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第十三話

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ツキヤサイド

俺は研究所に着くまでの間、みんなにウイルスについての真実を話した。

Y「それ…マジかよ…」

N「俺たちの知らないとこでそんな事が…」

J「尚更…どうにかしないといけないよ…こんな事…」

T「伝えよう…真実を世の中に…」

俺の横で必死に息をしながら苦しむカケルを見て俺はそう言った。

研究所に着くとジンイチロウさんが慌ててカケルを連れて手術室へ入った。

ヨシキさんはミライとヒイラの検査をすると言って検査室へ向かう。

そして、俺は…

T「ノリさん…ノリさんはこの事に関わらない方が…」

N「俺が父さんいや、首相に直接伝える。」

ノリさんはそう言って電話を取った。

俺はふたりの会話を聞いてはいけないような気がしてその部屋からでた。

静かな研究所。

俺はこの研究所に缶詰めになって謎のウイルスについてずっと調べ続けてきた。

初めはばあちゃんと俺の故郷をなくした憎きウイルスのため…

今ではなぜかその憎い気持ちなんて微塵もなくて…

むしろ、悲しくて切ない気持ちでいっぱいになった。

彼らはあの閉鎖的な森で苦しみ耐えてきた。

それも全て人間のせいなのに…

しかし、人間は自分達がしてきた事を棚にあげ彼らは悪だと洗脳し続けてきた。

どちらが悪なのか…俺は人間であることが少し恥ずかしく思えた。

どれくらいの時間がたったのだろう…

廊下のベンチに座ってそんな事を考えているとジンイチロウさんが顔を覗かせた。

J「ツキヤ…彼、目が覚めたよ。」

俺は慌ててカケルの元に向かった。

恐る恐るカケルの顔を覗き込むと、顔色のいいカケルが俺を見て笑った。

K「心配かけてごめん…」

T「良かった…」

ほっとしたのか俺の頬には涙がこぼれ落ち、カケルは笑いながら俺の涙を拭う。

そして、カケルの瞳は右は紫…左は黒になっていた。

J「ワクチンも打ったからもう心配ないね…まぁ、purple一族の場合は元々人間と同じように食事から栄養は取れてるみたいだけど。」

K「ありがとうございます。」

そんな話をしているとヨシキさんがミライとヒイラを連れて入ってきた。

Y「ジンイチロウさん…彼らの検査して見たんですけど…」

J「何か問題あった!?」

Y「俺たちが作ったワクチンよりも彼らに流れてる血液の方がはるかにウイルスへの効果がありました…」

J「ってことは…ワクチンを使わなくても彼らの血液で他の吸血鬼達も救えるってこと…?」

Y「おそらく…」

T「ワクチンじゃなくて彼らの血液なら国の許可がなくても大丈夫なんじゃないですか!?」

俺がそういうとジンイチロウさんとヨシキさんは満足気に頷いた。

カケルをしばらく休ませるため俺たちは部屋を出て隣の部屋に移動した。

そこにはノリさんが難しい顔をして肩を落としていた。

T「ノリさん…どうだった…?」

N「ダメだった…その話が作り話だって言われた…」

M「はぁ!?そんなわけないだろ!?今まで俺たちがどんな生活送ってきたかお前らにわかるのか!!?」

ミライがノリさんに掴み掛かるようにしてそう言った。

N「分かってるよ!!分かってるけど…俺たちの力では握り潰されて終わるだけだ…」

M「だからって!!」

T「とりあえず…先に森のみんなを助けてあげよう…?もう苦しまなくて済むように…人間と同じ生活ができるように…助けてあげなきゃ…」

俺がミライを落ち着かせるようにしてそう言った。

J「ツキヤ……大変だ!」

するとカケルのそばで様子を見てくれていたジンイチロウさんが俺たちの部屋に飛び込んできた。

T「カケルに何かあったの!?」

J「それが…」

ジンイチロウさんは口ごもると後ろから足音が聞こえた。

不思議に思い俺が覗き込むと…

T「え…カケル…もう…歩けるの…?」

J「歩けるどころか…」

K「もう、傷も治ったよ?」

ボロボロになっていたはずのカケルの身体は綺麗になり、さっき手術したばかりの傷口は血液ひとつ滲んでなかった。

T「すごい……」

J「おそらく打ったワクチンが変化して体内での治療能力を高めたんだ…人間の血が入ったpurple一族の血液なら…この回復力を人間のケガや病気の治療にも使えるかもしれない…」

ジンイチロウさんはそう言って大きく頷いた。

つづく
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