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3巻

3-3

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「何か問題がありましたか?」
「ケンゴのステータスを見たのだが、表示されている名前や種族、説明などがデタラメだ」
「デタラメ? ああ、それは私のスキルのせいですね。他の者を鑑定してみてください」

 恐らく『偽装』の効果だろう。俺の『偽装』はLV10あるから、それ以下のレベルの『鑑定』では正しくステータスが表示されない。
 レルドは素直に周囲にいる別の者を鑑定しはじめる。
 てっきり俺のスキルについて突っ込まれるかと思ったが、何も言われなかった。確かこの世界は相手のスキルを聞くのはマナー的に好ましくないんだったな。『偽装』は説明し辛いから助かった。

「確かに、これは凄いな。人のスキルやステータスだけでなく、物の状態や説明まで見られるのか」
「ええ。たとえば、食料に毒が混入した場合でも一目でわかりますよ」
「それが本当なら、この魔道具はかなり有用だな。陛下もぜひお試しください」

 そう言うと、レルドは玉座に近づいて王様に腕輪を手渡した。

「おお、確かにこれは凄いな! しかし、この皆に表示されるレベルという数値はなんだ? ステータスとは何が違うのだ?」

 王様にも気に入ってもらえたようだが、彼もレベルという概念は知らなかったらしい。

「それは強さの基準と思ってもらえればいいでしょう。肉体のレベルが上がるとステータスが向上しますし、スキルレベルが上がると効果が向上します。きたえれば数値も上昇していきますので、自分が強くなっていくのが客観的にわかって便利ですよ」
「それが本当なら、凄い発見だぞ。貴殿はこれほどの物を市場に流すのか?」
「いえ、売るのはもう少し効果を抑えた物にする予定です。ああ、もちろんレベルは測れますよ」
「ふむ、なら問題はないか。その魔道具の販売を開始次第、私達が優先的に購入することは可能か?」
「ええ、そのように手配しましょう」
「では、早急に土地と建物を見繕みつくろおう。この魔道具はきっと王国を変えるぞ。次に資材や物資については、大臣と話してもらおう。こちらにも用意できる物とできない物があるからな」
「こちらも、部下のジャックから後で詳しく伝えさせます。希少な物や高価な物などを大量に要求するつもりはないので、安心してください」
「よかろう。最後に魔石か。いったいどのような魔石が欲しいのだ? この城にある最上級の魔石といえば、昔勇者が討伐した風竜の物だな。それのことか?」
「いえ、違うと思います。私も素性は詳しくはわからないのですが、グライブ陛下が座っている椅子の下に魔石が埋まっているようなのです。それに興味が――」

 と、俺が言いかけたところで、王様の顔色が変わった。
 即座にレルドが周囲にいた兵士を展開させる。

「全員!! その者を陛下に近づけるな!!」

 全員抜剣し、俺に厳しい目を向けてくる。貴族の中にも剣に手を掛けたり、魔法を詠唱したりする者がいる。
 突然どうしたんだ? ついさっきまでなごやかなムードだったのに。
 ひとまず俺は害意がないことをアピールするために両手を上げて王様の方を見る。
 先ほどまでの友好的な表情は消え失せ、露骨ろこつにこちらを探るような視線に変わっていた。

「貴殿はどこでその話を聞いた?」
「話? なんのですか?」
「魔石の話だ。先ほど言っただろう? 封印したばかりの魔王の魔石片が欲しいと。この王城内でもどこに封印したかは一部の者しか知らない極秘事項だ。もう一度尋ねる。貴殿はいったいどこでその話を聞いた?」

 魔王の魔石片? 俺はただ地球出身者の魔石だから、王様に譲ってくれないか聞いただけなのだが……まさかそれが魔王の魔石だとは。本当は勇者の魔石の間違いじゃないのか?
 とりあえず、誤解をくために説得してみよう。

