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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵
にゃんこ(?)と俺④-1
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「自分の置かれた状況、分かったよね?」
シュナの言葉に俺は頷いた。
確かに今すぐ暗殺者を差し向けられるわけではないだろうが、ここで何もせずに放置した場合、いつか俺に悪い事が起こる可能性はかなり高い。たとえ結果的には神子が何もしなかったとしても、ラインハルトの信奉者や腹に一物あるような貴族たちが、俺に何らかの制裁をしようとする事は、シュナが言う通り十分あり得るだろう。
とりあえず、楽観視できるほど甘い状況ではないという訳だ。
「よしよし。で、さ、トオルは早い所、ラインハルト卿以外の友人を見つけるべきだと僕は思うんだよね。ヒトって、自身に関係ない人や嫌いな人の為には動かなくても、好意のある人の為なら結構頑張ってくれるからさ。友達が出来れば、世間の目が出来て、トオルへの悪意も大分弱まると思うよ。味方になってくれるとは断言できないけれど、小さな不満でもそれが複数なら話は変わってくるから」
「問題を避けたい人たちは、手を出してこないって事か?」
「そそ~」
シュナは俺の問いに満足そうに微笑むと、指でピースを作って見せる。
異世界でピース? と最初は戸惑ったが、過去の神子たちが残した文化は割と根付いていて、この世界の人たちの何気ない仕草を見ていると、まるで地球に居るかのような錯覚を感じる時がある。
特にシュナは獣の特徴以外は俺たちに比較的近い事もあって、余計に親近感が沸いた。
(でも、シュナの言うとおりだ。打算で友達を作るって言うのはちょっと抵抗あるけど、そんなこと言ってる場合じゃないんだ、もう)
俺は元の世界で、周りの人間にとても恵まれていた。
学生時代から、友達は皆良い奴ばかりだったし、就職してからも、仕事は忙しかったけれど、上司も同僚も優しかった。問題という問題を起こしたこともない俺の人生は、悪意とは殆ど無縁だったと言って良い。
反対に全く目立たなかった平凡な人生だったが、今思えば丁度良い塩梅だったんだろう。
(失って初めて気づくんだな、こういうのって)
はっきり言って、この世界で俺は全く必要とされていない。
能力が無いのだから仕方のない話なのだけれど、それでも元の世界では平凡な俺でも出来る事はあったのに対して、この世界では本当に何もできないのだ。
寝て食べて勉強するだけ。
人間、仕事をしている時はニートになりたいと思うものだが、実際に何も出来ない状況が続くと、精神的に落ち込んでしまう。
「……ル、トオ……」
(多分、あっちの世界に居た時の俺なら、もっと早くにてきぱき行動できていたよな……)
「トオル!!」
「うわっ」
考え込んでいた俺をシュナの大きな声が現実に呼び戻した。
「いきなり、大声出すなよ!? びっくりするだろ」
しかも、何でかめちゃめちゃ至近距離に近づかれている。
至近距離で見るシュナの顔は、本当に整っている。
よく見れば瞳も猫の様で虹彩が人間とは違っていた。
「いや、最初は普通に名前呼んだんだよぉ? 反応無くて仕方なく大声出したんだからぁ」
僕あんまりそういう感じじゃないんだけどぉ~と、間延びしたその喋り方に、俺は苦笑いするしかない。とはいえ、ぼーっとしていた俺が明らかに悪い。
「あぁ、うん。なんか、ごめんな?」
ちょっとだけ不機嫌そうだったシュナだが、俺が素直に謝るとすぐに嬉しそうに笑って見せる。ゆらりと揺れる長いしっぽが、シュナの気持ちに比例してかなり激しく揺れていた。
