愛された事のない男は異世界で溺愛される~嫌われからの愛され生活は想像以上に激甘でした~

宮沢ましゅまろ

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第一章 出会い編

第七話 僕の新しいお仕事(?)②

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 男性店員がもってくる布は、どれもかなり派手だ。

 さすがに地位も名声もあるような方々御用達だけあって、所謂趣味の悪い成金のようなものは見当たらないけれど……それでも、僕にはちょっと鮮やかすぎる。それに、突飛な変なデザインや質感ではないからこそ、逆に僕が身に纏うには無理があるように思えた。

 前に僕に贈り物としてくれていた布も、平民たちから見ると高価なものだった筈だけれど、この店の布は多分桁が一つや二つ軽く違うだろう。布以外にも、アクセサリ―類や帽子、小物なども置いてあるのが見えるけれど、こっちも相当高さそうだなと僕はげんなりと肩を落とす。

(フリードリヒ様の審美眼、最近おかしいんだよなぁ)

 最近のフリードリヒ様は、何故か分からないが僕のことをべた褒めするようになっていた。

 可愛いとか綺麗だとか、まるで口説くような台詞のオンパレードに、正直僕はかなり混乱している。他の男娼の子やミネアにならまだ分かるけれど、よりによって僕に!? というのが、心の中での僕の悲鳴だ。

 心を開きはじめてくれて、友人のように付き合い始めた段階から、フリードリヒ様からの僕への態度は大分優しい感じには変わっていってはいたんだけれど、それでも今とは全く違う温度差だったし、一体何はフリードリヒ様に起きたのか……。

 フリードリヒ様が今のようになってからしばらく経つけれど、未だに謎だった。

 フリードリヒ様から好意を抱かれているということくらい、あまり勘の鋭いほうではない僕でさえ分かってはいるが、そこまで劇的に僕への感情が変わる様なことをした記憶はないのだ。ただ、気づいた時にはもうこなっていた。

(まぁ……一緒にいられるのは嬉しいから、僕も結局は受け入れちゃうんだけどね)

 ちなみに、王太子であるフリードリヒ様の連れだと認識されているからか、男性店員は僕にもめちゃくちゃ丁寧に接してくるのだけれど、何故かどこか生暖かい目でたまに見てくるのがちょっと不気味だ。

 悪い人じゃなさそうなので、嫌悪感はないんだけどね。

「トーマ、こっちはどうだ? ん?」

 太陽。そう表現しても良い程の笑みを浮かべたフリードリヒ様が僕の顔を覗き込んだ。僕の戸惑いなど、全く理解できていないんだろうなといった感じだけれど、その目はとても優しい。

 すべてを吹っ切ったらしいフリードリヒ様は、以前よりかなり明るくなった。だからかな。前は少し怖い雰囲気があったんだけれど、今は本当に所謂陽キャって感じだ。地球の陽キャとはレベルが違うけれど、今のフリードリヒ様に対して偏屈そうというイメージを抱く人は殆どいないだろう。

(もしかしたら、これが本当のフリードリヒ様なのかもしれないな)

 男娼の子たちは、少し陰のある感じだった昔の方が好きらしく、フリードリヒ様の変化にがっかりしていた。つれない所が良いよねと言っていた子たちから見れば、今のフリードリヒ様は優しすぎるそうだ。

「クズとまではいかないけれど、たまに悪い感じが見え隠れるするような男がたまらなく好き!」とテンション高めに話していた子たちのことが少し……いや、かなり心配になったけど、でも地球にいた頃から、ちょい悪みたいなタイプな男が大好きな人って一定数いたもんな……。なら、意外と普通かも? と思い直す。

 それに、ここの男娼たちは皆が百戦錬磨だ。その辺の男じゃ多分太刀打ちはできないだろうから、僕なんかが心配することじゃないよね。

 少し前までは男娼の子たちとかなり距離感があった僕だけれど、今は向こうから話しかけてくれることも大分増えていた。イシュトさんが、色々なことはぼかしつつも嫌がる僕に半ば無理矢理接待させていたって話しちゃったのが大分大きいみたいで、僕にかなり同情的なんだよね。

 実際にはそこまで嫌じゃなかったことや、今はフリードリヒ様のことをお慕いしているんだよと説明しても、しばらくの間どこか心配そうに見つめられていたし……彼らも根は良い子たちなんだよな、本当。

(……幸せかもしれない、今が一番)

 実際に叶うかどうかは別として、僕は生まれてはじめて、後ろ暗くないまっとうな恋愛をしているんだと思う。始まりはともかく、少なくとも今のフリードリヒ様が僕を傷つけることはないし、ナオヤ先輩の時みたいに、辛いことを言われても我慢して尽くすような歪な関係とも違う。

 勿論、リードとの恋愛にすらならない暴力的な関係でもない。

 娼館からスタートする恋愛が本当にマトモなのかというと微妙かもしれないけれど、僕は今のこの日常が好きだと断言出来た。
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