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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵
にゃんこ(?)と俺①★
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「今日はここまでにしよう」
「え、もう良いの?」
昼下がり。リチェルさんの淹れてくれたお茶を飲みつつ、ラインハルトからこの世界についての知識を学んでいた俺は思わずそう聞き返していた。
勉強を始めてから、まだ二時間も経っていないからだ。
「ああ。お前は飲み込みが早いし、内容の区切りも丁度ついたからな。それに、神子でないと分かった以上、然程根を詰める必要もないからな」
「ああ、そっか!」
俺は思わず納得していた。
神子という存在は、ただ次のを選んだり祈りを捧げれば良いというものではない。
もう少し時間が経てば、この国を出立して世界を回り魔物たちを退治するために力を使わなければいけないし、それが終わったら王妃となるのだから、作法なども学ぶ必要がある。
加えて、異世界人にとってはこの世界の基本的な知識すらないのだから、覚える事は膨大だった。
だが、神子ではないのなら、この世界の基礎さえ分かっていれば何の問題も無いのだ。
幸運にも、俺が知っている中世やファンタジー作品の作法などと、この世界は一致する事も多かったので、正直そこまで俺は不便していない。
(今までは俺も神子候補だったから、スケジュールびっしりだったわけか……)
ラインハルトとの勉強会は、試練の後しばらくの間はなくて、今日が久しぶりの勉強会だった為に気づかなかったが、とりあえず現時点での俺の知識は及第点には達したって所なんだろう。
ちなみに、神子が伊藤だと判明した後、俺の事を気に入らない伊藤からの嫌がらせや、俺を追い出そうとする勢力などがちょこまかと纏わりついて来ていたが、ラインハルトが俺の後見人をかって出てくれた事もあって、最近は沈静化している。
公爵の地位は相当偉いというか、ラインハルトは国王陛下とは遠縁ではあるが血縁関係にあるのだから、当然権力もある訳だ。
ラインハルト自身は、正直その立場を疎んじているんだろうけど、俺としては非常に助かっている。
ラインハルトが言えば、多少の問題のある事柄でも、通るんだから。
(まぁ、他の国同士の争いの仲裁とかやらされてるんだし、それくらいは便宜を図ってくれるだろうな~)
ヨルムカトル王国は、不可侵の国と言えば聞こえはいいのだけれど、色々と責任も重い上、かかる重圧は他国の比ではない。
ラインハルトが過去の交渉事の中身を差しさわりのない部分について教えてくれたが、会社で言う中間管理職みたいな立場で正直、引いた。
「ラインハルト、これから時間ある?」
教材の本を片付けながら、俺はそう尋ねた。
あの告白劇の一幕から、最初はラインハルトから逃げまくっていた俺だったが、別段無理矢理迫ってくるわけではないと分かってからは、以前通りの関係を保っている。
口説いては来るけれど、俺が嫌だって言えばちゃんと引いてくれるし、リチェルさんも俺の意を汲んでくれて、あまりにラインハルトが問題発言をするようなら追い出してくれるって言うしね。
リチェルさんのほうが爵位は遥かに下だけど、リチェルさんはラインハルトに本当に遠慮がない。
だが、今の所リチェルさんも俺も、ラインハルトを追い出すというような事には至っていない。
「すまない。実は今日は……」
残念そうに顔を曇らせるラインハルトに、俺は「あっ」と気づいた。
「ごめん、そうだった。今日、パーティなんだよね? 俺、もう関係なくなったからすっかり忘れてた」
元々は、神子候補だった頃は、殆ど強制的に王城内で行われるパーティに一応は顔を出していた俺だったが、神子ではないと判明してからは行く回数はかなり少なくなり、現在では一切行っていない。
場違いだし、伊藤の視線も正直怖い。
何せ、パーティに参加すると、ラインハルトが俺にべったりだし、騎士団長のハーミットさんも、ラインハルトと幼なじみで仲が良いのもあってか俺の所に来るもんだから、伊藤の顔が鬼の様なのだ。
ハーミットさんは、おそらくは伊藤の様な積極的なタイプは苦手なんだろう。伊藤に対しても一定の距離を保って接しているし、状況によっては避けているんだろうなと分かるくらい、結構態度が顕著だった。
これ以上、伊藤を刺激するのは得策ではないと踏んだ俺は、どうしてもという時以外は不参加とする事を決めた。そもそも俺はパーティ自体もそんなに好きではないのだ。食べて飲むだけなら、まだ楽しみも見いだせたのだろうが、メインはあくまで会話だ。権力者たちのキツネとタヌキの化かし合いのような事が行われているのだから、関わりたくない。
神子が伊藤だと分かって以降は、王城内で殆ど毎日パーティが催されているらしい。
「ああ。そうだ。正直、私も行きたくないが、私の立場上、完全に断ることは不可能だからな。今日行けばしばらくは出なくても良いのだから、今日だけの我慢と思う事にする。ちなみに勿論、ハーミットも強制参加だ」
「うわぁ……」
心底同情する。
「お前が折角誘ってくれたというのに……」
「いや、また次回があるからさ!」
申し訳なさそうに謝るラインハルトに俺は慌てて言った。
そもそもラインハルトは、俺の事をいつも優先してくれている。
そんな風に謝って貰わなければいけない話じゃないのだ。
「そうだな。次回は、ぜひ」
