おまけの神子は帰ることができない~平凡な筈の俺が美形たちに囲い込まれる話〜

宮沢ましゅまろ

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◆第1章 おまけの神子とラインハルト

受難の始まり①

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「はぁ……」
俺には不釣り合いともいえるほどの豪華な一室。
神子ではないと分かったのにも関わらず、俺の待遇は現状神子だった時とあまり変わっていない。

深いため息を吐きながら、俺は侍従を務めてくれているリチェルが淹れてくれた暖かい飲み物を飲んでいた。
テーブルの上には美味しそうな焼き菓子も置かれている。

この世界にやって来た当初、美味しいお菓子や飲み物は、異世界に無理矢理連れて来られた俺の不安な心を癒してくれていた。元々、お菓子は好きだったしね。

しかしながら。
今では、このお茶の時間でさえも苦痛でしかなくなっている。

(ありえないよな……)

俺は、自身の部屋のプレゼントの山を見て顔を引きつらせた。
俺の部屋の中には、あふれ出るほどのプレゼントの山々が強烈な存在感を放っているからだ。
服や宝石、ぬいぐるみなどはきっと若い女性なら喜んだろうが、俺は三十過ぎたそろそろ若くない年齢に差し掛かっている男だ。
別段乙女な趣味も持ち合わせてはいない。

「はぁ」
しかし、俺の力ではこれらを拒絶する事もできないのだから情けない話だ。





まず、現状の説明の前に、この世界に俺がやって来た経緯をすごく簡単に説明しようと思う。

その日、有給休暇中だった俺は、大好きなライトノベルを買いに本屋に出かけた帰り、交差点で大型トラックに、神子である伊藤実と一緒に轢かれてこの世界へと転移をした。

異世界転移物では鉄板ともいえるトラック事故での転移だったが、その時負った怪我は治癒魔法で即時に癒された為、今となってはそのあたりはもうどうでも良い話となっている。
結構な重傷で痛かったけれど、俺よりもおそらく可哀想なトラック運転手さんが居ると思えば、そのくらい受け流せた。

何せ、因果律を捻じ曲げられた(らしいと聞いた)結果、引き起こされた事故だ。
実際、俺と伊藤以外の巻き込まれた人は亡くなっているのではないかと推測されており、これからのトラック運転手さんの未来を考えれば、俺は全然マシだと思う。

(それに転移していなければ、おそらく即死だっただろうし)

魔法が無ければ助からなかったと聞き、俺は逆にほっとしたのを覚えている。
生きてるだけでめっけものとはこの事だろう。





その後、俺たちは王城内にある部屋に居を構え、この世界の事や神子の説明と、一週間ほどの教育期間を経て、俺たちは神子が挑む試練へと挑戦した。
試練と言っても俺たちが戦う訳ではなく、魔法で創られたダンジョンからの脱出と、かつて神子が遺した神具を手に入れ持ち出す事が、クリア条件かつ神子としての証明となるタイプだったのだが、真っ暗闇で平坦な道のり、区別のつかない壁、人工的に生み出されたゴーレムやトラップによる妨害など結構ヘビーな試練で、俺は精神を病む一歩手前まで行った。

見届け役として同行してくれたラインハルトという男が居なければ、下手したら精神崩壊エンドを迎えていただろう。それくらいに辛い試練だった。

そして試練の結果、神子である伊藤は神具を手に入れた上でダンジョン無事に脱出し、俺はその後回収された。

その時の俺は、本当に心からほっとしたのを覚えている。

俺は神子になんて全くもってなりたくなかったから、伊藤が神子だと知って、本当に喜んだ。
元々伊藤は、俺が気に入らなくて俺にかなり冷たい態度を取ってきたり、嫌がらせをしてきたりしていたので、速攻で元の世界に帰りたいと願い出たわけだ。当然な。
むしろ、俺が神子だったらどうしようと僅かに不安を抱えていたので、伊藤が神子で本当にほっとしたんだ。

神子がこの世界で、この国の王になる者を選びその相手と結婚すると聞けば、余計帰りたくなるだろう。
美しいお姫様ならともかく、男しか存在しない世界だぞ!? 他人の恋愛事情にうだうだ言うつもりはなくても、自分のことなら断固拒否だ。

さらに、この世界の人間は皆とにかく背が高いんだ。
176cmある俺が小柄なんだよ……。平均身長185cmくらいと聞いて、戦慄したものだ。元の世界と違って、強引に迫るのは左程忌避されないらしいこの世界で、逃げ切れる自信が俺にはない。

腐っていた姉が此処に居たら、やったじゃないっ! と言い出したに違いないが、俺はややオタクではあるが別に腐男子ではないので全く持って楽しくもなんともない。いや、腐男子も
むしろ、自身に起こると想定するだけで辛い話だ。

更に、その上テレビもゲームない、娯楽さえも少ないこの異世界に一生残らされるなんて絶対ごめんだった。

しかし、無情にも返ってきた答えはノー。

魔王の影響で空間が歪んでしまっており、俺たちをこちらの世界へと受け入れる事は出来たものの、外界へ、つまり俺たちの世界へと送りだすことが出来ないというのだ。

トラック事故でボロボロになったのも魔王の影響を受けた結果と聞いて、さすがに俺も身体が震えた。
思えば、伊藤は割と軽傷だったのに俺がかなりの重傷だったのは、俺が異分子である理由からかもしれない。
伊藤は本当は無傷でこちら側にやって来ていたのだろう。
それについては、正直申し訳なく思った。

そして、魔王が居る現状、元の世界に帰る方法は無いのだと聞かされて、俺はこの世界に残らざるを得なかった。
イチかバチかで戻ろうとして、そのまま死んでしまうのだけは嫌だったし、魔王を消滅させてしまえば帰れるのだと聞けば、じゃあそれまではこの世界で! という話になったわけだ。

神子でないと分かってから、一部の人間たちは俺にきつくあたるようになったが、幸運にも国王陛下や国の重鎮たちは俺の事を可愛がってくれた。
概ね50代以上である彼らからすると、若い者たちが愛らしいと持て囃す伊藤の幼さはあまり好ましくないらしく、俺に対して気を使ってくれるのだ。
とはいっても、彼らは皆愛妻家らしく、俺に対して邪な気持ちを抱いてはいない。

とはいえ、神子ではない俺はただのただ飯ぐらいである。
神子候補だった時はVIP待遇を受ける事は出来たものの、そうでなくなれば難癖をつけられて下手すれば外へポイ捨てされかねない。

だから保険の為にも、とりあえずは自分の出来る仕事を探すべく、俺はその日から就職訓練を開始したのだ。

――そう、開始した筈だった。
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