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◆第1章 おまけの神子とラインハルト

受難の始まり④-1

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 ダンジョンの中は一言で言えば俺にとっては過酷な環境だった。
 まず、とにかく薄暗い。
 
 ファンタジーゲームなどのダンジョンでは元々灯りがついていたり、周囲を見渡せる程度の光源はある場合が多いだろうが、俺が直面したのはまったくそういう光源の無い暗闇である。
 
 しかも、かなり寒くて、ラインハルトが用意してくれた一式が無ければ俺はもしかすると凍えていた可能性があった事に気づく。
 元々用意されていた衣服は、お古だった上にかなり薄手だったのである。
 
 ちなみに、ラインハルトが用意してくれた衣服は、厚手な上に炎属性の魔術が込められているらしく、寒さを感じたのは一瞬だけだった。
 
 ダンジョンの景色には殆ど変化がなく、どんなに進んでもまた同じような所に出る事を繰り返している。
 試練のダンジョンと呼ばれているように、このダンジョンは精神と肉体を試す為にかなり過酷な構造になっているようだった。
 
 万が一ラインハルトがおらず一人だったら、平和な日本人だった俺には、とてもじゃないがクリアどころか一日だって無理だっただろう。
 
 いや、本当にラインハルト様様である。
 
「……ラインハルトが居てくれて本当に良かった」
「なんだ、突然。疲れているのか?」
 
 四日目の就寝前の時間。
 ラインハルトの用意したテントの様な物の中で、同じ毛布に包まりながら俺が呟くと、ラインハルトが優しい声で言った。
 
 一日目にそのテントもどきを出された時は驚いた。
 何せ、そんな物を持っているように見えなかったからである。
 しかし、マジックバッグという物の中に色々と入れていると聞いて、俺のテンションは少しだけ上がった。
 
 ファンタジーの王道マジックバッグだぞ、当然テンション上がるだろ!?
 
 ラインハルトの持ち物であり、特に質が良いからなのか寝心地は抜群。
 普通は硬い床で寝ころぶのだろうが、このテントは地面がふかふかなのである。
 
 なお、このダンジョンに配置されている人工ゴーレムや、意図的に設置されているモンスターが寄ってこない休憩ポイントがあり、そこでいつも夜を過ごしている。
 
 とは言っても、外の光が入ってこないので本当に夜なのかは分からないのだが。
 
「身体は辛くないか? 随分と歩いただろう」
「あ、うん。まぁ、正直既に結構身体は辛い、な。ずっと歩きっぱなしだし……」
 
 そう、一日目はまだ余裕があったのだが、二日目になる今日の時点で、俺の身体は既にガタがきているのが現実だった。
 
 まず、俺はこの世界の戦闘を舐めていた。
 このダンジョンに居るのは、魔術で作られた人工ゴーレムと、外部から捕獲してこの試練の為に設置しているモンスターだけだと聞いていて、確かにその通りではあったのだが、それらはかなり凶暴な性質を持っていた。
 
 戦う力のない俺はラインハルトに守られながらダンジョンを進む。戦闘は全部ラインハルトが受けてくれるので攻撃による怪我はしていない。
 けれど、ラインハルトも俺の体力を回復させることは出来ないので、基本的に走ったり逃げたりは当然だが俺自身でするしかなくて、結果壁に当たったり、転んだりと割とズタボロな状態なのだ。
 
 戦闘が終われば、勿論ラインハルトが持っているポーションを貰い傷は治るのだが、痛みが引くのには時間もかかる。
 
 だから、魔術や剣をカッコイイなんて思ってた俺の当初のミーハーな気持ちは既に失われていた。
 
「……うん、でも頑張る。あと、6日だしな」

 人間、弱ると童心に帰るのか、俺の言葉遣いはやや拙くなっているようだが、正直あまり余裕が無いので深く考えることもできないし、ラインハルトだから別に良いや。
 
「徹……」
「だいじょーぶ……」

 出来る限り体力を温存させておかないと、明日からの残りの期間俺の体力が持たないだろう。
 この休憩ポイントもどこにでもあるわけではない上、一定時間経つと効果がなくなるので、同じ場所に留まることも不可能だ。
 
 密着しているラインハルトに、俺は笑いかける。
 
 (ああ、心地よいなぁ)

 当初、あれだけドン引きしたラインハルトの体温が、今はとても安心するのだ。
 俺を助けてくれるその姿は、正直に言うとかっこよくて友人として誇らしい。
 
「頑張るから……」

 俺が神子じゃなかったとしても、友人として期待には応えたかった。
 
 心配そうに俺を見るラインハルトの表情を最後に見て、俺は眠りについた。
 
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