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第二章 婚約者編
第十二話 ロイヤルファミリーと僕③
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「手放せる程度の想いなら、今トーマはここにいません。本当に愛しているからこそ、俺は二人に紹介したんです。……俺は今後もトーマ以外を迎えるつもりはありませんし、誰かを宛がわれたところで気持ちは変わりません」
「はぁ……。お前はどちらかといえば、節操がないタイプだと私は思っていたんだがな?」
フリードリヒ様が言い切ると、国王陛下は長い沈黙の後で深いため息を吐きながら、少し肩を落とした。嫌味のようなことを言われたフリードリヒ様は嫌そうに顔を顰めたが、出会いの時の感じや周囲の話から、フリードリヒ様がそっちの方面ではかなり遊んでいるというのは事実だろうし、その点については反論しようとはしなかった。
ちらりと気まずそうにこちらを見て来たけれど、僕は別にその件については追及する気はない。全く気にならないと言えば嘘になるけど、僕をはっきりと選んでくれるとこうして断言してくれたのだ。そのくらいの心の余裕はある。そもそも僕だって、まっさらってわけではないのだから。
勿論、今後そういったお相手が僕に接近して嫌がらせをしてくるようなことがあるなら、そこはちゃんとしてほしいとは思うけれど。
過去に何もない人間なんて珍しいし、大事なのはこれからだと僕は思っている。
「父上。俺は確かに今まで不誠実な男でした。いきなりこんな風に言い出したことを信じられないと言われても仕方がないとは思っています。ですが、これからは違います。トーマと一緒になると決めた以上、俺は、トーマを愛し守り抜くつもりです。王位があろうとなかろうと、それは変わりません。俺は一人の男として、トーマをこれから守ってやりたいんです」
「……今までの相手とは違う……ということ……か」
フリードリヒ様が頷くと、国王陛下は深く息を吐きながら目を閉じた。フリードリヒ様の腕の中からじっと国王陛下を見つめながら、僕はその心中を推し測る。きっと、複雑な心境なのだろう。
だが、やはり国王陛下は決してこの件で怒りの感情を見せることはなかった。
話をする前に国王陛下が「念のために聞く」と前置きをしていた通り、フリードリヒ様の考えを変えることはできないということを心のどこかでは分かっていて、それで半ば諦めがついていたのかもしれない。
「……トーマ、そなたも同じ気持ちか? たとえ、フリードリヒがどのような立場に立たされたとしても、共にあり続けることを誓えるほど、愛していると?」
ふと視線を向けられて、僕はびくりと震えた。じっと見つめられてかなり緊張したけれど、ごくりと息を飲み込みながらも、ゆっくりと頷いて見せる。
「僕には、誇れるような能力も美しい容姿もありません。かろうじて頭は悪くはありませんが……それもどこまで通用するかは分かりませんし、正直フリードリヒ様の役に立てるかと言うと難しい。周りの人から、その点について言われるかもしれない……いえ、実際言われるでしょう」
今までも、本当に自分で良いのか? 男性を王配にするにしても、もっと他にフリードリヒ様にとって良い相手が他にいるのではないか? ふとそう考えることは度々あった。
フリードリヒ様を愛し、守りたいという思いは嘘ではなかったけれど、心のどこかでフリードリヒ様にとって自身がそこまで価値のある存在だとは思う事ができなかったのだ。
(実際、謙遜ではなく周りから見れば僕以上の相手は探せばゴロゴロいるだろうしね。)
うじうじしてと他の人から見たら思われるかもしれないが、元々自己肯定感は高い方じゃない。良く言えば慎重だだけど、実際はただの怖がりに過ぎない。でも、今は勇気を出す時だという事は分かる。今はっきりと想いを伝えないといけない。そう感じた。
「……そなたはそれに耐えられると? クリフォトは確かに異世界人というだけで迫害することはないが、ある意味では実力主義だ。フリードリヒはそなたを守るとは言ったが、そう簡単にかかる火の粉をすべて払いのけることは叶わないことくらいは分かるだろう。現実は、お伽噺の様にはいかない」
「はい、わかっています」
僕がにっこりと笑いながら即座に同意すると、国王陛下はぴくりと顔を引き攣らせた。多分、こんな風にあっけらかんと僕が言うとは思わなかったんだろうな。
「一緒にいれば、多分これから色々なことが起こると思います。嫌な経験もするだろうし、落ち込む様なこともあるかもしれない。でも、たとえそうだったとしても……僕はフリードリヒ様と共に在りたいと、今は何よりも強く思っています。フリードリヒ様はこんな目立った取柄のない僕のことを特別だと……そう言ってくれる人です。こうして、国王陛下にも、ご両親にも僕のことを紹介してくれた。始まりはかなり特殊でしたし、一歩踏み出したきっかけもフィン様からの提案からが大きかったですが……今、こうやって僕に愛情を真っすぐに伝えてくれている。その事が、本当に嬉しいんです。僕は、その想いに真摯に応えたい。そう思っています。勿論、努力もしますけれど……。だって……僕もフリードリヒ様を愛していますから」
残念なことに色々と事前に考えていた筈の言葉は、上手く口から出てこなかった。けれど、格式ばった台詞のような言い回しよりも、今の想いを伝える。その方が良いのではないかと僕は思うのだ。少しだけ恥ずかしかったけれど……。
「はぁ……。お前はどちらかといえば、節操がないタイプだと私は思っていたんだがな?」
フリードリヒ様が言い切ると、国王陛下は長い沈黙の後で深いため息を吐きながら、少し肩を落とした。嫌味のようなことを言われたフリードリヒ様は嫌そうに顔を顰めたが、出会いの時の感じや周囲の話から、フリードリヒ様がそっちの方面ではかなり遊んでいるというのは事実だろうし、その点については反論しようとはしなかった。
ちらりと気まずそうにこちらを見て来たけれど、僕は別にその件については追及する気はない。全く気にならないと言えば嘘になるけど、僕をはっきりと選んでくれるとこうして断言してくれたのだ。そのくらいの心の余裕はある。そもそも僕だって、まっさらってわけではないのだから。
勿論、今後そういったお相手が僕に接近して嫌がらせをしてくるようなことがあるなら、そこはちゃんとしてほしいとは思うけれど。
過去に何もない人間なんて珍しいし、大事なのはこれからだと僕は思っている。
「父上。俺は確かに今まで不誠実な男でした。いきなりこんな風に言い出したことを信じられないと言われても仕方がないとは思っています。ですが、これからは違います。トーマと一緒になると決めた以上、俺は、トーマを愛し守り抜くつもりです。王位があろうとなかろうと、それは変わりません。俺は一人の男として、トーマをこれから守ってやりたいんです」
「……今までの相手とは違う……ということ……か」
フリードリヒ様が頷くと、国王陛下は深く息を吐きながら目を閉じた。フリードリヒ様の腕の中からじっと国王陛下を見つめながら、僕はその心中を推し測る。きっと、複雑な心境なのだろう。
だが、やはり国王陛下は決してこの件で怒りの感情を見せることはなかった。
話をする前に国王陛下が「念のために聞く」と前置きをしていた通り、フリードリヒ様の考えを変えることはできないということを心のどこかでは分かっていて、それで半ば諦めがついていたのかもしれない。
「……トーマ、そなたも同じ気持ちか? たとえ、フリードリヒがどのような立場に立たされたとしても、共にあり続けることを誓えるほど、愛していると?」
ふと視線を向けられて、僕はびくりと震えた。じっと見つめられてかなり緊張したけれど、ごくりと息を飲み込みながらも、ゆっくりと頷いて見せる。
「僕には、誇れるような能力も美しい容姿もありません。かろうじて頭は悪くはありませんが……それもどこまで通用するかは分かりませんし、正直フリードリヒ様の役に立てるかと言うと難しい。周りの人から、その点について言われるかもしれない……いえ、実際言われるでしょう」
今までも、本当に自分で良いのか? 男性を王配にするにしても、もっと他にフリードリヒ様にとって良い相手が他にいるのではないか? ふとそう考えることは度々あった。
フリードリヒ様を愛し、守りたいという思いは嘘ではなかったけれど、心のどこかでフリードリヒ様にとって自身がそこまで価値のある存在だとは思う事ができなかったのだ。
(実際、謙遜ではなく周りから見れば僕以上の相手は探せばゴロゴロいるだろうしね。)
うじうじしてと他の人から見たら思われるかもしれないが、元々自己肯定感は高い方じゃない。良く言えば慎重だだけど、実際はただの怖がりに過ぎない。でも、今は勇気を出す時だという事は分かる。今はっきりと想いを伝えないといけない。そう感じた。
「……そなたはそれに耐えられると? クリフォトは確かに異世界人というだけで迫害することはないが、ある意味では実力主義だ。フリードリヒはそなたを守るとは言ったが、そう簡単にかかる火の粉をすべて払いのけることは叶わないことくらいは分かるだろう。現実は、お伽噺の様にはいかない」
「はい、わかっています」
僕がにっこりと笑いながら即座に同意すると、国王陛下はぴくりと顔を引き攣らせた。多分、こんな風にあっけらかんと僕が言うとは思わなかったんだろうな。
「一緒にいれば、多分これから色々なことが起こると思います。嫌な経験もするだろうし、落ち込む様なこともあるかもしれない。でも、たとえそうだったとしても……僕はフリードリヒ様と共に在りたいと、今は何よりも強く思っています。フリードリヒ様はこんな目立った取柄のない僕のことを特別だと……そう言ってくれる人です。こうして、国王陛下にも、ご両親にも僕のことを紹介してくれた。始まりはかなり特殊でしたし、一歩踏み出したきっかけもフィン様からの提案からが大きかったですが……今、こうやって僕に愛情を真っすぐに伝えてくれている。その事が、本当に嬉しいんです。僕は、その想いに真摯に応えたい。そう思っています。勿論、努力もしますけれど……。だって……僕もフリードリヒ様を愛していますから」
残念なことに色々と事前に考えていた筈の言葉は、上手く口から出てこなかった。けれど、格式ばった台詞のような言い回しよりも、今の想いを伝える。その方が良いのではないかと僕は思うのだ。少しだけ恥ずかしかったけれど……。
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