ラインハルトが忙しい事もあって中々シュナを紹介できていない。二人が仲良くなれるかは別として、俺と友達になってくれたシュナを、ラインハルトには紹介したかったし、逆もそうだ。

 どうしたものかと考える俺を、シュナっがじっと見つめていた。

「ん? どうした?」

「……いや、トオルって本当に鈍いなって。まぁ、異世界は女性がいるからってのもあるんだろうけど……」

 俺が首を傾げると、シュナが大きくため息を吐いた。



 その後のシュナとの会話で、ラインハルトが忙しいのであれば、シュナの方から出向いてくれると言う話になり俺は喜んだ。

「まぁ、一度顔を見ておきたかったしねぇ」

 呑気な俺は、仲良しこよしとまでは行かなくても、ラインハルトとシュナなら大人の付き合いが出来ると考えていた。その時までは。





「おい。なんだ、それは」

 端整な顔を引きつらせて、俺の膝の上で丸くなるを睨んだラインハルトが低い声で言った。

 さすがにシュナもすぐにというのは難しいのでは? と思っていたのだが、あくまで賓客扱いであるシュナには公務は無く、あっても夜会への参加程度で日中は時間が取れると聞き、早速部屋に呼んだのが今日。
 人の姿ではなく、獣の姿で出迎えると聞いて正直、それだとただのペットでは? と聞いたら、そっちの方が僕の得だからと、こうして俺の膝の上にシュナは乗っているのだが……。

「え? あ、ああ、俺の新しい友達なんだ、けど……?」

 いつも俺の部屋に入ってくる時のラインハルトは、嬉しそうな笑みを浮かべている事が多いのだが、ラインハルトの機嫌が急降下していくのを肌で感じる。

 顔が怖い。

 無言でじっと見つめられると、まるで俺が何かいけない事をしてしまって責められている様な気分になってきて、俺は顔を引きつらせる。

 シュナの存在を話すと、最初は警戒していたラインハルトだったが、会う事には同意をしてくれた。大魔導士であるシュナの存在は、ラインハルトに興味を持たせるのに十分だったらしい。
 はっきりとした面識はなくても、ラインハルトもシュナの事は知っていた。

(なんか、まずいことしたのかな、俺……!)

 昨夜も和やかに別れた筈なのに、この不機嫌さは一体……。

「にゃ~ん」
 
 シュナは空気を読まずに俺の膝の上で可愛らしく首を傾げながら体をすりすりと擦り付けている。それを見たラインハルトの眦が更に吊り上がった。

「……この……っ、徹から離れろ!?」

「にゃー!!!」

 ラインハルトが手を伸ばそうとすると、シュナが威嚇するようにシャーっと鳴いた。

「ラインハルト、乱暴は良くないから!」

 俺は慌ててシュナを抱き上げると、ラインハルトから庇う。
 人の姿ならともかく、今のシュナはちょっと大きな猫のサイズしかないのだ。万が一という事もある。

「にゃ~ん」

 甘えた声を出すシュナは可愛い。猫なら膝に乗るのは当たり前の事だし、むしろ俺得なので今後もぜひ抱っこさせてほしい位だ。

「こんなに可愛いんだぞ?」

 シュナは獣人だけど、猫の姿なら絵面的には何の問題も無い筈、と俺は無邪気にラインハルトに笑いかける。
 けど、俺の言葉にラインハルトの機嫌は更に悪くなり、むしろ「お前……」と声も地を這うようなものに変わり、俺は小さく悲鳴を上げた。

(なんで、そんなに怒ってるんだ……っ!)

「獣人だろう、そいつは!!」

「……えっ!? あ、わ、分かるんだ?」

 ラインハルトが、シュナが獣人だと見抜いていると知って、俺は驚いた。

 もしかして、猫みたいな愛玩動物はこの世界にはいないのか? と首を傾げる俺に、ラインハルトはお前は馬鹿かと怒鳴る。

「……魔力が扱える者は、相手の魔力で相手の本質を見抜くんだ! そもそも、愛玩動物は魔力が殆ど無いに等しい者が多い。そんな膨大な魔力の愛玩動物が居る訳がない。使い魔だとしても、あり得ないぞ」

 初めて知る事実に俺は「へー」と呑気な声を上げる。

 つまり、魔法が使える人たちからしたら、見ただけで獣人かどうか分かるって事なんだな。

「徹、を膝から降ろせ」

「えぇ……。別に良いじゃん? 嫌がってないよな、シュナ?」

 せっかくのもふもふを邪魔されて、俺は口を尖らせた。シュナだって甘えてくれているのだから、このまま抱っこしたままでも良いと思うんだ。

「にゃ~ん」

「ほら!」

 シュナに同意を求めると、シュナも元気よく「勿論、いいよ!」と鳴いてくれた。

 けれど、ラインハルトはそんな俺たちを見て、真剣な声でこう叫んだ。

「……違う! 羨ましいからだ!!」

「羨ましいのかよ!?」

 俺様美丈夫のパワーワードに、俺は盛大に突っ込んだ。ラインハルトが冷徹で素敵だと言っている王城内の人に見せたら、絶対引くだろうな、これ。

「にゃ~ん」

 そんな中、シュナはラインハルトが怒るのも何のその、悠々自適と言った様子で俺の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らす。

 シュナが俺の顔をザラりとした舌で舐めたのを見たラインハルトの激昂する姿に、シュナが楽しそうに鳴くのを見た俺は、もしかして雲行きが怪しくなってきたのでは……? と固まった。

 何となくだけど、二人(一人と一匹?)の間に火花が見える気がする……。
 
(仲良く……出来ないんじゃないか? ひょっとして)

 ラインハルトとシュナの出会いは、順風満帆とはいかない様だ。
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