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◆第0章 はじまり
プロローグ
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異世界トリップ。小説や漫画の世界では、そこそこポピュラーな設定だ。一昔前に異世界に迷い込む少女の漫画がアニメになったりと、流行したのを俺は覚えている。俺も姉がアニメが好きだったのもあり、一緒に見ていた。
元々俺は小説を読むのが好きで、最近の小説でも面白そうなのはチェックしていて、特に異世界ファンタジーが気に入っている。
最近は素人さんが書いている投稿系サイトまで見ているくらいだ。
素人さんだと侮るなかれ、むしろ商業よりもテーマの自由度が高いのもあって、投稿サイトの小説はとても楽しい作品が多くて俺は大満足だった。
ただ、それはあくまで創作の世界の話であり、自分が居る現実ではないから楽しめるものである。
そう、自分自身があろうことかトリップし、巻き込まれない限り……。
「神子様、本日はご機嫌麗しく」
広いヨルムカトル王国の王城内、神子と呼ばれる黒髪の美少年が、ピンクブロンドの鮮やかな髪を持った騎士に恭しく手を取られてキスされている。
「こんにちは~ アンヘル様~」
間延びした、男にしてはやや高い声が嬉しさを隠せないと言った様子で、騎士の名前を呼んだ。
その光景を、美少年のすぐ隣で見ながら、俺-葛城徹は顔を引きつらせる。
(背筋が……っ! 無理だ!)
まるで愛する女性にするような騎士のエスコートに、俺はドン引きしていた。
美少年の彼の名前は伊藤実と言う。高校2年生である彼は、俺と一緒にこの世界に召喚された子だ。俺と一緒にと言うか、正確に言えば伊藤の召喚に俺が巻き込まれただけだったりする。
俺は元々召喚なんてされる予定はなかった存在だったのが、たまたま伊藤と一緒に居合わせたために巻き込まれてこちらの世界にやって来てしまったのだ。
この世界ランドアースは、剣と魔法の世界であり、現在は強力な魔王の脅威に晒されている。
魔王と言っても、良くあるファンタジー系の魔王とは少し異なっており、百年ごとの周期で、何度でも生まれ変わる強力な魔力の奔流の集合体らしく、所謂人格は存在しないらしい。分かりやすく言うと、災害に近い存在だ。
この世界にはモンスターが存在しているが、それらは魔王が活発になる周期になると力を増して活性化するらしく、この魔王やモンスターを消滅させるために、神子が異世界から呼ばれる仕組みとなっている。
この世界の人間には、魔王を消滅させるほどの浄化の力は無いが、異世界の今まで戦った事のない一般人が一人で立ち向かえるはずも無く、その世代の有能な実力者たちが神子の護衛に就くことが、かれこれ1500年ほど続いているそうだ。
ちなみに、俺たちが滞在しているヨルムカトル王国以外にも、勿論ランドアースにはたくさんの国が存在しているが、神子を召喚する事ができるのはヨルムカトル王国だけなので、他の国が時に小さな戦の様な事になることがあるのに対して、国政は非常に安定している。
半年前にこの世界にやってきた俺たちは、最初どちらが神子なのかと騒がれた。
通常、神子は一度の召喚で一人で、かつて一度だけ二人召喚された事はあったものの、その時は片方はただの迷い人でしかない存在だった。
しかも、その神子ではない方の異世界人は、かなり癖のある人物だった為に相当な揉め事となったそうで、何とか魔王は消滅させることは出来たものの、当時の話は秘匿されたという、いわくつきである。