「どこで聞いたのかと言われても、誰にも聞いていないとしか答えられません」

 俺は今にも剣を抜き放ちそうなエレナとメルドを手で制止しながら、王様の質問に答えた。

「この魔石片は帝国の動きに備えて先日封印したばかりだ。一般に情報公開しているのは別の場所なのに、どうしてわかったというのだ。返答次第では、いかに我が国の恩人といえども拘束せざるをえない」
「そもそも、私はその魔石が魔王の物だとは知らなかったんですよ。たまたま私のスキルで感知したので、聞いてみただけです」
「本当か? 先ほども言ったが、この城には他に強力な風竜の魔石もある。貴殿の感知に引っかかり、要求した魔石が風竜ではなく魔王の魔石片だというのは、少し都合が良くないか?」

 確かに、不自然でこじつけっぽいが、ここでリアムの能力を明かすと彼女に危険が及ぶ可能性があるから、なるべく伏せておきたい。
 それに、魔石の声を聞いたなんて言ったら話が余計にややこしくなりそうだ。俺がスキルで見つけたていでいこう。

「私のスキルで判明したのは、それが魔王の魔石ということではなく、勇者と故郷を同じくする者の魔石だということです。私がその魔石に興味を抱いた理由もそこにあります。ただ、先ほどの要求に関しても、そちらに都合が悪いのであれば、無理に欲しいとは言いません」

 勇者の故郷の件が衝撃的だったのか、一気に潮目しおめが変わった。

「勇者と故郷を同じくする者の魔石だと……? そのような事実は過去の文献や伝承にもないぞ? 本当なのか?」
「詳しくはわからないのですが、同じ反応ですので、恐らく間違いありませんよ。その魔石の主は、過去に地球という所から来たようです」
「そうか。一応道理は通っているな。まあ、貴殿ほどの実力者が本気でこの魔石片を狙っているなら、わざわざこちらに知らせず強奪した方が早いだろう。皆の者、警戒は不要だ。剣を納めよ」

 王様がそう言うと、兵士達は全員警戒を解いて列に戻っていった。
 ふぅ、少し焦ったな。まさかリアムが言った魔石が魔王の魔石だったとは……
 何しろ、この魔石は帝国と王国の戦争の原因だ。せっかく築きかけていた信用が失墜しっついするところだった。
 本当に『神の幸運』スキルは良い働きをするよ……

「しかし、魔王と勇者が同郷とは……にわかに信じられんな」

 王様は事実を受け入れられないらしく、けわしい表情で呟いた。

「ちょうど引き渡しのために勇者を連れてきたので、確認してみてはいかがですか?」
「おお、それがいい。勇者を我が前に」

 王様の言葉に従って、後ろで待機していたマリアとリンが勇者を俺の隣に引っ張ってきた。
 王様は勇者を値踏ねぶみするようにじっくり見る。

「ふむ……その者は本当に勇者なのか? 帝国は勇者を召喚した事実は公表しているが、勇者の素顔は他国に一切公表していない。確認する術がなければ、信用はできんぞ?」
「ああ、大丈夫です。グライブ陛下がつけている『鑑定の腕輪』でご覧ください」

 早速勇者を鑑定しているのか、王様の視線が空中を行ったり来たりしている。
 こちらからはステータス表は見えないので、一歩間違えるとただの挙動不審な奴だ。

「確かに、職業が勇者になっているな。だが、何故拘束しているのだ?」
「逃げ出すからですよ。この勇者が何をしたか、聞いていますか?」
「レルドから聞いている。帝国が戦を仕掛けてきた理由は、その勇者が扇動せんどうしたからだそうだな?」
「ええ、その通りで――」

 と、俺が答えようとしたところを遮って、村上君が声を上げた。

「俺はやってねーよ! 帝国がついてきてくれって言うから、嫌々同行しただけだ。無実もいいところだぜ」

 こいつ……この前はあっさり認めたくせに、いよいよヤバいと自覚して保身に走ったな。全て帝国のせいにし出した。
 こんな奴が世界を救う勇者だなんて、本当に笑える。

「それは本当か?」
「ああ、間違いねーよ。なんでも、王国は魔王を擁護ようごしたんだってな? だから攻め込んだって聞いたぞ」
「我が国が魔王を擁護した事実は存在しない。しかしレルドの報告にあった内容と、勇者殿の主張は一致しないが……?」

 そう言って、王様は俺を見た。

「その件については、何も言うことはありません。一応、ステータスに勇者と表示されているので殺さずに連れてきましたが、引き渡した後の処遇は私のあずかり知るところではありませんので。今回のいくさで被害を受けたのは王国ですから、そちらが判断すればよろしいかと。ただ、虐殺された王国民のことを考えると、扇動者を野放しにするのはすっきりしませんが」

