22 / 42
第一章 出会い編
第七話 僕の新しいお仕事(?)③
しおりを挟む
いつか、フリードリヒ様と別れる日がやって来たとしても……多分僕の中でフリードリヒ様と過ごした時間はかけがえのない幸福な思い出として残り続けるだろう。
「トーマ?」
僕が反応を返さないのを不審に思ったのか、フリードリヒ様が心配そうに僕の顔を見つめている。僕は慌てて、安心させるように微笑んだ。
「すみません、少し疲れてしまって……」
「……何? すまない。少し連れまわしすぎたな」
「いえ、そんなことは……っ、すごく楽しいですし」
ものすごく落ち込んだ様子のフリードリヒ様に僕は慌てて否定する。多少気疲れしているのは事実だけど、フリードリヒ様と過ごせる時間は本当に楽しいので、そこについては不満なんてない。むしろ、フリードリヒ様と友人付き合いをするなら僕の方が頑張るべきだろう。
王太子であるフリードリヒ様に、合わせてもらうなんてとんでもない話だ。
だけど、フリードリヒ様は僕が気を遣ったのだと思ったらしい。今日はこれで帰ると言い出した。
「っ、待ってください。フリードリヒ様、僕まだ大丈夫ですよ?」
布を選んでいるフリードリヒ様はとても楽しそうだったし、男性店員との会話も弾んでいたように思える。僕自身は人見知りなところがあるので理解し辛いけれど、せっかく話が盛り上がっていたのに僕のせいで台無しになったとしたら申し訳なかった。見れば、男性店員まで僕を心配そうに見つめていた。
「いや、俺が調子に乗って長居しすぎたんだ。お前にとっては、この店は初めての店だし……気疲れしたんじゃないか?」
そんなことはない。そう言おうと一瞬考えたけれど、僕は少し悩んだ後に静かに頷いた。以前の僕なら間違いなくそのまま誤魔化していただろうが、むしろそういう態度をとることで、余計にフリードリヒ様に気を遣わせるということに気づいてからは、僕は極力自分の本心を告げることに決めていた。
それに、フリードリヒ様の中で僕のおどおどとした煮え切らない態度は何故か美化されているらしく……清楚だとか奥ゆかしいとか最近は言われ始めているのだ。僕のはただ単にコミュニケーションが下手なだけなのにも関わらず、そんな風に思われるのはさすがに少し恥ずかしいし、違うという事を声を大にして言いたいので、最近の僕は大分頑張っているという訳だ。
勿論、無理なものは無理だから、はっきりと言えない事もあるけれど……。
「……ちょっとだけ。その……素敵なところだけれど、やっぱりなれない場所は緊張します」
僕がそう言うと、フリードリヒ様は「そうか」と優しく微笑みながら、僕を抱寄せて髪を撫でた。そのまま僕の額にそっと口付けを落としてくる様は、やっぱり手馴れているなぁとは思うけれど、社交辞令ではなく、本当に僕のことを考えてくれているのが分かり、胸の奥が温かくなる。
フリードリヒ様との関係は、僕にも大きな影響を与えた……んだと思う。
クリフォトに移り住んでかなりの年月が経っているのにも関わらず、僕は正直、今まで中々クリフォトに溶け込むことはできていなかったと思う。ミネアや友人たちが街の人たちと仲良くなり、ついでとばかりに僕も一緒に食事に行った時、今までの僕は所在無さげに隅の方でちまちまとお酒を飲んでいるだけだった。
(周囲が色々と話しかけてくれても俯いてばかりだったしな……)
だけど、今は昔とは違う。
ミネアたちほどではないけれど、少しずつ皆と話せるようになり、多少のぎこちなさを残しつつも、友人と言える相手も出来た。元々ミネアたちが親しくしていた相手で悪い人たちでは無かったし、勇気を出して話しかけてみれば意外にも気が合う様な人もいたのが大きいけれど……実際に僕が前向きになれたのは間違いなくフリードリヒ様のおかげだ。
フリードリヒ様が僕を褒めてくれるようになってから、僕は自身を肯定できるようになったのだから。
フリードリヒ様の胸の中に抱き止められながら、僕はやっぱりフリードリヒ様のことが本当に好きだなと改めて実感していた。
(フリードリヒ様から見たら、僕は兄……いや、弟みたいなものなのかもしれないけれど)
僕の方が年齢は上だが、精神的な意味では間違いなくフリードリヒ様の方がお兄さんだろう。
だが、個人的にフリードリヒ様の本心はとても気になってはいた。フリードリヒ様の立場上、どう足掻いても僕と結ばれるみたいなことはありえないだろうから期待はしていはいけないのは分かっているが、こんな風に甘やかされると恋愛的な意味での好意なのだと錯覚しそうになる。
(恋人にはなれないけれど、一度くらい抱いてくれないかなぁ……なんてね)
最近では、たまに以前よりも大分刹那的にそう思うようになっている。正直気持ちを持て余しているところはあった。
