上 下
1 / 18

第一話

しおりを挟む

俺が研究者を目指したのは17歳の頃

自分の生まれ育った街が謎のウイルスに汚染され閉鎖されたから。

俺が生まれる数十年前にそのウイルスは発見され感染が確認された。

P地区から始まり…今では俺の故郷であるT地区まで感染は広がっている。

危険地域指定をされたP地区とT地区は関係者以外立ち入り禁止となり、その中にある森の中は電流の流れるフェンスによって囲われ全面閉鎖された。

17歳の俺は祖母と一緒に着の身着のままで逃げ出し…幸いウイルスに感染する事はなく逃げ切れた。

「なぁ…ばあちゃん…あのウイルスに感染したら…どうなるの?」

「ツキヤ…あのウイルスは人を変えてしまうんだよ…」

T「人を変える?」

「…鬼になる…恐ろしいウイルスだよ…」

俺の横で小さく縮こまった祖母が微かに震えながら俺たちの故郷をみて手を合わせている。

T「ばあちゃん…安心して…俺…研究者になって…そのウイルスに効くワクチンを開発するよ…そしたらまた、ばあちゃんとあの家に一緒に住める…大丈夫だから…!!」

強気にそう言った俺に祖母は優しく微笑んだ…が…

俺は祖母との約束を守れないまま…

祖母は病気になり3年前に天国へと旅立った。

「ばあちゃん…ごめんな…」

祖母を想い出の詰まった家に帰してあげる事が出来なくて俺は心が痛み…

その謎のウイルスを心から憎んだ。

現在

「ツキヤ!!この抗体がウイルスと反応してる!!」

分厚い防護服を身に纏い、俺たちは毎日毎日、研究室にこもってウイルスに効く特効薬を研究した。

T「やっと…手がかり掴めそうだね…ノリさん…」

N「だな…ツキヤは明日、久しぶりの休みだろ?何するんだ?」

T「うん…新しい車を納車してからまだ1度も乗ってないから明日はドライブかな?」

N「そうか!気をつけろよ?」

Y「くれぐれも吸血鬼に襲われるなよw」

T「ヨシキさん冗談キツイ!!」

俺は気心知れた職場の先輩とそんなたわいもない話をし、久しぶりの休みが楽しみで仕方なかった。

向かったのは人里離れた町…俺の生まれた故郷である関係者以外立ち入り禁止のT地区の真横にある小さな町。

懐かしい風景と共にドライブを楽しみ車を走らせていたはずなのに…

俺は今…灯りのない道無き道を少し怯えながら歩いている。

風に鳴された木々の声が俺の不安を煽り闇の中へと導いていく。

なぜ、俺はこんな所に迷い込んでしまったのだろう?

お気に入りの新車に乗って懐かしい風景のなかドライブがしたかっただけ…

それなのに買ったばかりの新車は道路に落ちていた何かの破片を踏みタイヤがパンクした。

焦ってスマホを取り出すも…電波が入らない。

やばい…

しばらくの間、通りかかる車や人を待ってみたものの…

人っ子一人として会うことはなかった。

それもそうだ…ここは危険地域指定されたT地区に隣接する町だから。

日が沈み始め震えるような寒さの中、俺は仕方なく歩き始めた。

自分ではただ、道なりに歩いたつもりだった。

なのに気づけば…

T「なんだよ…この森…気持ち悪ぃ…な…」

木々が生い茂る山の中に迷い込んでしまった。

ポツポツポツ…

小さな雨粒が俺の頬に当たり気持ちが焦る。

T「雨とかマジで勘弁して…」

視線の先にあった大きな木の下に雨宿りしようと俺は走り出した。

すると…大きな雷が頭上で鳴り響いた。

T「……あっ……」

咄嗟に身を守ろうとしたその瞬間。

ぬかるんだ地面に足を取られ、頭に激痛を感じたと同時に俺は意識を手放した。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

厄介払いで結婚させられた異世界転生王子、辺境伯に溺愛される

楠ノ木雫
BL
旧題:BLの世界で結婚させられ厄介払いされた異世界転生王子、旦那になった辺境伯に溺愛される〜過酷な冬の地で俺は生き抜いてみせる!〜  よくあるトラックにはねられ転生した俺は、男しかいないBLの世界にいた。その世界では二種類の男がいて、俺は子供を産める《アメロ》という人種であった。  俺には兄弟が19人いて、15番目の王子。しかも王族の証である容姿で生まれてきてしまったため王位継承戦争なるものに巻き込まれるところではあったが、離宮に追いやられて平凡で平和な生活を過ごしていた。  だが、いきなり国王陛下に呼ばれ、結婚してこいと厄介払いされる。まぁ別にいいかと余裕ぶっていたが……その相手の領地は極寒の地であった。  俺、ここで生活するのかと覚悟を決めていた時に相手から離婚届を突き付けられる。さっさと帰れ、という事だったのだが厄介払いされてしまったためもう帰る場所などどこにもない。あいにく、寒さや雪には慣れているため何とかここで生活できそうだ。  まぁ、もちろん旦那となった辺境伯様は完全無視されたがそれでも別にいい。そう思っていたのに、あれ? なんか雪だるま作るの手伝ってくれたんだけど……?  R-18部分にはタイトルに*マークを付けています。苦手な方は飛ばしても大丈夫です。

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

処理中です...