23 / 43
第一章 出会い編
第七話 僕の新しいお仕事(?)④
しおりを挟む
これからのことを想像してみるが、どんな未来も今一つしっくりこない。自分がどうしたいのかも分からないけれど、それ以上にフリードリヒ様が僕とどういった関係でいたいと思っているのかが分からないからだ。
(少なくとも僕を放り出したりするような人ではないけどね……)
「またのお越しをお待ちしております」
「ああ。また来る」
フリードリヒ様が店にいると知って入り口の前に人が集まっていたらしく、僕らは裏口から外に出る事になった。
結局何も購入しなかったというのに、男性店員さんは不機嫌になることもなく、最後まで満面の笑みで丁寧に対応してくれた。仕事だからそう振舞っているのではなく、心の底からお客様のことを想ってくれているんだろうなぁというのが分かる笑みに、僕も釣られて微笑んだ。
(僕にまで本当に親切な人だったなぁ。あの店員さん)
フリードリヒ様と二人並んで歩き出しながら、僕はほっこりとした気持ちになっていた。
実は、僕のことをかなり心配してくれた男性店員さんは、医者を呼びましょうか? とまで言ってくれていた。病気とかじゃないから丁重に断ったんだけれど、帰り支度をする間も、他の店員をわざわざ呼んで、お水を持ってきてくれたり扇で仰いでくれたりと、至れり尽くせりだった。
呼び出された女性の店員さんもとても感じの良い人だったし、本当に素敵な店なんだなぁと心の底から感心した。
異世界人を差別しないクリフォトだけど、さすがに平民と王侯貴族の間には大きな区別がされているし、身分という概念もある。示しをつけるため、王侯貴族は自身らが上だということを誇示し、平民も王侯貴族たちが責任をしっかり果たしている限りはそれを甘受する。それが、暗黙の了解だ。
他の国ほど顕著ではないけれど、やっぱり平民に対しては冷たい態度を取る人は一定数いるし、特にこういう王国貴族御用達の店は、そういう部分をはっきりと線引きするべきだと認識している人が多い。実際、他の店では僕を邪険に……とまではいかないけれど、空気のように扱う人もいるにはいたのだ。
フリードリヒ様が苦言を呈して、やっとそこで僕への態度を表面的には改めるみたいな感じが結構多い。
だから、フリードリヒ様が何も言っていないにも関わらず、僕に今回みたいな扱いをしてくれるあの店は破格の待遇だったといえる。
「良いお店ですね」
「あぁ。かなりの老舗だからな、あそこは。接客は完璧に叩き込まれているし、変な媚を売る様な者もいない。それに店主を含めて皆が目利きだから、王族以外にも名だたる貴族があの店を訪れるんだ。俺もあの店に関しては信用している」
どこか誇らしげに言うフリードリヒ様に、なるほどなと僕は内心で深く納得する。
何度かフリードリヒ様と出かけた際、立ち寄った店によっては、明らかにフリードリヒ様に色目を使うような人もいた。フリードリヒ様がモテるのは当然だけど、露骨すぎることが多かったし、何より一緒にいる僕をやんわりと邪魔もの扱いしてきたりと、マナー的に最悪な感じだったこともある。
フリードリヒ様が行くような、平民には縁遠いような一流の店の筈なのに、だ。
(まぁ、でも……実際のところ、中途半端に高級な店程微妙だったりするんだよね)
たまにだけど、とんでもない店もちらほらある。
さっきの空気みたいに扱う店は、あくまで空気みたいにであって僕を本当の意味で完全に無視したり排除しようとはしてこなかったからまだ良い方だ。一度フリードリヒ様が言えば、それ以降は表面的にとはいえ、ちゃんと僕への対応を改めてくれるし。
でも、フリードリヒ様に下心があるような人は、たとえどんなに諫めても態度を改めないので、本当にアレなのだ。フリードリヒ様の塩対応にもめげないし、自分に自信があるんだろうなぁ、とは思うけど、フリードリヒ様がどんどん不機嫌になるのを見て、僕の方がハラハラするからね……。
「正直、平民たちの店の方が居心地が良い」
フリードリヒ様が以前そう言っていたのを聞いた時は「まさかな」と思っていた僕も、実際にそういう場面を経験すると同意せざるを得なかった。
(人見知りの僕だけれど、あの店の店員さんたちとなら、多分次は普通に話せるかも……)
その日の夕食は、フリードリヒ様が予約を取ってくれた、豪華な天幕に覆われたエキゾチックな料理店だった。かなり高級そうなお店ではあったけれど、店員さんがすごく気さくだったこともあり、僕はとても楽しい時間を過ごす事が出来た。
これからのことは、ゆっくり考えて行こう。僕はその日、そう自分の気持ちに向き合って決めたのだった。
だが――。
何の前触れもなく事態は急転直下を迎えることになる。
「フリードリヒと結婚してくれないかな?」
ある日の早朝、娼館の応接間に呼び出された僕は、思っても見なかった、とある人物からの命令のようにも思える言葉に、その場で声にならない悲鳴を上げた。
――――――――――――――――――――――――
一章完結です。
次回から、二章です。
(少なくとも僕を放り出したりするような人ではないけどね……)
「またのお越しをお待ちしております」
「ああ。また来る」
フリードリヒ様が店にいると知って入り口の前に人が集まっていたらしく、僕らは裏口から外に出る事になった。
結局何も購入しなかったというのに、男性店員さんは不機嫌になることもなく、最後まで満面の笑みで丁寧に対応してくれた。仕事だからそう振舞っているのではなく、心の底からお客様のことを想ってくれているんだろうなぁというのが分かる笑みに、僕も釣られて微笑んだ。
(僕にまで本当に親切な人だったなぁ。あの店員さん)
フリードリヒ様と二人並んで歩き出しながら、僕はほっこりとした気持ちになっていた。
実は、僕のことをかなり心配してくれた男性店員さんは、医者を呼びましょうか? とまで言ってくれていた。病気とかじゃないから丁重に断ったんだけれど、帰り支度をする間も、他の店員をわざわざ呼んで、お水を持ってきてくれたり扇で仰いでくれたりと、至れり尽くせりだった。
呼び出された女性の店員さんもとても感じの良い人だったし、本当に素敵な店なんだなぁと心の底から感心した。
異世界人を差別しないクリフォトだけど、さすがに平民と王侯貴族の間には大きな区別がされているし、身分という概念もある。示しをつけるため、王侯貴族は自身らが上だということを誇示し、平民も王侯貴族たちが責任をしっかり果たしている限りはそれを甘受する。それが、暗黙の了解だ。
他の国ほど顕著ではないけれど、やっぱり平民に対しては冷たい態度を取る人は一定数いるし、特にこういう王国貴族御用達の店は、そういう部分をはっきりと線引きするべきだと認識している人が多い。実際、他の店では僕を邪険に……とまではいかないけれど、空気のように扱う人もいるにはいたのだ。
フリードリヒ様が苦言を呈して、やっとそこで僕への態度を表面的には改めるみたいな感じが結構多い。
だから、フリードリヒ様が何も言っていないにも関わらず、僕に今回みたいな扱いをしてくれるあの店は破格の待遇だったといえる。
「良いお店ですね」
「あぁ。かなりの老舗だからな、あそこは。接客は完璧に叩き込まれているし、変な媚を売る様な者もいない。それに店主を含めて皆が目利きだから、王族以外にも名だたる貴族があの店を訪れるんだ。俺もあの店に関しては信用している」
どこか誇らしげに言うフリードリヒ様に、なるほどなと僕は内心で深く納得する。
何度かフリードリヒ様と出かけた際、立ち寄った店によっては、明らかにフリードリヒ様に色目を使うような人もいた。フリードリヒ様がモテるのは当然だけど、露骨すぎることが多かったし、何より一緒にいる僕をやんわりと邪魔もの扱いしてきたりと、マナー的に最悪な感じだったこともある。
フリードリヒ様が行くような、平民には縁遠いような一流の店の筈なのに、だ。
(まぁ、でも……実際のところ、中途半端に高級な店程微妙だったりするんだよね)
たまにだけど、とんでもない店もちらほらある。
さっきの空気みたいに扱う店は、あくまで空気みたいにであって僕を本当の意味で完全に無視したり排除しようとはしてこなかったからまだ良い方だ。一度フリードリヒ様が言えば、それ以降は表面的にとはいえ、ちゃんと僕への対応を改めてくれるし。
でも、フリードリヒ様に下心があるような人は、たとえどんなに諫めても態度を改めないので、本当にアレなのだ。フリードリヒ様の塩対応にもめげないし、自分に自信があるんだろうなぁ、とは思うけど、フリードリヒ様がどんどん不機嫌になるのを見て、僕の方がハラハラするからね……。
「正直、平民たちの店の方が居心地が良い」
フリードリヒ様が以前そう言っていたのを聞いた時は「まさかな」と思っていた僕も、実際にそういう場面を経験すると同意せざるを得なかった。
(人見知りの僕だけれど、あの店の店員さんたちとなら、多分次は普通に話せるかも……)
その日の夕食は、フリードリヒ様が予約を取ってくれた、豪華な天幕に覆われたエキゾチックな料理店だった。かなり高級そうなお店ではあったけれど、店員さんがすごく気さくだったこともあり、僕はとても楽しい時間を過ごす事が出来た。
これからのことは、ゆっくり考えて行こう。僕はその日、そう自分の気持ちに向き合って決めたのだった。
だが――。
何の前触れもなく事態は急転直下を迎えることになる。
「フリードリヒと結婚してくれないかな?」
ある日の早朝、娼館の応接間に呼び出された僕は、思っても見なかった、とある人物からの命令のようにも思える言葉に、その場で声にならない悲鳴を上げた。
――――――――――――――――――――――――
一章完結です。
次回から、二章です。
33
お気に入りに追加
2,403
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺おとば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる