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◆第1章 おまけの神子とラインハルト
受難の始まり②-2
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ラインハルトは毒舌だし、セクハラ野郎ではあったものの、説明自体はとても丁寧に教えてくれる奴だった。
下半身はだらしないが、それ以外にはしっかりしていて、時間に遅れたりとかもしない。
俺が疲れていると美味しいお茶とお菓子で休憩を取ってくれたり、俺の気分転換になるといって、短い時間ではあったが城下街にも連れて行ってくれたりしてくれるのだ。
「うわ、これすごいな」
店先に並んだ手作りのアクセサリーを、俺が興味津々に手を取ると、ラインハルトが意外そうに笑った。
「なんだ、お前もこういうのには興味があったのか。もう一人と比べて、あまり欲しがらないから好きではないのだと私は思っていた」
「いや、あれはちょっと俺には合わないからさ」
城で贈られるアクセサリーは、派手なデザインで、なおかつ高価そうな宝石がはめ込まれた物ばかりだ。
ワンポイントの小さな宝石ならともかく、何カラットあるのかというくらいの大きさのそれらは俺には合わないし、正直な所少し悪趣味だとすら思う。
伊藤はとても気に入っているらしくて、色々な派手なアクセサリーをつけていた。
ラインハルトも無理やり強請られたらしいが、俺と過ごす内に伊藤への興味が一切なくなったらしく、話しかけられても殆ど返事すら返していない。
勿論、伊藤にはめちゃめちゃ睨まれたのは言うまでもない。
「どれが良いんだ」
ラインハルトが、俺に視線を合わせるために屈みこみながら聞いてくる。
「ん?」
「買ってやる」
「え、良いって! これ結構高いし……」
さすがに城の宝石類よりは遥かに安価だろうが、それでも一般市民が買うには勇気がある金額だ。
日本円換算だと10万くらいはするんだから。
だから、俺は買ってもらえないと断ったんだけれど、ラインハルトは俺が一番見ていたガーネットみたいな石の嵌った指輪を強引に買うと、俺の指に嵌めてしまった。
「ラインハルト……いや、だって」
「お前の黒髪に似合う」
柔らかい笑みでそう言われてしまうと、さすがにそれ以上は断れなくて、俺は少し視線をそらしながら、ありがとう、と小さく返した。
そうなって仲良くなると、元々俺は男に興味のない男なので、下半身がだらしかなかろうと関係がなくなってくる。
ラインハルトがもし誰かを泣かせれば苦言くらいはいうかもしれないが、それとこれとは話が別だと思うくらいには、俺はラインハルトを友人として認識するようになっていた。
まぁ、実は俺が貞操観念の話をちょくちょくしたからなのか、既に二日目くらいにはそういう類の行為はしていなかったっぽいんだが。
俺の教育をするっていうのもあったからかもだけどな。
勉強の時間も苦じゃなくなって、俺は意外にも異世界生活を満喫していたが、いずれ終わる日はやってくる。
そして、楽しい時間は過ぎ、俺はいよいよ試練を受ける事になったのだが、試練の前日、ラインハルトが神妙な顔で言った。
「もし、お前が神子ではなかった場合、お前はどうするつもりだ?」
「え? そりゃ、元の世界に帰るに決まってるけど。だって、神子じゃなかったら俺ただの、邪魔者だろ?」
「……どこのどいつが邪魔だと言ったんだ」
俺の言葉に、ラインハルトが珍しく怒った様に低い声で言う。
俺は驚いて、笑いながらラインハルトの背中をバシバシと叩いた。
「例えばの話だって! だけど、実際にさ、神子じゃない異世界人なんて扱いに困るだろ? それに俺は元の世界に帰りたいよ。やっぱり。家族も居るし、この世界は、俺にはあんまり、その……優しい世界じゃないかなと」
勿論、ラインハルトや、侍従のリチェルさんたちともう会えないのは寂しいとは思う。
でも、この世界で生きていくには、後ろ盾とかそういうものがないと、魔法の一切使えない俺には厳しいし、家族と別れてまで残りたいような、強い想いはまだ育っていない。
もっと長い時間をこの世界で過ごせば、話は変わるかも知れないが。
「ん…っ! お前が残るなら、私が、後ろ盾になっても良い……ぞ」
ラインハルトがわざとらしい咳をして、そう続けるのを聞いて、俺は「あはは」と笑った。
「ありがとな。 気持ちだけ貰っとく。それに、ラインハルト、王様になるんだろ?」
あれだけ節操のない発言をしてたラインハルトは、たった数日で何故心変わりをしたのかは分からないけれど、王位に対して興味があるような言動をするようになっていた。
しかし、あの伊藤が伴侶になるのであれば、俺に対して心を砕くような夫を許すとは思えない。
ただその気持ちは、正直嬉しかった。
実は昨日と今日の間に、俺と伊藤の周囲は目まぐるしく変わっていた。
正確には、伊藤と俺の差が出ているというのが正しいけれど。
さっきの通り、俺には魔法は使えないのだが、伊藤は魔法を使う事ができるし、他にもいろいろと不思議な力が伊藤には出てきているらしい。
今までの神子も召喚されてから数日間の間に、何らかの能力の兆候があったそうなので、そうなってくると、神子は俺では無くて伊藤であるというのが濃厚だ。
だから、本当はもう俺にラインハルトみたいな優秀な奴をつける必要は無いって、周囲の人も言い出すようになっていたし、伊藤も国王陛下に直訴したらしいが、ラインハルトはそれを断ってしまった。
神子じゃない方が嬉しいとは思っていたけれど、全く望まれないのは寂しいんだなとその時俺は知った。
人間って贅沢だなって思う。
いや、贅沢なのは俺か。
最後まで面倒を見てくれるって言ってくれて、俺は嬉しかったんだ。
俺は照れ隠しから、何か言いたそうなラインハルトを遮って、毛布を頭から被った。
「おやすみ!」
その時の俺は、ラインハルトとの友情は、帰ってからも思い出して楽しかったと思えるようなものだと思っていた。
しかし、だ。
――試練の日。試練の間に入った後に、ラインハルトが俺に抱いていた気持ちが友情ではなかった事を、俺はその身をもって知ることになる。
下半身はだらしないが、それ以外にはしっかりしていて、時間に遅れたりとかもしない。
俺が疲れていると美味しいお茶とお菓子で休憩を取ってくれたり、俺の気分転換になるといって、短い時間ではあったが城下街にも連れて行ってくれたりしてくれるのだ。
「うわ、これすごいな」
店先に並んだ手作りのアクセサリーを、俺が興味津々に手を取ると、ラインハルトが意外そうに笑った。
「なんだ、お前もこういうのには興味があったのか。もう一人と比べて、あまり欲しがらないから好きではないのだと私は思っていた」
「いや、あれはちょっと俺には合わないからさ」
城で贈られるアクセサリーは、派手なデザインで、なおかつ高価そうな宝石がはめ込まれた物ばかりだ。
ワンポイントの小さな宝石ならともかく、何カラットあるのかというくらいの大きさのそれらは俺には合わないし、正直な所少し悪趣味だとすら思う。
伊藤はとても気に入っているらしくて、色々な派手なアクセサリーをつけていた。
ラインハルトも無理やり強請られたらしいが、俺と過ごす内に伊藤への興味が一切なくなったらしく、話しかけられても殆ど返事すら返していない。
勿論、伊藤にはめちゃめちゃ睨まれたのは言うまでもない。
「どれが良いんだ」
ラインハルトが、俺に視線を合わせるために屈みこみながら聞いてくる。
「ん?」
「買ってやる」
「え、良いって! これ結構高いし……」
さすがに城の宝石類よりは遥かに安価だろうが、それでも一般市民が買うには勇気がある金額だ。
日本円換算だと10万くらいはするんだから。
だから、俺は買ってもらえないと断ったんだけれど、ラインハルトは俺が一番見ていたガーネットみたいな石の嵌った指輪を強引に買うと、俺の指に嵌めてしまった。
「ラインハルト……いや、だって」
「お前の黒髪に似合う」