一部の人間は当時の事を知っていて、神子ではない異世界人を警戒しており、今回の俺たちが二人だという事で最初は結構、ギスギスした空気だったのを思い出した。
しかしだ。
実を言えば、最初に話を聞いた時点で、俺は自分が神子ではない事をほぼ確信していた。
――なにせ、神子は幸福の象徴でもあり、神子と婚姻をする者はヨルムカトル王国の次代の王となる事が決まっているというのだから。
この世界は何と、女性という性別が数千年前に絶滅してしまっており、性別の概念自体は皆知っているものの殆ど伝説の様な状態となっている。
だから男同士の婚姻しかありえないのだが、王の伴侶という事は所謂王妃である。
30歳を超える、どこからどう見て平凡な俺と、儚い美少年を見ればどちらが神子かと言われたら美少年に決まっているのが常識だ。
この世界では妊娠はせず、生命の樹と呼ばれるものから子供は生まれるらしいが、王妃の響きだけで俺ではないだろうなと思ったし、何より全く望んでいない。
神子は魔王を倒した後はこの世界に永住するらしいが、俺は元の世界に帰りたいし、何より俺は生まれてから33年間ずっと異性愛者だったので、男と結婚はハードルが高い。
いや、差別する気は無いんだ。
同性愛者だろうが、異性愛者だろうが、どちらでも構わないとは思う。
ただ、自分が同性とそういう関係になれるかというと話が別だ。
しかも、樹から子供が生まれるなんてファンタジー設定なのに、普通のセックスはしっかりするんだよ。
王は王妃以外の相手とは性的関係にはなれないため、拒否するのは難しい事も聞いて、俺は神子じゃない事を心の底から願った。
伊藤がどちらかと言えば男性が好きなバイであり、今回の件に乗り気だと聞いていたので、問題は無いと思ったしな。
結果は、俺の勝利(?)である。
神子と判別するための試練は正直地獄の辛さだったのだが、その試練の結果、神子は伊藤であり俺は違うという事が証明された。
そして、あれよあれよと言う間に伊藤は神子として担ぎ上げられ、周りの王族や騎士、貴族、大臣、魔法使いなどが伊藤をちやほやするようになった。
俺? 俺はただのおまけである。
だから、何の力もない俺に対する周囲の対応は淡白というか、冷遇される立場になるだろうと思っていた。
……そう、その筈だったのだ。
まさか、伊藤が狙っている中で一番気に入っている超絶美形の相手たちに限って、俺の方が良いなんて言い出すなんて思いもしなかったのだ。
元々俺は小説を読むのが好きで、最近の小説でも面白そうなのはチェックしていて、特に異世界ファンタジーが気に入っている。
最近は素人さんが書いている投稿系サイトまで見ているくらいだ。
素人さんだと侮るなかれ、むしろ商業よりもテーマの自由度が高いのもあって、投稿サイトの小説はとても楽しい作品が多くて俺は大満足だった。
ただ、それはあくまで創作の世界の話であり、自分が居る現実ではないから楽しめるものである。
そう、自分自身があろうことかトリップし、巻き込まれない限り……。
「神子様、本日はご機嫌麗しく」
広いヨルムカトル王国の王城内、神子と呼ばれる黒髪の美少年が、ピンクブロンドの鮮やかな髪を持った騎士に恭しく手を取られてキスされている。
「こんにちは~ アンヘル様~」
間延びした、男にしてはやや高い声が嬉しさを隠せないと言った様子で、騎士の名前を呼んだ。
その光景を、美少年のすぐ隣で見ながら、俺-葛城徹は顔を引きつらせる。
(背筋が……っ! 無理だ!)