嬉しいとしっぽが揺れるのは、地球の猫と同じみたいだ。
「まぁ、良いけどさぁ~」
じっと見つめると、どこか照れた様子で視線を逸らされる。
「何を俺に言ってたんだ?」
とりあえずだ。せっかく何か話そうとしてくれたのに、スルーするのは申し訳ないので、俺はシュナの話を聞くことにした。
色々と俺に忠告してくれたのにそれは不義理だろうし、それに今のところ害はなさそうだ。
「うん。実は~、トオルのこの問題を解決するのに僕に名案があるんだぁ~」
「名案?」
「うん! とっておきの名案だよぉ」
俺が首を傾げると、シュナはにんまりと悪戯っ子の様に笑った。
「今、トオルはさぁ、ラインハルト以外にも味方が欲しい訳でしょ~? しかも、簡単には神子とか貴族に屈しない、そこそこ力のあるのがさぁ」
「うん、まぁ……な」
権力で抑えつけられたらすぐに手のひらを反すタイプの人たちと一緒に行動したところで、抑止力になる訳がない。蝙蝠みたいに渡られるくらいなら、最初から関係がない方が良いに決まっている。スパイにでもなられたら最悪だし。
そこそこ多忙であるラインハルトだけに頼るというのは現実的ではないので、本格的に身の振り方を考えるべきだ。
「ひょっとして、そういう人に心当たりがあるの、か?」
「いるよぉ? 東の獣人たちの長で~、この世界で一位二位を争う大魔術師でぇ~、神子に絶対に懸想しない上、社交的、なおかつ超絶美青年が~」
俺が聞くと、シュナがどこか胸を張った様子でそう言った。
この世界の獣人は、大きく分けて二つのタイプが居ると本では書かれていた。
一つは獣人の国に住んでいるタイプ。彼らは獅子の皇帝に付き従っており、獣人自体の種類は一切統一されていない。性格的もどちらかと言えば、群れで行動するのを好むのが多いらしい。
もう一つは、集落を作っているタイプだ。
小さな群れはそこら中にいるらしいが、その中でも大きな四つの集落は、特別な存在だ。彼らは集落としては結果的には群れてはいるが、本能的に個人行動を好み、誰かに従う事を良しとしない獣人たちで、それぞれ東西南北であらわされている。
シュナの言葉に俺は頷いた。
確かに今すぐ暗殺者を差し向けられるわけではないだろうが、ここで何もせずに放置した場合、いつか俺に悪い事が起こる可能性はかなり高い。たとえ結果的には神子が何もしなかったとしても、ラインハルトの信奉者や腹に一物あるような貴族たちが、俺に何らかの制裁をしようとする事は、シュナが言う通り十分あり得るだろう。
とりあえず、楽観視できるほど甘い状況ではないという訳だ。
「よしよし。で、さ、トオルは早い所、ラインハルト卿以外の友人を見つけるべきだと僕は思うんだよね。ヒトって、自身に関係ない人や嫌いな人の為には動かなくても、好意のある人の為なら結構頑張ってくれるからさ。友達が出来れば、世間の目が出来て、トオルへの悪意も大分弱まると思うよ。味方になってくれるとは断言できないけれど、小さな不満でもそれが複数なら話は変わってくるから」
「問題を避けたい人たちは、手を出してこないって事か?」
「そそ~」
シュナは俺の問いに満足そうに微笑むと、指でピースを作って見せる。
異世界でピース? と最初は戸惑ったが、過去の神子たちが残した文化は割と根付いていて、この世界の人たちの何気ない仕草を見ていると、まるで地球に居るかのような錯覚を感じる時がある。
特にシュナは獣の特徴以外は俺たちに比較的近い事もあって、余計に親近感が沸いた。
(でも、シュナの言うとおりだ。打算で友達を作るって言うのはちょっと抵抗あるけど、そんなこと言ってる場合じゃないんだ、もう)
俺は元の世界で、周りの人間にとても恵まれていた。
学生時代から、友達は皆良い奴ばかりだったし、就職してからも、仕事は忙しかったけれど、上司も同僚も優しかった。問題という問題を起こしたこともない俺の人生は、悪意とは殆ど無縁だったと言って良い。
