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第一章 出会い編

第二話 相反する気持ち1

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 初対面で、僕は完膚なきまでに問題外と言われてしまったのだけれど、それは仕方のない事だと思う。

 シェルの外見は本当に可愛らしくて、やや骨ばった所が無ければ背の高い女の子に見えるのだ。
 いや、クリフォトの女性は背も高いしがっしりしているので、彼女たちよりも女性に見えるかもしれない。

 対する僕は顔立ちが平凡以前に、体つきががっしりしている。
 鍛えている戦士の女性には僕と同じくらいの体格の人もいるし、稀に僕よりもがっしりした人もいるけれど、一般的な女性の体格は僕よりはほっそりしているので、なおさら僕はフリードリヒ様の理想からはかけ離れている。
 髪も黒で、肌の色もやや色黒だ。
 
 フリードリヒ様は文句を言っていたけれど、僕は命じられたとおりに僕以外は空いていないのだと言うしかない。
 この方は怒鳴り散らしたりはしない人の様だけれど、静かに淡々と嫌味を言われてしまい、僕は笑顔を引きつらせた。
 
 何とか宥めて、お酌をすることは許されたのだけれど、当然フリードリヒ様は僕には指一本触れようとはしなかった。
 それどころか、会話も無いのだ。
 黙ってグラスを突き出されて、僕はお酒をなみなみと注ぐだけ。

 でも、僕はそれでもちょっと嬉しかった。

 三十歳を過ぎて一目惚れをするなんて、正直少し戸惑いもあったけれど、ナオヤ先輩を好きになった時なんて比べ物にならない程、その姿を見ているだけで心が弾むようだった。
 
 僕みたいな平凡を宛がわれれば、いつか嫌になるだろうなんて、イシュトさんは正直失礼極まりない命令を僕にした。でも、そんな少し悲しい気持ちも、こうしてフリードリヒ様に会えたのならば、今ではもう些細な話だ。
 何せ、こんな展開でもなければ、僕がフリードリヒ様にお会いする事などなかったに違いない。
 
 そしてその日から、フリードリヒ様が館にやってくるのが、僕の楽しみになった。

 いつも僕が宛がわれる度に、フリードリヒ様はすごく嫌そうな顔をしていた。

「お前以外の男娼はどうしているんだ!?」

 初めの二、三回は、フリードリヒ様も渋々ではあるが我慢されていたのだけれど、それが五回、六回と続けばさすがに我慢が出来ないとばかりに詰め寄られた。

「すみません……人気の子ばかりなんです」

 僕にはそう言うしかない。

 実際、僕以外の子も空いている子は居るのだけれど、フリードリヒ様に宛がってしまえば本末転倒なのだ。
 男娼たちは、貴族や裕福な層の人間に身請けされることを望んでいる子も多いし、フリードリヒ様はその点においては申し分のない人なんだろう。実際、今回僕がフリードリヒ様に付くと言う話を聞いた、シェルを含めた他の男娼たちは、口にこそ出さないが不満そうな顔をしていた。

 イシュトさんは、僕以外の男娼の子たちには、詳しい話はしていないのだ。

 男娼たちはお客様の情報を変に噂したり利用することは無いけれど、自身に大きく利益があると分かればそうはいかないという事で、最低限の話のみが伝えられていた。

 ただ、フリードリヒ様の本意ではない事は男娼たちにも分かる様で、僕にちょっとした嫌がらせが最近ではあるんだけれど。

(僕はいつも怒るフリードリヒ様を宥めながら、ただひたすら酒をグラスに注ぎ続けるだけなのにね)

 ――そして、今日もまたフリードリヒ様との時間が始まる。

◆◇◆

 眉間に皺を寄せながら、フリードリヒ様が酒を飲み干す姿を、僕は邪魔にならない程度に見つめる。
 不躾な視線は問題だが、フリードリヒ様からの感情如何は関係なく、持て成す側の僕がフリードリヒ様を見ないのもおかしな話だと言うのを、実は僕は以前に当人から指摘された。

『……おい。お前は何のためにここにいるんだ? 俺を見ない、と言うのはいくら何でも問題だろう』

 今まで全く僕に話しかけてくれなかったフリードリヒ様にそう言われた時は、嬉しい気持ちと共に、少し自分が恥ずかしくなった。
 僕は、フリードリヒ様が僕に見つめられて嫌な気持ちになるのは、と、出来る限り視線を合わせないようにしていたのだけれど、確かに持て成す側としては失格だ。

 多少お客様が嫌な態度を取っても、笑顔でかわすくらいできないなら、こういう仕事は出来ない。
 僕は正確には男娼では無いが、今は男娼としてフリードリヒ様の前に出てきているのだ。たとえ、フリードリヒ様が僕にそういう意味で手を出さないとしても、僕もこの館の一員である事は紛れもないのだから。

 それからは、僕も出来る限り他の男娼の子たちに倣い、頑張るようになった。

「……ふん。だいぶ見れるようにはなってきたな、お前も」
「……ありがとうございます」

 僕は、フリードリヒ様に出来る限りの笑顔で答えた。

 何度か通う内に、フリードリヒ様は僕と話をしてくれるようになっていたが、別にそれは僕を好ましく思ってくれているわけではない事を、僕はきちんと理解している。
 むしろ、僕への態度は日に日に悪化していっていると言っても良い。

 最初は、純粋に嬉しかったのだ。
 僕を見てくれなくても、近くでこうして過ごす時間を貰えて、稀に会話もしてもらえるのだからと。

 けれど、フリードリヒ様は現状がどこかおかしい事にちゃんと気づいていて、僕の様子を窺っているだけだった。
 僕を排除して他の男娼の子、出来ればシェルをこの場所に呼びたいのだと、いつからかフリードリヒ様の言動は常に僕にそう示していた。

 そうして気づけば、ある日から嫌がらせの様な事をフリードリヒ様は僕にするようになっていった。

 もう少し見目が良ければ、と僕を蔑む一方で、フリードリヒ様は僕に性的な事を度々強制するようになったのだ。
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