 俺の言葉を聞いた勇者が、不服そうに吐き捨てる。

「はっ、何が扇動者だ。俺に言わせればこいつの方がよっぽど怪しいぜ。さっきだって魔王の故郷がどうとか言ってたが、本当は魔王の魔石を集めてるんじゃねーのか?」

 ぐっ……本当にこいつは良い性格をしている。

「なるほど。では一つ勇者殿に聞こう。勇者殿の故郷の名前はなんと言うのだ?」

 王様は一つ頷くと、勇者に質問した。

「故郷? 答えたら解放してくれるのか?」
「考慮しよう」
「確約してくれねーんだったら教えられねーな。勇者である俺よりもコイツの言葉を信じて、はなから疑ってくるような連中には、何言っても無駄だ」
「そうか、よくわかった。おい! 勇者殿は拘束したまま部屋に連れて行け。私が指示を出すまで決して目を離すな」
「はっ!!」

 王様の号令で、並んでいた兵士達が数人飛び出し、勇者をどこかへ連行する。

「おい!! 拘束くらい解けよ!! 俺は勇者だぞ!」

 やがて、勇者の怒声は遠くなり、謁見の間に静寂せいじゃくが戻った。
 これで俺の疑惑は解けたのかな?

「勇者を連れて行って良かったのですか? まだ故郷について聞いていないと思うのですが……?」

 俺が心配して尋ねると、王様は口元を緩めた。

「構わん。実は先ほど、この『鑑定の腕輪』を使用した際に、勇者の説明欄に地球なる土地の出身であると記載されていた。勇者がどのような態度を取るか見ていたのだが……あの勇者より貴殿の方が信用できそうだ」

 わかっているならちゃんと教えてくれても良いだろうに。王様も本当に人が悪い。

「では、私の疑惑も?」
「ああそうだな。魔王と勇者が同郷など、今すぐには受け入れられぬが、少なくとも貴殿が嘘を言っていないのはわかった。勇者を処刑したとあっては各国から非難されるかも知れぬので、あやつの処遇は難しい。しかし、我がエスネアート王国を蹂躙じゅうりんした罪は重い。捕らえた帝国兵も含めて必ず報いは受けさせる」
「そうですか、それであれば、戦の犠牲者も浮かばれますね」
「貴殿は我が国の民ではないのに多くのことに配慮してくれているのは、今日話しただけでも十分理解できた。貴殿は拠点を認知してほしいと言っていたが、いっそ配下と共に我が国に来ぬか? 爵位も授けるし、新たに領地も与えるぞ?」
「うちの拠点には個性豊かな奴が多いので、この国で暮らすには何かと障害が多いでしょう。ですので、大変ありがたい申し出なのですが、お断りさせていただきます」
「そうか……残念だが仕方ない。気が変わったら、いつでも言ってくれ。ではこれより褒賞の準備をさせよう。それとは別に、この後祝賀会を開くので、ぜひ参加していってほしい。娘にはその間に出発の準備を整えさせよう」
「わかりました」