反対に全く目立たなかった平凡な人生だったが、今思えば丁度良い塩梅だったんだろう。
(失って初めて気づくんだな、こういうのって)
はっきり言って、この世界で俺は全く必要とされていない。
能力が無いのだから仕方のない話なのだけれど、それでも元の世界では平凡な俺でも出来る事はあったのに対して、この世界では本当に何もできないのだ。
寝て食べて勉強するだけ。
人間、仕事をしている時はニートになりたいと思うものだが、実際に何も出来ない状況が続くと、精神的に落ち込んでしまう。
「……ル、トオ……」
(多分、あっちの世界に居た時の俺なら、もっと早くにてきぱき行動できていたよな……)
「トオル!!」
「うわっ」
考え込んでいた俺をシュナの大きな声が現実に呼び戻した。
「いきなり、大声出すなよ!? びっくりするだろ」
しかも、何でかめちゃめちゃ至近距離に近づかれている。
至近距離で見るシュナの顔は、本当に整っている。
よく見れば瞳も猫の様で虹彩が人間とは違っていた。
「いや、最初は普通に名前呼んだんだよぉ? 反応無くて仕方なく大声出したんだからぁ」
僕あんまりそういう感じじゃないんだけどぉ~と、間延びしたその喋り方に、俺は苦笑いするしかない。とはいえ、ぼーっとしていた俺が明らかに悪い。
「あぁ、うん。なんか、ごめんな?」
ちょっとだけ不機嫌そうだったシュナだが、俺が素直に謝るとすぐに嬉しそうに笑って見せる。ゆらりと揺れる長いしっぽが、シュナの気持ちに比例してかなり激しく揺れていた。
嬉しいとしっぽが揺れるのは、地球の猫と同じみたいだ。
「まぁ、良いけどさぁ~」
じっと見つめると、どこか照れた様子で視線を逸らされる。
「何を俺に言ってたんだ?」
とりあえずだ。せっかく何か話そうとしてくれたのに、スルーするのは申し訳ないので、俺はシュナの話を聞くことにした。
色々と俺に忠告してくれたのにそれは不義理だろうし、それに今のところ害はなさそうだ。
「うん。実は~、トオルのこの問題を解決するのに僕に名案があるんだぁ~」
「名案?」
「うん! とっておきの名案だよぉ」
俺が首を傾げると、シュナはにんまりと悪戯っ子の様に笑った。
「今、トオルはさぁ、ラインハルト以外にも味方が欲しい訳でしょ~? しかも、簡単には神子とか貴族に屈しない、そこそこ力のあるのがさぁ」
「うん、まぁ……な」
権力で抑えつけられたらすぐに手のひらを反すタイプの人たちと一緒に行動したところで、抑止力になる訳がない。蝙蝠みたいに渡られるくらいなら、最初から関係がない方が良いに決まっている。スパイにでもなられたら最悪だし。
そこそこ多忙であるラインハルトだけに頼るというのは現実的ではないので、本格的に身の振り方を考えるべきだ。
「ひょっとして、そういう人に心当たりがあるの、か?」
「いるよぉ? 東の獣人たちの長で~、この世界で一位二位を争う大魔術師でぇ~、神子に絶対に懸想しない上、社交的、なおかつ超絶美青年が~」
俺が聞くと、シュナがどこか胸を張った様子でそう言った。
この世界の獣人は、大きく分けて二つのタイプが居ると本では書かれていた。
一つは獣人の国に住んでいるタイプ。彼らは獅子の皇帝に付き従っており、獣人自体の種類は一切統一されていない。性格的もどちらかと言えば、群れで行動するのを好むのが多いらしい。
もう一つは、集落を作っているタイプだ。
小さな群れはそこら中にいるらしいが、その中でも大きな四つの集落は、特別な存在だ。彼らは集落としては結果的には群れてはいるが、本能的に個人行動を好み、誰かに従う事を良しとしない獣人たちで、それぞれ東西南北であらわされている。
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