「トーマ?」
僕が反応を返さないのを不審に思ったのか、フリードリヒ様が心配そうに僕の顔を見つめている。僕は慌てて、安心させるように微笑んだ。
「すみません、少し疲れてしまって……」
「……何? すまない。少し連れまわしすぎたな」
「いえ、そんなことは……っ、すごく楽しいですし」
ものすごく落ち込んだ様子のフリードリヒ様に僕は慌てて否定する。多少気疲れしているのは事実だけど、フリードリヒ様と過ごせる時間は本当に楽しいので、そこについては不満なんてない。むしろ、フリードリヒ様と友人付き合いをするなら僕の方が頑張るべきだろう。
王太子であるフリードリヒ様に、合わせてもらうなんてとんでもない話だ。
だけど、フリードリヒ様は僕が気を遣ったのだと思ったらしい。今日はこれで帰ると言い出した。
「っ、待ってください。フリードリヒ様、僕まだ大丈夫ですよ?」
布を選んでいるフリードリヒ様はとても楽しそうだったし、男性店員との会話も弾んでいたように思える。僕自身は人見知りなところがあるので理解し辛いけれど、せっかく話が盛り上がっていたのに僕のせいで台無しになったとしたら申し訳なかった。見れば、男性店員まで僕を心配そうに見つめていた。
「いや、俺が調子に乗って長居しすぎたんだ。お前にとっては、この店は初めての店だし……気疲れしたんじゃないか?」
そんなことはない。そう言おうと一瞬考えたけれど、僕は少し悩んだ後に静かに頷いた。以前の僕なら間違いなくそのまま誤魔化していただろうが、むしろそういう態度をとることで、余計にフリードリヒ様に気を遣わせるということに気づいてからは、僕は極力自分の本心を告げることに決めていた。
それに、フリードリヒ様の中で僕のおどおどとした煮え切らない態度は何故か美化されているらしく……清楚だとか奥ゆかしいとか最近は言われ始めているのだ。僕のはただ単にコミュニケーションが下手なだけなのにも関わらず、そんな風に思われるのはさすがに少し恥ずかしいし、違うという事を声を大にして言いたいので、最近の僕は大分頑張っているという訳だ。
勿論、無理なものは無理だから、はっきりと言えない事もあるけれど……。
「……ちょっとだけ。その……素敵なところだけれど、やっぱりなれない場所は緊張します」
僕がそう言うと、フリードリヒ様は「そうか」と優しく微笑みながら、僕を抱寄せて髪を撫でた。そのまま僕の額にそっと口付けを落としてくる様は、やっぱり手馴れているなぁとは思うけれど、社交辞令ではなく、本当に僕のことを考えてくれているのが分かり、胸の奥が温かくなる。
フリードリヒ様との関係は、僕にも大きな影響を与えた……んだと思う。
クリフォトに移り住んでかなりの年月が経っているのにも関わらず、僕は正直、今まで中々クリフォトに溶け込むことはできていなかったと思う。ミネアや友人たちが街の人たちと仲良くなり、ついでとばかりに僕も一緒に食事に行った時、今までの僕は所在無さげに隅の方でちまちまとお酒を飲んでいるだけだった。
(周囲が色々と話しかけてくれても俯いてばかりだったしな……)
だけど、今は昔とは違う。
ミネアたちほどではないけれど、少しずつ皆と話せるようになり、多少のぎこちなさを残しつつも、友人と言える相手も出来た。元々ミネアたちが親しくしていた相手で悪い人たちでは無かったし、勇気を出して話しかけてみれば意外にも気が合う様な人もいたのが大きいけれど……実際に僕が前向きになれたのは間違いなくフリードリヒ様のおかげだ。
フリードリヒ様が僕を褒めてくれるようになってから、僕は自身を肯定できるようになったのだから。
フリードリヒ様の胸の中に抱き止められながら、僕はやっぱりフリードリヒ様のことが本当に好きだなと改めて実感していた。
(フリードリヒ様から見たら、僕は兄……いや、弟みたいなものなのかもしれないけれど)
僕の方が年齢は上だが、精神的な意味では間違いなくフリードリヒ様の方がお兄さんだろう。
だが、個人的にフリードリヒ様の本心はとても気になってはいた。フリードリヒ様の立場上、どう足掻いても僕と結ばれるみたいなことはありえないだろうから期待はしていはいけないのは分かっているが、こんな風に甘やかされると恋愛的な意味での好意なのだと錯覚しそうになる。
(恋人にはなれないけれど、一度くらい抱いてくれないかなぁ……なんてね)
最近では、たまに以前よりも大分刹那的にそう思うようになっている。正直気持ちを持て余しているところはあった。
15
お気に入りに追加
2,375
あなたにおすすめの小説
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる