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第一章 出会い編

第七話 僕の新しいお仕事(?)①

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 と……切ない思いを抱いていた頃もありました。


「こちらなどお連れ様にお似合いでは?」

 都のど真ん中にある王侯貴族御用達と言われる有名店アルジュナで、僕は恰幅の良い壮年の男性店員とフリードリヒ様に挟まれながら、どうしていいか分からずにマネキンのように立ち尽くしていた。

 そう遠くない未来にフリードリヒ様との別れがやってくるだろうと思っていた僕だが、その予想に反して、あのルーイとの話を聞いてから半年以上経っても、僕らの関係は継続していた。いや、むしろ当時よりもさらに親密になっていると言って良い。

(二度と会えなくなる日が来る。そう思っていたんだけどなぁ)

 僕にすべてを話した後、フリードリヒ様の娼館へとやって来る足は一度遠退いたことは遠退いた。変な意地や見栄を張る必要がなくなったからか、ややぎこちなさが残っていた周囲の人や家族との仲も、より良い方向に変わったという話をイシュトさんから聞いていた僕は、それを寂しいと感じつつも「本当に良かった」とほっとしていたのだ。

 何だかんだでフリードリヒ様はずっと優秀な人ではあったので、元々当然のように周りは王太子としてフリードリヒ様の事を認めてはいたんだけど、やっぱりルーイとの話は色々と問題だと周囲からは捉えられていたらしい。

(かなりデリケートな話なのもあって、下手に口を出せずに悶々としていたんだろうなぁ)

 僅かに残っていた微妙なわだかまりも消えた今、フリードリヒ様の環境には何も問題はないのだから、娼館に足を踏み入れることはもうないだろう。二週間以上、フリードリヒ様が娼館に足を運ばなくなった頃には、僕はそう諦めていた。
 
 娼館の子たちを護衛したり、力仕事を手伝ったりする日々に戻った僕は、一抹の寂しさを覚えつつもそれなりに充実した生活を送っていたと思う。今はまだ辛いと感じるだろうけれど、いつかフリードリヒ様と会えない日々も受け入れられる筈だと、何度も自分を励ましながら頑張った。

 だが、そんな辛い日々は、結局は一ヶ月程度であっけなく終わった。

 満面の笑みを浮かべたフリードリヒ様が、たくさんのお土産を持って娼館に再び現れたのだ。

(あの時の娼館内、大分パニックだったよね……)

 イシュトさんに僕、それに娼館の誰もがもうフリードリヒ様は娼館には来ないだろうと思っていたので、かなり慌てたのを思い出す。

 何せその時、良い部屋がすべて埋まっていて、とてもではないがフリードリヒ様を接待できる状況じゃなかったんだよね。結局は半ば強制的にお客様に部屋を譲ってもらうという事態に陥り、イシュトさんは疲れ果てていた。

 結局、フリードリヒ様が娼館から一時足が遠退いていたのは、今後気兼ねなく娼館に出入りするために色々な根回しを行う為だったらしい。ルーイのことを吹っ切るのと、娼館通いをやめるのは話は別だと国王陛下やお兄様であるフィン様に説明したフリードリヒ様は、結局は娼館に通い続ける許可を正式に捥ぎ取ってきたのだから、本当にその行動力はすごいと思う。

 でも……今ではもはや娼館が家であるかのように、フリードリヒ様は時間さえあれば娼館に滞在するようになってしまったので、さすがにこれはまずいんじゃないかな? と僕は思うんだけどね。

 ちなみに、僕が男娼ではないことはイシュトさん同席の上でちゃんと説明してもらった。今更感はあるんだけれど、僕が他の相手と何かしてるんじゃないかとフリードリヒ様が疑っていて、色々と文句を言われて気づいたんだよね。そう言えば、それについてはきちんと説明してなかったと。

(男娼じゃないと知ってから、フリードリヒ様は顔を青くしたり赤くしたりと忙しかったなぁ)

 最近では、僕を連れて外に出かけるようになり、二人で美味しいものを食べたり劇を見たりして過ごす事が多いからか、完全にデートじゃんとミネアには笑われるような関係になっている。

「それは少し派手じゃないか? トーマにはもう少し優しい色が似あうような……」

「ふむ。では、こちらは?」

 今日のお出かけもその一環だ。高い物は受け取りたくないとずっと断っていたんだけれど、僕に無理矢理口でさせていたことを何故かずっと気にしているみたいで、どうしても罪滅ぼしをしたいと言って聞かなくて……正式に贈り物をさせてくれと言われてしまったんだ。

 宝石はさすがに無理だって言ったら、この店に連れてこられちゃったんだよね。

(本当に気持ちは嬉しいんだけど……)

「こちらも素敵だと思います!」

 もうかれこれ一時間ほど、ああでもないこうでもないと、僕の身体に布を合わせているのを眺めているだけの時間が過ぎている。いくらなんでもそろそろ帰りたいなというのが、今の本音だった。
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