まるで愛する女性にするような騎士のエスコートに、俺はドン引きしていた。
美少年の彼の名前は伊藤実と言う。高校2年生である彼は、俺と一緒にこの世界に召喚された子だ。俺と一緒にと言うか、正確に言えば伊藤の召喚に俺が巻き込まれただけだったりする。
俺は元々召喚なんてされる予定はなかった存在だったのが、たまたま伊藤と一緒に居合わせたために巻き込まれてこちらの世界にやって来てしまったのだ。
この世界ランドアースは、剣と魔法の世界であり、現在は強力な魔王の脅威に晒されている。
魔王と言っても、良くあるファンタジー系の魔王とは少し異なっており、百年ごとの周期で、何度でも生まれ変わる強力な魔力の奔流の集合体らしく、所謂人格は存在しないらしい。分かりやすく言うと、災害に近い存在だ。
この世界にはモンスターが存在しているが、それらは魔王が活発になる周期になると力を増して活性化するらしく、この魔王やモンスターを消滅させるために、神子が異世界から呼ばれる仕組みとなっている。
この世界の人間には、魔王を消滅させるほどの浄化の力は無いが、異世界の今まで戦った事のない一般人が一人で立ち向かえるはずも無く、その世代の有能な実力者たちが神子の護衛に就くことが、かれこれ1500年ほど続いているそうだ。
ちなみに、俺たちが滞在しているヨルムカトル王国以外にも、勿論ランドアースにはたくさんの国が存在しているが、神子を召喚する事ができるのはヨルムカトル王国だけなので、他の国が時に小さな戦の様な事になることがあるのに対して、国政は非常に安定している。
半年前にこの世界にやってきた俺たちは、最初どちらが神子なのかと騒がれた。
通常、神子は一度の召喚で一人で、かつて一度だけ二人召喚された事はあったものの、その時は片方はただの迷い人でしかない存在だった。
しかも、その神子ではない方の異世界人は、かなり癖のある人物だった為に相当な揉め事となったそうで、何とか魔王は消滅させることは出来たものの、当時の話は秘匿されたという、いわくつきである。
一部の人間は当時の事を知っていて、神子ではない異世界人を警戒しており、今回の俺たちが二人だという事で最初は結構、ギスギスした空気だったのを思い出した。
しかしだ。
実を言えば、最初に話を聞いた時点で、俺は自分が神子ではない事をほぼ確信していた。
――なにせ、神子は幸福の象徴でもあり、神子と婚姻をする者はヨルムカトル王国の次代の王となる事が決まっているというのだから。
この世界は何と、女性という性別が数千年前に絶滅してしまっており、性別の概念自体は皆知っているものの殆ど伝説の様な状態となっている。
だから男同士の婚姻しかありえないのだが、王の伴侶という事は所謂王妃である。
30歳を超える、どこからどう見て平凡な俺と、儚い美少年を見ればどちらが神子かと言われたら美少年に決まっているのが常識だ。
この世界では妊娠はせず、生命の樹と呼ばれるものから子供は生まれるらしいが、王妃の響きだけで俺ではないだろうなと思ったし、何より全く望んでいない。
神子は魔王を倒した後はこの世界に永住するらしいが、俺は元の世界に帰りたいし、何より俺は生まれてから33年間ずっと異性愛者だったので、男と結婚はハードルが高い。
いや、差別する気は無いんだ。
同性愛者だろうが、異性愛者だろうが、どちらでも構わないとは思う。
ただ、自分が同性とそういう関係になれるかというと話が別だ。
しかも、樹から子供が生まれるなんてファンタジー設定なのに、普通のセックスはしっかりするんだよ。
王は王妃以外の相手とは性的関係にはなれないため、拒否するのは難しい事も聞いて、俺は神子じゃない事を心の底から願った。
伊藤がどちらかと言えば男性が好きなバイであり、今回の件に乗り気だと聞いていたので、問題は無いと思ったしな。
結果は、俺の勝利(?)である。
神子と判別するための試練は正直地獄の辛さだったのだが、その試練の結果、神子は伊藤であり俺は違うという事が証明された。
そして、あれよあれよと言う間に伊藤は神子として担ぎ上げられ、周りの王族や騎士、貴族、大臣、魔法使いなどが伊藤をちやほやするようになった。
俺? 俺はただのおまけである。
だから、何の力もない俺に対する周囲の対応は淡白というか、冷遇される立場になるだろうと思っていた。
……そう、その筈だったのだ。
まさか、伊藤が狙っている中で一番気に入っている超絶美形の相手たちに限って、俺の方が良いなんて言い出すなんて思いもしなかったのだ。
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