ため息を吐きながらも悲しそうに去ってゆくラインハルトの後ろ姿はちょっとだけ可愛かった。
(ああ、でも残念だなぁ。ラインハルトにも俺の新しい友達を紹介したかったのに)
「え、もう良いの?」
昼下がり。リチェルさんの淹れてくれたお茶を飲みつつ、ラインハルトからこの世界についての知識を学んでいた俺は思わずそう聞き返していた。
勉強を始めてから、まだ二時間も経っていないからだ。
「ああ。お前は飲み込みが早いし、内容の区切りも丁度ついたからな。それに、神子でないと分かった以上、然程根を詰める必要もないからな」
「ああ、そっか!」
俺は思わず納得していた。
神子という存在は、ただ次のを選んだり祈りを捧げれば良いというものではない。
もう少し時間が経てば、この国を出立して世界を回り魔物たちを退治するために力を使わなければいけないし、それが終わったら王妃となるのだから、作法なども学ぶ必要がある。
加えて、異世界人にとってはこの世界の基本的な知識すらないのだから、覚える事は膨大だった。
だが、神子ではないのなら、この世界の基礎さえ分かっていれば何の問題も無いのだ。
幸運にも、俺が知っている中世やファンタジー作品の作法などと、この世界は一致する事も多かったので、正直そこまで俺は不便していない。
(今までは俺も神子候補だったから、スケジュールびっしりだったわけか……)
ラインハルトとの勉強会は、試練の後しばらくの間はなくて、今日が久しぶりの勉強会だった為に気づかなかったが、とりあえず現時点での俺の知識は及第点には達したって所なんだろう。
ちなみに、神子が伊藤だと判明した後、俺の事を気に入らない伊藤からの嫌がらせや、俺を追い出そうとする勢力などがちょこまかと纏わりついて来ていたが、ラインハルトが俺の後見人をかって出てくれた事もあって、最近は沈静化している。
公爵の地位は相当偉いというか、ラインハルトは国王陛下とは遠縁ではあるが血縁関係にあるのだから、当然権力もある訳だ。
ラインハルト自身は、正直その立場を疎んじているんだろうけど、俺としては非常に助かっている。
ラインハルトが言えば、多少の問題のある事柄でも、通るんだから。
(まぁ、他の国同士の争いの仲裁とかやらされてるんだし、それくらいは便宜を図ってくれるだろうな~)
ヨルムカトル王国は、不可侵の国と言えば聞こえはいいのだけれど、色々と責任も重い上、かかる重圧は他国の比ではない。
ラインハルトが過去の交渉事の中身を差しさわりのない部分について教えてくれたが、会社で言う中間管理職みたいな立場で正直、引いた。
「ラインハルト、これから時間ある?」
教材の本を片付けながら、俺はそう尋ねた。
あの告白劇の一幕から、最初はラインハルトから逃げまくっていた俺だったが、別段無理矢理迫ってくるわけではないと分かってからは、以前通りの関係を保っている。
口説いては来るけれど、俺が嫌だって言えばちゃんと引いてくれるし、リチェルさんも俺の意を汲んでくれて、あまりにラインハルトが問題発言をするようなら追い出してくれるって言うしね。
リチェルさんのほうが爵位は遥かに下だけど、リチェルさんはラインハルトに本当に遠慮がない。
だが、今の所リチェルさんも俺も、ラインハルトを追い出すというような事には至っていない。
「すまない。実は今日は……」
残念そうに顔を曇らせるラインハルトに、俺は「あっ」と気づいた。
「ごめん、そうだった。今日、パーティなんだよね? 俺、もう関係なくなったからすっかり忘れてた」
元々は、神子候補だった頃は、殆ど強制的に王城内で行われるパーティに一応は顔を出していた俺だったが、神子ではないと判明してからは行く回数はかなり少なくなり、現在では一切行っていない。
場違いだし、伊藤の視線も正直怖い。
何せ、パーティに参加すると、ラインハルトが俺にべったりだし、騎士団長のハーミットさんも、ラインハルトと幼なじみで仲が良いのもあってか俺の所に来るもんだから、伊藤の顔が鬼の様なのだ。
ハーミットさんは、おそらくは伊藤の様な積極的なタイプは苦手なんだろう。伊藤に対しても一定の距離を保って接しているし、状況によっては避けているんだろうなと分かるくらい、結構態度が顕著だった。
これ以上、伊藤を刺激するのは得策ではないと踏んだ俺は、どうしてもという時以外は不参加とする事を決めた。そもそも俺はパーティ自体もそんなに好きではないのだ。食べて飲むだけなら、まだ楽しみも見いだせたのだろうが、メインはあくまで会話だ。権力者たちのキツネとタヌキの化かし合いのような事が行われているのだから、関わりたくない。
神子が伊藤だと分かって以降は、王城内で殆ど毎日パーティが催されているらしい。
「ああ。そうだ。正直、私も行きたくないが、私の立場上、完全に断ることは不可能だからな。今日行けばしばらくは出なくても良いのだから、今日だけの我慢と思う事にする。ちなみに勿論、ハーミットも強制参加だ」
「うわぁ……」
心底同情する。
「お前が折角誘ってくれたというのに……」
「いや、また次回があるからさ!」
申し訳なさそうに謝るラインハルトに俺は慌てて言った。
そもそもラインハルトは、俺の事をいつも優先してくれている。
そんな風に謝って貰わなければいけない話じゃないのだ。
「そうだな。次回は、ぜひ」
ため息を吐きながらも悲しそうに去ってゆくラインハルトの後ろ姿はちょっとだけ可愛かった。
(ああ、でも残念だなぁ。ラインハルトにも俺の新しい友達を紹介したかったのに)
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