柔らかい笑みでそう言われてしまうと、さすがにそれ以上は断れなくて、俺は少し視線をそらしながら、ありがとう、と小さく返した。
そうなって仲良くなると、元々俺は男に興味のない男なので、下半身がだらしかなかろうと関係がなくなってくる。
ラインハルトがもし誰かを泣かせれば苦言くらいはいうかもしれないが、それとこれとは話が別だと思うくらいには、俺はラインハルトを友人として認識するようになっていた。
まぁ、実は俺が貞操観念の話をちょくちょくしたからなのか、既に二日目くらいにはそういう類の行為はしていなかったっぽいんだが。
俺の教育をするっていうのもあったからかもだけどな。
勉強の時間も苦じゃなくなって、俺は意外にも異世界生活を満喫していたが、いずれ終わる日はやってくる。
そして、楽しい時間は過ぎ、俺はいよいよ試練を受ける事になったのだが、試練の前日、ラインハルトが神妙な顔で言った。
「もし、お前が神子ではなかった場合、お前はどうするつもりだ?」
「え? そりゃ、元の世界に帰るに決まってるけど。だって、神子じゃなかったら俺ただの、邪魔者だろ?」
「……どこのどいつが邪魔だと言ったんだ」
俺の言葉に、ラインハルトが珍しく怒った様に低い声で言う。
俺は驚いて、笑いながらラインハルトの背中をバシバシと叩いた。
「例えばの話だって! だけど、実際にさ、神子じゃない異世界人なんて扱いに困るだろ? それに俺は元の世界に帰りたいよ。やっぱり。家族も居るし、この世界は、俺にはあんまり、その……優しい世界じゃないかなと」
勿論、ラインハルトや、侍従のリチェルさんたちともう会えないのは寂しいとは思う。
でも、この世界で生きていくには、後ろ盾とかそういうものがないと、魔法の一切使えない俺には厳しいし、家族と別れてまで残りたいような、強い想いはまだ育っていない。
もっと長い時間をこの世界で過ごせば、話は変わるかも知れないが。
「ん…っ! お前が残るなら、私が、後ろ盾になっても良い……ぞ」
ラインハルトがわざとらしい咳をして、そう続けるのを聞いて、俺は「あはは」と笑った。
「ありがとな。 気持ちだけ貰っとく。それに、ラインハルト、王様になるんだろ?」
あれだけ節操のない発言をしてたラインハルトは、たった数日で何故心変わりをしたのかは分からないけれど、王位に対して興味があるような言動をするようになっていた。
しかし、あの伊藤が伴侶になるのであれば、俺に対して心を砕くような夫を許すとは思えない。
ただその気持ちは、正直嬉しかった。
実は昨日と今日の間に、俺と伊藤の周囲は目まぐるしく変わっていた。
正確には、伊藤と俺の差が出ているというのが正しいけれど。
さっきの通り、俺には魔法は使えないのだが、伊藤は魔法を使う事ができるし、他にもいろいろと不思議な力が伊藤には出てきているらしい。
今までの神子も召喚されてから数日間の間に、何らかの能力の兆候があったそうなので、そうなってくると、神子は俺では無くて伊藤であるというのが濃厚だ。
だから、本当はもう俺にラインハルトみたいな優秀な奴をつける必要は無いって、周囲の人も言い出すようになっていたし、伊藤も国王陛下に直訴したらしいが、ラインハルトはそれを断ってしまった。
神子じゃない方が嬉しいとは思っていたけれど、全く望まれないのは寂しいんだなとその時俺は知った。
人間って贅沢だなって思う。
いや、贅沢なのは俺か。
最後まで面倒を見てくれるって言ってくれて、俺は嬉しかったんだ。
俺は照れ隠しから、何か言いたそうなラインハルトを遮って、毛布を頭から被った。
「おやすみ!」
その時の俺は、ラインハルトとの友情は、帰ってからも思い出して楽しかったと思えるようなものだと思っていた。
しかし、だ。
――試練の日。試練の間に入った後に、ラインハルトが俺に抱いていた気持ちが友情ではなかった事を、俺はその身をもって知ることになる。
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