 俺は王様に一礼し、謁見の間を後にした。


 ****


 謁見を終えた俺達は先ほどの部屋で少し待機した後、祝賀会の会場に足を運んだ。
 しかし、これはどう見ても俺みたいな一般人が、軽はずみな気持ちで参加しても良いような宴ではなかった。
 大きな会場に立食形式での食事……ここまでは会社のパーティーや結婚披露宴けっこんひろうえんでもあるレベルだが、問題はここからだ。
 会場内を埋め尽くす来賓達の服装は信じられないほどきらびやかで、楽団の生演奏にあわせて会場中央のダンスホールで男女が手を取り合って踊っている。
 服装からしてみんなこの国の貴族だろう。普段からこういうパーティーに慣れているのか、緊張した様子もなく、立ち居振る舞いがいちいち優雅ゆうがだ。
 俺達はこれから、主賓として紹介されて入場するらしい。
 考えただけでも気が滅入めいる。
 目立ちたくない俺からすれば、これはもう完全に罰ゲームだ。
 控え室でジャックから話を聞いた俺はこれから始まる悲劇を想像し、いち早く手を打った。
 すぐに第二王女を探して、クリスと一緒に誘拐されたところを助けた貸しを持ち出して、先にこっそり会場入りさせてくれるように全力で頼み込んだ。
 おかげで俺は、一人静かに壁際に逃れることに成功した。
 さて、いよいよ入場が始まった。モーテンを筆頭にみんなが荘厳そうごんな音楽の中一人一人名前を呼ばれ、戦争での活躍ぶりなどのナレーションと共に入場してくる。みんな会場の注目を一身に浴びながらも堂々と歩くが、既にファンがついた者もいるのか、拍手や喝采かっさいの量が違う。
 その様子を遠目に見守りながら、俺はドン引きしていた。
 さっきのナレーションの武勇伝は、下手をすれば俺主体のものになっていたかもしれなかったのだ。あんな持ち上げられ方をしながら入場した日には、いったいどうなっていたことか……考えるだけで頭が痛い。
 さいわい、ナレーションの内容はモーテンが活躍した体に変更されている。
 さすが王女様だ。仕事に抜かりがない。
 レルドや第二王女は俺が極力目立ちたくないと知っているから、協力してくれたのだろう。
 ありがとう。この恩は決して忘れない。
 それにしても、改めて遠目からうちの拠点の奴らを見ると、明らかに他の参加者よりも目立っている。
 みんな以前から整った顔立ちをしているとは思っていたが、ここまでの存在感はなかったはずだ。
 やはりレベルが上がって強化していく段階で綺麗さが増してきている気がする。しかもオーラとでも言うのか、独特の雰囲気がある。
 彼らが入場するなり、ダンスの申し入れや武勇伝を聞こうとする者が先を争って話しかけて、人だかりができてしまった。
 中でも、エレナとモーテンの人気は飛び抜けているな。
 リアムの周りはあまり集まっていない気がするが、強化不足なのか子供だから話しかけないのかはわからない。
 そうこうしているうちに、会場に王様も入場してきた。
 すぐにモーテン達に話しかけて、談笑している。
 遠目から見ているとエレナやジャックはいたって平常運転だが、モーテン達は貴族相手にどう対応していいか勝手がわからず苦慮しているみたいだ。
 元はただの山賊だったからな。いらぬ苦労を掛けて申し訳ない。
 とりあえず、俺はこのままひっそりと美味しい料理だけを食べて帰る予定だ。
『隠密』が仕事をしていれば、恐らく誰も俺に気付く人間などいないだろうからな。
 しかし、過去の魔王が同じ地球出身だと知って本当に驚いた。
 王国の図書館の蔵書には過去の勇者の冒険譚ぼうけんたんなどはあるらしいが、魔王に関してはどうも抽象的な記述しかないみたいだ。
 何故ここまで魔王に関して情報が少ないのだろうか?
 以前にも同じ地球から複数の人間が召喚されて、勇者と魔王になったのだとするなら、俺が今世の魔王だという村上君の主張が正しいことになってしまう。
 本当に勘弁してほしい。
 魔王ってなんだ、魔王って。
 拠点の隅で静かに穏やかに過ごしたいと望む魔王なんて、いると思うのか?
 そんなのを討伐しに来る勇者も可哀かわいそうだ。
 文献や口伝くでんがない以上、より詳しい情報を得るには王国各国が所有しているという魔王の魔石を集めるのが手っ取り早い。
 だがこれはあまりに難易度が高すぎる。しかも、そんな行動が周囲に露見ろけんした日には、過去の魔王の復活を目論もくろむ今世の魔王だと見做みなされてしまうだろう。
 だったら、今の俺にできるのは魔王だと思われないように行動で示すことだけだ。
 幸い、今回の戦争で王国と関係を作れたから、俺や出店や交易を通して拠点の存在を認めてもらえるように努力するしかないな。
 まあ、もしかしたら、俺の他にも地球人がこちらの世界に来ている可能性だって否定できない。
 俺を転生させたあの神様なら〝不安だからもう一人送っといた〟とか言い出しても不思議じゃないしな。
 これ以上悩んでも仕方ないか。

