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◆第1章 おまけの神子とラインハルト

受難の始まり⑤

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 俺に触れるラインハルトの手つきは、自身でも言っていた通り、かなり経験豊富なのだろう。
 確かにとても手馴れていた。
 
 けれど、その手はとても優しい。
 ラインハルトが一番辛い筈なのに、決して性急には俺の身体を暴こうとはしない。
 俺は少しだけ戸惑っていた。
 
 正直、こういった媚薬などが効果を表せば、理性など飛んでしまうのだろうと思っていた。
 実際、俺の服を脱がせて、胸を舐めるまではかなり強引にされたと思う。
 
 ただ、正直早く突っ込みたいであろうラインハルトは、俺の後ろの穴にはまだ手を触れてはおらず、体中を撫でまわしながらキスを色々な所にしてくるだけなのだ。
 
 ある程度欲を吐き出した後ならば、少しは症状が治まったんだなという話だが、ラインハルトはまだ一度も射精していない。
 
 まるで恋人同士の戯れのような前戯である。
 
 俺でさえ、過去の彼女にここまで甲斐甲斐しい行為はした事がない。
 
 (いや、俺ではそんな相手を喜ばせるテクニックは無いんだけどさ……)
 
 俺には水棲モンスターの吐いた液がどれくらいの興奮剤なのかは分からないが、先ほどのラインハルトの言動から察するに、現代で見るような、所謂なんちゃって媚薬タイプだったとは到底思えないんだけどな……。
 
 強引に突っ込まれて流血沙汰にはなりたくないので、ねじ込まれなくてほっとしている反面、結構恥ずかしい。
 
 ちなみに、自慰をさせればいいのではと一瞬思ったけれど、多分そこまでやってしまうとどっちみち結果は同じになりそうだったので、俺は口には出さなかった。
 
 (性欲有り余る成人した若い男だからな……)
 
「……んっ、ラインハルト」
 
 意識を外に向けた俺を咎めるように、ラインハルトの手が俺の肌をその長い指で辿った。
 
 ちゅっちゅっちゅっ。
 
 顔から首、胸元にゆっくりと唇の位置が下がっていくのが分かり、俺はドキドキとしながらも拒絶することはしない。
 
 俺はこの時点で、絶対に抵抗はやめようと心に決めていた。
 
 この丁寧さから、ラインハルトが俺に無茶な事をしないだろうと言う事は分かったし、何よりラインハルトが本調子にならなければ、残りの日数をここで生き延びれるかが分からない。
 
 俺に無体な事をしないラインハルトに対して、例えば俺が泣き叫んだら止めてくれるかもしれないが、その後はどうするのかという問題もある。
 
 さすがに何十時間の間を我慢させるわけにもいかないし、同じ男としてそれがとても辛い事だと理解できる。
 
 一度ヤられると決意した以上は、スムーズに事が運ぶように協力した方が、良いのではないかと俺は思った。
 
 幸運(?)にもラインハルトはそっちの経験値がとてもあるのだから。
 
 それに一度決めたのに、やっぱり嫌だというのも大人してはやりたくない言動だ。
 
「……ラインハルト……っ、もうそういうのは良いから!!」
 
 何よりこれ以上丁寧にされると、俺が恥ずかしすぎて死んでしまいそうだった。
 
 俺の「お前はどこのビッチだ?」という発言に、ラインハルトが舐めていた俺の臍から口を離す。
 驚いた表情で俺を見るラインハルトの顔をまともに見れず、視線を逸らしながらも、俺はややテンパりつつも口を開いた。
 
「いや、あのさ……!! そのあんまりそういうのゆっくりやられると、余計俺恥ずかしいんだよ。どこを見ていいかも分からないしさっ!」
 
 女性側の立場になって初めて、この前戯部分の気まずさを俺は実感していた。
 言い方はあれだが、本当に今は適当に扱われたい気分だ。
 
 ラインハルトは上体を起こしながら、俺の顔を覗き込んでくる。
 その表情は、俺を気遣う紳士的な部分と、激しい欲望が鬩ぎあっているのだろう。
 額にも汗が滲んでおり苦しそうだった。
 
「……だが、私がお前に挿入したら、きっと私は理性をなくす……っ。お前に怪我をさせるわけにはいかない。出来る限り、苦にならない様にするのは当然だろう……?」
 
 やはり、ラインハルトは相当鋼の精神で抑え込んでくれている様だ。
 もしかすると、ラインハルトでなければ、俺の尻は既にぶっ壊されていた可能性すらある。
 
 かなり恥ずかしかったけれど、この長い愛撫があったからこそ、俺も力を抜けたところはあるだろう。
 
 ヤラれる決意はしたものの、さっき尻が壊れない様に願った時はまだ身体はカチンコチンに強張っていたのに、今はそこそこ落ち着いて物事を考えられる。
 
「う、確かに。その……無理矢理突っ込まれてたら俺も痛みで叫んだかもしれないから、それはありがと? だけどな。もう、俺も覚悟は決めたんだよ。お前も、相当限界なんだろ?」
 
 こんな風に、まだ理性が残っていますという風を装っているラインハルトだが、その目をよく見れば、既に焦点があっていないんだよ。
 多分、俺を傷つけたくないという強い意志が、ラインハルトの精神を保っているんだろう。
 
 ラインハルトは、俺に対して友情を感じてくれているのだ。
 それはとても嬉しい事だと思う。
 
 (でも、このまま指も突っ込まれないうちに理性が消えたらそれこそ大惨事だろ!?)
 
 流血沙汰になるのだけは、本当に嫌なんだよ。俺。
 
 だから、確かに直接的な行為の前の愛撫も重要だとは思うけれど、俺がもっとも丁寧してほしいのは俺の尻をほぐす事なんだ。
 
 最悪、自分でほぐすしかない。
 
「そ、れは……」
 
「いや、お前今の顔やばいからな? マジで」
 
 視界の中にちらちらと見えるラインハルトのちんこは、擦っても居ないのにギンギンに勃起しているし、息だって荒い。
 
 どこかでスイッチが入れば、おそらくは満足するまで開放してくれない気がして、俺は震えた。
 
 でも、ここで先延ばしにすれば、ラインハルトの精神が限界を迎えてしまい、俺の尻はダメージを追うし、正気に戻ったラインハルトも辛いだろう。
 
 ただでさえ、友人と性行為をするなんて嫌だろうし。
 
「……っ」
 
 ラインハルトの身体が俺の上でぐらりと揺れて、俺は慌てて支えるように手を伸ばす。
 
 服の上からでも、ラインハルトの身体が発熱しているのが分かる。
 
 じっと俺を見下ろしている目が、蕩けるように潤むのを見て、俺はうっと声を上げた。
 
 男らしいタイプで、女々しさなんて感じさせないラインハルトの容姿なのに、俺は今無意識に「色っぽいな」と思ってしまった。
 
 それを証拠に、俺の下半身もわずかに反応してしまっている。
 
「あ……っと」
 
 慌てて自身のちんこを隠した俺の行動に、ラインハルトはごくりと喉を鳴らした。
 
「……もう、良いんだなっ?」
 
 必死で隠す俺の腕を簡単に剥がしたラインハルトが、興奮気味に言った。
 
 ラインハルトとしては、俺が本当はどうしようもなく嫌なのに渋々承諾したという風に考えていたのだろう。
 
 (いや、渋々だけどな!?)
 
 今も俺は女の子が好きな筈である。
 
 ただ、悲しいかな身体は正直であり、俺はラインハルトに性的な魅力を感じてしまったのは事実だ。
 
 だって、勃ってしまったのだから……!
 
 真剣なラインハルトの目を見返して、俺は半ばヤケクソでしっかりと頷いた。
 
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