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16話

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浅井side

荷物を置き終えた俺たちは部屋を出てのどかな景色を眺めながらどの場所の絵を描くか考える。


このコンテストは少し変わっていて、1日目の13時から一斉にコンテストをスタートし次の日の13時まで好きなように絵を描き完成させればいい。


その後2時間の選考の元、15時半よりコンテストの受賞者の発表となっている。


そのため殆どが自由行動となる学生の参加者たちは保護者と一緒に歩いて自分達の描きたい場所を探していた。


俺は荷物を背負い月島先生と一緒にいい景色を探していると、そこにはどこか見た事がある女がいて俺は目を細めじーーっと目を凝らす。


あの女は確か…


佐々木の横にいたぶりっ子女だ。


やっぱり…女子高生だったんだ……


その女も保護者らしき人とどのスポットで絵を描くか相談していて、俺はその女がここにいる衝撃から視線が離せない。


凹「ん?何をそんなマジマジと見てるんだ?」


そんな俺に気づいた月島先生が俺の視線の先を探すようにそう言ってきたので、俺は慌てて月島先生の肩を持ち、その女がいる逆の方向に身体を向けさせると、俺はその女から1番離れたスポットを選んで絵を描きはじめた。


久しぶりに鉛筆を持ち、風景のデッサンからしていくのに不思議とその手には違和感はなく、何故か自分でも驚くほどにスラスラと鉛筆が進んでいく。


月島先生はそんな様子の俺を見てホッとしたのか、背伸びをして深呼吸をすると少しリラックスし始めた。


凹「浅井くん。先生、ほかの参加者さん達の様子見てくるから、何かあったら連絡して?」


月島先生はそう言うとゆっくりと歩き出し一生懸命、絵を描いているコンテストの参加者の様子を見ていく。


正直、月島先生がずっと横にいると緊張するので俺は少しホッとした。


俺は周りも見えなくなるほど絵に集中し、こんなにも何か一つの事に没頭した時間を過ごしたのは生まれて初めてかもしれない。


全体的な図が出来てきた俺はその絵に息を吹き込むかのように色付けをしていく。


一つの色を出すにも色んな色を重ねて自分の思うような色に仕上げていく。


俺は今まで自分で感じたものをうまく表現出来なくてもどかしい気持ちになる事が多かった。


しかし、絵と出会った俺はそんな自分のもどかしい気持ちを絵で表現するかのように筆を動かしていく。


そんな瞬間がとても心地よかった。


コンテスト1日目の終わりを知らせるチャイムの音がなりスマホを見るとちょうど18時だった。


絵の具で汚れた手を見て横にあったタオルで拭きながら片付けをしていく。


この感じだと明日の時間内にはいい感じに仕上がりそう。


そう満足気に思って振り返るといつの間に戻ってきていたのか、後ろで小さな椅子に座った月島先生がうたた寝をしていた。


先生の無防備なその姿をみた俺はゆっくりとしゃがみ先生の顔を見つめる。


ちゃんと俺はあの時、忠告したのにな…


気をつけてって。


なのに先生は俺のそんな言葉を気に止めることもなかったのか、気をつけるどころかまた、俺の前でそんな無防備な姿を見せている。


す~っと風が吹き先生の前髪を揺らすと俺は口を開いた。


凸「月島先生…終わったよ。」


俺の呼びかけに少し眉間にシワを寄せながら目を覚ました月島先生。


俺がニコッと笑うと月島先生はハッとした顔をして、俺から目を逸らししゃがんでる俺を取り残して1人先に立ち上がる。


凹「あ…ごめん…俺…」


いつも月島先生は俺に対して自分の事を「先生」と呼ぶが、目覚めたばかりで焦っていたのだろうか?


初めて月島先生の口から出た「俺」という言葉に俺は素顔の先生を見たようで少しドキッとした。


凸「宿舎に戻りますよ。19時からご飯だし。」

凹「あぁ…うん。そうだな。」


俺が片付けをしていると月島先生も一緒になって片付けを手伝ってくれ、荷物を運ぶのも手伝ってくれた。


つづく
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