21 / 43
第一章 出会い編
第七話 僕の新しいお仕事(?)②
しおりを挟む
男性店員がもってくる布は、どれもかなり派手だ。
さすがに地位も名声もあるような方々御用達だけあって、所謂趣味の悪い成金のようなものは見当たらないけれど……それでも、僕にはちょっと鮮やかすぎる。それに、突飛な変なデザインや質感ではないからこそ、逆に僕が身に纏うには無理があるように思えた。
前に僕に贈り物としてくれていた布も、平民たちから見ると高価なものだった筈だけれど、この店の布は多分桁が一つや二つ軽く違うだろう。布以外にも、アクセサリ―類や帽子、小物なども置いてあるのが見えるけれど、こっちも相当高さそうだなと僕はげんなりと肩を落とす。
(フリードリヒ様の審美眼、最近おかしいんだよなぁ)
最近のフリードリヒ様は、何故か分からないが僕のことをべた褒めするようになっていた。
可愛いとか綺麗だとか、まるで口説くような台詞のオンパレードに、正直僕はかなり混乱している。他の男娼の子やミネアにならまだ分かるけれど、よりによって僕に!? というのが、心の中での僕の悲鳴だ。
心を開きはじめてくれて、友人のように付き合い始めた段階から、フリードリヒ様からの僕への態度は大分優しい感じには変わっていってはいたんだけれど、それでも今とは全く違う温度差だったし、一体何はフリードリヒ様に起きたのか……。
フリードリヒ様が今のようになってからしばらく経つけれど、未だに謎だった。
フリードリヒ様から好意を抱かれているということくらい、あまり勘の鋭いほうではない僕でさえ分かってはいるが、そこまで劇的に僕への感情が変わる様なことをした記憶はないのだ。ただ、気づいた時にはもうこなっていた。
(まぁ……一緒にいられるのは嬉しいから、僕も結局は受け入れちゃうんだけどね)
ちなみに、王太子であるフリードリヒ様の連れだと認識されているからか、男性店員は僕にもめちゃくちゃ丁寧に接してくるのだけれど、何故かどこか生暖かい目でたまに見てくるのがちょっと不気味だ。
悪い人じゃなさそうなので、嫌悪感はないんだけどね。
「トーマ、こっちはどうだ? ん?」
太陽。そう表現しても良い程の笑みを浮かべたフリードリヒ様が僕の顔を覗き込んだ。僕の戸惑いなど、全く理解できていないんだろうなといった感じだけれど、その目はとても優しい。
すべてを吹っ切ったらしいフリードリヒ様は、以前よりかなり明るくなった。だからかな。前は少し怖い雰囲気があったんだけれど、今は本当に所謂陽キャって感じだ。地球の陽キャとはレベルが違うけれど、今のフリードリヒ様に対して偏屈そうというイメージを抱く人は殆どいないだろう。
(もしかしたら、これが本当のフリードリヒ様なのかもしれないな)
男娼の子たちは、少し陰のある感じだった昔の方が好きらしく、フリードリヒ様の変化にがっかりしていた。つれない所が良いよねと言っていた子たちから見れば、今のフリードリヒ様は優しすぎるそうだ。
「クズとまではいかないけれど、たまに悪い感じが見え隠れるするような男がたまらなく好き!」とテンション高めに話していた子たちのことが少し……いや、かなり心配になったけど、でも地球にいた頃から、ちょい悪みたいなタイプな男が大好きな人って一定数いたもんな……。なら、意外と普通かも? と思い直す。
それに、ここの男娼たちは皆が百戦錬磨だ。その辺の男じゃ多分太刀打ちはできないだろうから、僕なんかが心配することじゃないよね。
少し前までは男娼の子たちとかなり距離感があった僕だけれど、今は向こうから話しかけてくれることも大分増えていた。イシュトさんが、色々なことはぼかしつつも嫌がる僕に半ば無理矢理接待させていたって話しちゃったのが大分大きいみたいで、僕にかなり同情的なんだよね。
実際にはそこまで嫌じゃなかったことや、今はフリードリヒ様のことをお慕いしているんだよと説明しても、しばらくの間どこか心配そうに見つめられていたし……彼らも根は良い子たちなんだよな、本当。
(……幸せかもしれない、今が一番)
実際に叶うかどうかは別として、僕は生まれてはじめて、後ろ暗くないまっとうな恋愛をしているんだと思う。始まりはともかく、少なくとも今のフリードリヒ様が僕を傷つけることはないし、ナオヤ先輩の時みたいに、辛いことを言われても我慢して尽くすような歪な関係とも違う。
勿論、リードとの恋愛にすらならない暴力的な関係でもない。
娼館からスタートする恋愛が本当にマトモなのかというと微妙かもしれないけれど、僕は今のこの日常が好きだと断言出来た。
