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第二章 婚約者編

第十一話 思っていたよりも和やかな生活からの……どきどきの初顔合わせ①

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「やることがない……」

 一冊の本を読み終えて、僕はふーとため息を吐いた。

 使用人の女性が入れてくれたお茶を飲みながら、僕は窓の外に視線をやった。視線の先に広がる王宮の庭園は綺麗だが、毎日見つめているとさすがに飽きがくる。しかも、今日は天気があまり良くない様で、遠くの雲の色がおかしい。

(雨が降るのかな……)

 僕の一日は、無理をさせないようにというフリードリヒ様からの命令で、かなり緩めなスケジュールになっているのだが、正直言って内容の密度が薄すぎる。無理をしないで欲しいという僕への気遣いは嬉しいけれど、特別今の所分からないところなどもないし……もっと色々教えて欲しいのが今の本音だったりする。

 勉強するための部屋に講師の先生を招いて、この国の成り立ちや文化、他国との関係など一先ず絶対に覚えなければならないところから学んでいるんだけど、そもそも、僕は特別に頭が良い訳じゃないとはいえ、教職には就ける程度の知力はあるのだ。

 想定では僕がどこかで早めに躓くって思っていたのかなぁ。ちょっと複雑かもしれない。

 まぁ、それはともかくとして……。

(課題もすべて終わっちゃったんだよな……)

 申し訳程度に出された課題は、既にすべて終わっている。
 
 時間を潰せるものがないかと聞いたら「読書はどうですか?」と勧められたので、退屈しのぎになるかなと色々な本を取り寄せてみたものの、何故かほとんどラブロマンス的な話ばかりだった。正直、僕の好みじゃないんだよね。ラブロマンスが嫌い……というわけじゃないんだけど、何冊も読みたいようなジャンルではない。

(しかし、退屈って怖い)

 僕は別にがり勉という訳ではないけれど、特に何もせずにぼーっとしているというのがこんなに苦痛だとは思わなかったよ。

 時間が有り余っている状態なんて、昔は憧れたけど、実際に体験してみるとそんなに良いものでもないんだなってわかった。

(贅沢な悩みかもしれないけど、もうちょっと厳しい方がある意味楽かも……)

 礼儀作法も順調で、あとは本番で緊張せずに上手く振舞えるかどうかだと言われている。こればかりは場数を踏むしかない話だし、それは頑張るしかないけれど。

 唯一、僕が内心ではへこたれそうになっているのはダンスだ。男女両方のパートを踊れるのが好ましいと言われて頑張っているけど、これが本当に難しい。講師の先生やフリードリヒ様の足を何度踏んたことか……。

 筋は良いと先生やフリードリヒ様は褒めてはくれたけど、本当かなぁ……と僕は疑っている。だって、正直に言って僕にダンスのセンスがあるとは思えないのだ。

 最悪、フリードリヒ様と踊れれば良いって話だから女性側をまずは覚えれば良いとは言われてるけど、出来たら男パートも踊れるようにはなりたいよね。

 ちなみに、意外にもフリードリヒ様はダンスはかなり上手かった。聞くところによると剣舞もやっているって話だし、身体を動かす系は得意なのかな? 

 フリードリヒ様はこのくらいは普通だと言っていたけど、そんなことを言われると僕の立場がないくらいのレベルだと素人目に見ても思う。

 それに、実際に講師の先生にフリードリヒ様のダンスはどうなのかと聞いたら、ダンスに関しては少なくともフィン様よりもフリードリヒ様の方がお上手ですよと言っていた。一瞬、もしかするとフィン様が全く踊れないのかと考えたけど、フィン様も下手ではないらしい、

 フリードリヒ様は割と自分のことを過小評価するところがあるみたいだ。

 俺様な態度なんだけど、変な所でこうちょっと引いちゃうのは……やっぱりグレていた(?)頃のが後を引いているのかもしれない。

(うーん。今一番遅れてるのはやっぱりダンスだよなぁ)

 体力をかなり使うから、あまり根を詰めない様にとは言われているんだけど、苦手なことを重点的にやるべきだよね。ダンス以外の課題をもっと増やしてほしいって言うのは簡単だけど、課題を作ったりスケジュールを組みなおすのには手間も時間もかかる筈だ。

 僕の我儘だし。

 まぁ、でも……。こういう時に何も言わずに黙り込んでしまうのは、僕とフリードリヒ様の関係を築く上で明らかによろしくない選択だ。言ってみて駄目だと言われれば、その時にまた考えればいいし、変に遠慮するとフリードリヒ様はむしろ傷つく気すらする。

 フリードリヒ様は、僕のことを頭ごなしに否定する人ではないし、とりあえずフリードリヒ様に相談してみよう。
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