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◆第一章

003.一度目の人生②

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 幸せな記憶の少ない幼少期を過ごした俺だが、唯一母上と過ごす時間はとても穏やかな気持ちで過ごすことが出来た特別な時間だった。
 幼い頃、俺が心を開いていたのは母上だけだった。
 帝である父上や、父の側近、その子供たち。周りにはたくさんの人がいたが、俺のことを愛してくれていたのは母上だけ――そう言っても過言ではない。
 一応腐っても第二皇子ではあるので、迫害されていた訳ではない。だが、幼くても、期待されていないことや良く思われていないということは何となく分かるものだ。
 優秀で勤勉な第一皇子と、出来損ないの第二皇子。周りがそう思っていることくらいは感じ取れた。
 兄の余輝ヨキとの関係も、良好とは言い難かった。
 幼い頃、俺は酷く内気な性格をしていて、真面目で自他共に厳しい兄が苦手だった。声も大きくて、手合わせの際に俺が少しでも気を抜くと容赦なく叩きのめしてくる。
 怖い。俺にとっては、兄は恐怖の対象でもあった。兄もおどおどしてばかりの俺には苛立っていたようだし、多分だが嫌われていたのだろう。
 何せ、普段からろくに目を合わせようともしなかったくらいだ。間違いなく好かれてはいなかったと断言できる。
(好かれるような要素、俺にはなかったし)
 そんな険悪な関係だったからなのだろう。正直兄弟であるという実感があまり持てなかったのは――。
 俺が唯一楽しみにしていたのは、母上との時間だ。
来儀ライギ、調子はどうですか?」
 勉学も武術も、なんでも完璧にこなす余輝ヨキのことを、皆が「素晴らしい」「さすがは余輝ヨキ様だ」と中央に集まり持て囃す横で、俺が一人で俯いていると、母上は必ず、最初に俺のところにやって来てくれた。
「母上!」
 母上は、どんなに俺が失敗しても、いつも俺を優しく抱きしめてくれた。
 あまり体の強い方ではない母上は床に伏していることが多かったので、母上と過ごせる時間は短いものだった。だが母上が会いに来てくれる日を、俺は毎日のように、次はいつお話しができるだろうか? と、そんな風に楽しみにしていた。





 幼い頃に、母の誕生日に贈る為に土で焼きあげる人形を作ったことがある。
 勉学はまるきり駄目で、武術もさほど得意ではなかった俺だが、何よりも手先を使うことが苦手で、正直出来栄えは最悪の一言だった。
 職人が焼いてくれたので、ひとまず形にはなっていたが、不恰好な人形は、はっきり言って酷く歪だった。左右均等にもなっておらず、目も口も変な形になってしまった。完成品を見た者が「呪いの人形か?」と絶句するくらいの出来栄えだ。容易にその不気味さは察することができるだろう。
(……こんなの、母上に贈れる訳がない)
 誕生日の祝いの贈り物なのに、呪いをかけかねない不吉な品。病弱な母上にそんな品を贈れる訳がない。
 見れば余輝ヨキは、美しい髪飾りを母上に贈っていた。繊細な作りで、珍しい石が嵌っている素晴らしい品だ。
 俺が作った不恰好な人形とは、比べるべくもない。
 幼い俺は恥ずかしくて、自分で作った人形をぎゅっと抱え込んだ。
 ――けれど。
来儀ライギ、母上に見せておくれ」
 母上はそう言って、優しく微笑んでくれた。
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