「何か考え事ですか?」
「!?」

 料理に舌鼓したつづみを打ちながら、魔王について考えていると、突然後ろから話しかけられた。
 第三王女だ。

「んぐっぐ……はぁはぁ、いやはやビックリしましたよ。よく私を見つけられましたね」

 油断していた俺も悪いが、驚いてせっかくの料理がのどに詰まってちょっと死にそうだ。

「はい、エレナさんから会場の隅か、料理が減っている所を重点的にさがせばいいと聞いたので。いっ箇所かしょだけ料理が異様に減っている場所を見つけて、注意深く観察していたら、あなた様の姿が目に入ったものですから……驚かせてしまったのでしたら申し訳ありませんでした」

 そう言うと、第三王女は頭を下げた。
 おいおい、王女が頭を下げている場面を誰かに見つかったら絶対に注目の的だ。
 俺はこの状況に危機感を覚えて周囲を見回すが、エレナ達の魅力が余程凄いのか、未だに彼女達の方に人が集まっていて、こちらを見ている者はいない。
 それにしてもエレナの奴、もう少しマシな説明をしてほしいものだ。
 食べ物が減っているところを探せだなんて、ただのいやしんぼうみたいじゃないか。
 それに、俺のことに関してはかなり詳しくなってきたはずなのに、どうして俺を目立たせようとするのだろうか?
 ……謎だ。

「どうか頭を上げてください、クリス様。それくらいで謝る必要はありませんよ」
「あなた様はこれから私の主人になるお方です。ご迷惑をお掛けしたのであれば謝罪するのは当然かと思います。それに、私のことはクリスと呼び捨てでお呼びください。言葉遣いも普段と一緒で構いません」

 ん? 主人? 言い方が気になるが、約束だと〝たましいまでささげろ〟とかエレナが言っていたし、奴隷のような感じだと思っているのだろうか。

「では、お言葉に甘えて少し言葉を崩させてもらうけど……何か俺に用があったのかな?」
「はい、この度は我がエスネアート王国を救っていただき、本当にありがとうございました。私はこれからあなた様のもとでこの身を捧げ、尽くしていく所存です。まだわからないことが多いので失礼を承知の上でお聞きいたしますが、私は何をすればよいのでしょうか?」

 何をするのかって? ……正直、俺にもわからない。
 恐らくジャック達に具体的な計画があるだろうから、そっちに聞いてもらおう。

「俺も詳しくは知らないんだよ。外交関係の仕事を任せると思うけど、具体的にはまだ何も。後でジャックかエレナに聞いてみて。それ以外は拠点でのんびり生活してもらって構わないよ。今の生活と比べると不便に感じるかもしれないけど」
「そうですか、その様子だとあなた様が直接私を望んだわけではないのですね……少し残念です」

 いったい何が残念だと言うのだろうか?
 本当にこの世界の女性は謎が多い。

「そういえば、先ほどは心ここにあらずといった様子でしたが、何か悩み事があるんですか? 力になれるかはわかりませんが、私で良ければお聞かせください」
「ああ、魔王について少し考えていたんだよ。情けないところを見られてしまったね」
「いえ、お気になさらないでください。それにしても、魔王についてですか……。確か先ほど陛下とお話しされていた際に、勇者と魔王の故郷が同じとおっしゃっていましたね」
「そうだね。それについて詳しく調べたいんだけど、王都には勇者はともかく魔王関連の資料はほとんど残っていないらしいね」
「確かに、私も興味を引かれます。もし勇者と魔王が同じ故郷出身だとしたら、その違いは種族ではなく行動――人間を守護した者か害した者か、ということになるのではないでしょうか。でしたら、人間以外の国、主に魔国か獣王国を調べてみるのが良いかもしれません」

 ほうほう、守護した者に害した者か。
 この王女様は面白いことを言うな。
 だとしたら、今回勇者は完全に人間に害を為しているし、俺は結果的に人間を守っている。
 本当にどういう基準で勇者やら魔王やらになるのだろうか? 単に職業名で記載されているだけとは思えない。そもそも俺のステータスには職業欄は記載されていないから、完全に無職扱いだし。
 それも含めて、今後は少し広い範囲で情報を収集しないといけないな。
 だが、おかげで次にどこに行くかは大体決まった。


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