さすがに地位も名声もあるような方々御用達だけあって、所謂趣味の悪い成金のようなものは見当たらないけれど……それでも、僕にはちょっと鮮やかすぎる。それに、突飛な変なデザインや質感ではないからこそ、逆に僕が身に纏うには無理があるように思えた。
前に僕に贈り物としてくれていた布も、平民たちから見ると高価なものだった筈だけれど、この店の布は多分桁が一つや二つ軽く違うだろう。布以外にも、アクセサリ―類や帽子、小物なども置いてあるのが見えるけれど、こっちも相当高さそうだなと僕はげんなりと肩を落とす。
(フリードリヒ様の審美眼、最近おかしいんだよなぁ)
最近のフリードリヒ様は、何故か分からないが僕のことをべた褒めするようになっていた。
可愛いとか綺麗だとか、まるで口説くような台詞のオンパレードに、正直僕はかなり混乱している。他の男娼の子やミネアにならまだ分かるけれど、よりによって僕に!? というのが、心の中での僕の悲鳴だ。
心を開きはじめてくれて、友人のように付き合い始めた段階から、フリードリヒ様からの僕への態度は大分優しい感じには変わっていってはいたんだけれど、それでも今とは全く違う温度差だったし、一体何はフリードリヒ様に起きたのか……。
フリードリヒ様が今のようになってからしばらく経つけれど、未だに謎だった。
フリードリヒ様から好意を抱かれているということくらい、あまり勘の鋭いほうではない僕でさえ分かってはいるが、そこまで劇的に僕への感情が変わる様なことをした記憶はないのだ。ただ、気づいた時にはもうこなっていた。
(まぁ……一緒にいられるのは嬉しいから、僕も結局は受け入れちゃうんだけどね)
ちなみに、王太子であるフリードリヒ様の連れだと認識されているからか、男性店員は僕にもめちゃくちゃ丁寧に接してくるのだけれど、何故かどこか生暖かい目でたまに見てくるのがちょっと不気味だ。
悪い人じゃなさそうなので、嫌悪感はないんだけどね。
「トーマ、こっちはどうだ? ん?」
太陽。そう表現しても良い程の笑みを浮かべたフリードリヒ様が僕の顔を覗き込んだ。僕の戸惑いなど、全く理解できていないんだろうなといった感じだけれど、その目はとても優しい。
すべてを吹っ切ったらしいフリードリヒ様は、以前よりかなり明るくなった。だからかな。前は少し怖い雰囲気があったんだけれど、今は本当に所謂陽キャって感じだ。地球の陽キャとはレベルが違うけれど、今のフリードリヒ様に対して偏屈そうというイメージを抱く人は殆どいないだろう。
(もしかしたら、これが本当のフリードリヒ様なのかもしれないな)
男娼の子たちは、少し陰のある感じだった昔の方が好きらしく、フリードリヒ様の変化にがっかりしていた。つれない所が良いよねと言っていた子たちから見れば、今のフリードリヒ様は優しすぎるそうだ。
「クズとまではいかないけれど、たまに悪い感じが見え隠れるするような男がたまらなく好き!」とテンション高めに話していた子たちのことが少し……いや、かなり心配になったけど、でも地球にいた頃から、ちょい悪みたいなタイプな男が大好きな人って一定数いたもんな……。なら、意外と普通かも? と思い直す。
それに、ここの男娼たちは皆が百戦錬磨だ。その辺の男じゃ多分太刀打ちはできないだろうから、僕なんかが心配することじゃないよね。
少し前までは男娼の子たちとかなり距離感があった僕だけれど、今は向こうから話しかけてくれることも大分増えていた。イシュトさんが、色々なことはぼかしつつも嫌がる僕に半ば無理矢理接待させていたって話しちゃったのが大分大きいみたいで、僕にかなり同情的なんだよね。
実際にはそこまで嫌じゃなかったことや、今はフリードリヒ様のことをお慕いしているんだよと説明しても、しばらくの間どこか心配そうに見つめられていたし……彼らも根は良い子たちなんだよな、本当。
(……幸せかもしれない、今が一番)
実際に叶うかどうかは別として、僕は生まれてはじめて、後ろ暗くないまっとうな恋愛をしているんだと思う。始まりはともかく、少なくとも今のフリードリヒ様が僕を傷つけることはないし、ナオヤ先輩の時みたいに、辛いことを言われても我慢して尽くすような歪な関係とも違う。
勿論、リードとの恋愛にすらならない暴力的な関係でもない。
娼館からスタートする恋愛が本当にマトモなのかというと微妙かもしれないけれど、僕は今のこの日常が好きだと断言出来た。
37
お気に入りに追加
2,403
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺おとば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる