愛された事のない男は異世界で溺愛される~嫌われからの愛され生活は想像以上に激甘でした~

宮沢ましゅまろ

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第一章 出会い編

第七話 僕の新しいお仕事(?)④

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 これからのことを想像してみるが、どんな未来も今一つしっくりこない。自分がどうしたいのかも分からないけれど、それ以上にフリードリヒ様が僕とどういった関係でいたいと思っているのかが分からないからだ。

(少なくとも僕を放り出したりするような人ではないけどね……)
 




「またのお越しをお待ちしております」

「ああ。また来る」

 フリードリヒ様が店にいると知って入り口の前に人が集まっていたらしく、僕らは裏口から外に出る事になった。

 結局何も購入しなかったというのに、男性店員さんは不機嫌になることもなく、最後まで満面の笑みで丁寧に対応してくれた。仕事だからそう振舞っているのではなく、心の底からお客様のことを想ってくれているんだろうなぁというのが分かる笑みに、僕も釣られて微笑んだ。
 
(僕にまで本当に親切な人だったなぁ。あの店員さん)

 フリードリヒ様と二人並んで歩き出しながら、僕はほっこりとした気持ちになっていた。

 実は、僕のことをかなり心配してくれた男性店員さんは、医者を呼びましょうか? とまで言ってくれていた。病気とかじゃないから丁重に断ったんだけれど、帰り支度をする間も、他の店員をわざわざ呼んで、お水を持ってきてくれたり扇で仰いでくれたりと、至れり尽くせりだった。

 呼び出された女性の店員さんもとても感じの良い人だったし、本当に素敵な店なんだなぁと心の底から感心した。

 異世界人を差別しないクリフォトだけど、さすがに平民と王侯貴族の間には大きな区別がされているし、身分という概念もある。示しをつけるため、王侯貴族は自身らが上だということを誇示し、平民も王侯貴族たちが責任をしっかり果たしている限りはそれを甘受する。それが、暗黙の了解だ。

 他の国ほど顕著ではないけれど、やっぱり平民に対しては冷たい態度を取る人は一定数いるし、特にこういう王国貴族御用達の店は、そういう部分をはっきりと線引きするべきだと認識している人が多い。実際、他の店では僕を邪険に……とまではいかないけれど、空気のように扱う人もいるにはいたのだ。

 フリードリヒ様が苦言を呈して、やっとそこで僕への態度を表面的には改めるみたいな感じが結構多い。

 だから、フリードリヒ様が何も言っていないにも関わらず、僕に今回みたいな扱いをしてくれるあの店は破格の待遇だったといえる。

「良いお店ですね」

「あぁ。かなりの老舗だからな、あそこは。接客は完璧に叩き込まれているし、変な媚を売る様な者もいない。それに店主を含めて皆が目利きだから、王族以外にも名だたる貴族があの店を訪れるんだ。俺もあの店に関しては信用している」

 どこか誇らしげに言うフリードリヒ様に、なるほどなと僕は内心で深く納得する。

 何度かフリードリヒ様と出かけた際、立ち寄った店によっては、明らかにフリードリヒ様に色目を使うような人もいた。フリードリヒ様がモテるのは当然だけど、露骨すぎることが多かったし、何より一緒にいる僕をやんわりと邪魔もの扱いしてきたりと、マナー的に最悪な感じだったこともある。

 フリードリヒ様が行くような、平民には縁遠いような一流の店の筈なのに、だ。

(まぁ、でも……実際のところ、中途半端に高級な店程微妙だったりするんだよね)

 たまにだけど、とんでもない店もちらほらある。

 さっきの空気みたいに扱う店は、あくまで空気みたいにであって僕を本当の意味で完全に無視したり排除しようとはしてこなかったからまだ良い方だ。一度フリードリヒ様が言えば、それ以降は表面的にとはいえ、ちゃんと僕への対応を改めてくれるし。

 でも、フリードリヒ様に下心があるような人は、たとえどんなに諫めても態度を改めないので、本当にアレなのだ。フリードリヒ様の塩対応にもめげないし、自分に自信があるんだろうなぁ、とは思うけど、フリードリヒ様がどんどん不機嫌になるのを見て、僕の方がハラハラするからね……。

「正直、平民たちの店の方が居心地が良い」

 フリードリヒ様が以前そう言っていたのを聞いた時は「まさかな」と思っていた僕も、実際にそういう場面を経験すると同意せざるを得なかった。

(人見知りの僕だけれど、あの店の店員さんたちとなら、多分次は普通に話せるかも……)

 その日の夕食は、フリードリヒ様が予約を取ってくれた、豪華な天幕に覆われたエキゾチックな料理店だった。かなり高級そうなお店ではあったけれど、店員さんがすごく気さくだったこともあり、僕はとても楽しい時間を過ごす事が出来た。

 これからのことは、ゆっくり考えて行こう。僕はその日、そう自分の気持ちに向き合って決めたのだった。





 だが――。

 何の前触れもなく事態は急転直下を迎えることになる。

「フリードリヒと結婚してくれないかな?」

 ある日の早朝、娼館の応接間に呼び出された僕は、思っても見なかった、とある人物からの命令のようにも思える言葉に、その場で声にならない悲鳴を上げた。




――――――――――――――――――――――――
一章完結です。
次回から、二章です。
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