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トウマside
あの日、歩く事がやっとだった俺は1人ゆっくりとした足取りで周りの風景を見渡しながらあの横断歩道を訪れる。
心を凍らすような孤独な冬が訪れ…
花々が咲き誇り虚しく散る春が過ぎ去り…
ぼんやりと浮かぶ入道雲が夏の終わりと共に消え…
T 「コウ…俺…金木犀の匂いなんて…大嫌い…。」
俺が目覚めてから2度目の金木犀の香り漂うこの季節が訪れた。
ずっと好きだと思っていたこの金木犀の香り…
なのに今はこの香りが鼻をかすめると涙が溢れてこぼれ出す。
信号が赤から青に変わり横断歩道をゆっくりと渡ると、いつもコウと共に俺を待っていた金木犀の木が俺をじっと見つめ俺を問い詰める。
なぜ…コウを待たせたのだ…
なぜ…自分の気持ちを早く伝えなかったのだ…
と…
その金木犀の木に答えるように俺が見上げれば、黄金の小さな花を付ける金木犀のはなびらが風に舞い、俺を包み込むようにはなびらを纏わせる。
そして俺は金木犀の香りに包まれて気づく。
俺はこの金木犀の匂いが好きだっだのではなく…
コウと会うといつもこの香りで包まれて、コウと幸せな思い出の時にはいつもこの香りが華を添えるから金木犀が好き…そう思っていたのだと。
そこにコウがいなければ…俺にとってみれば何の意味も持たない香り。
俺は小さなため息を落としその場をあとにし、コウの眠る病院へと向かう。
ゆっくりと病室の扉を開きいつものように愛おしいコウの頬を撫でて声をかけた。
T「コウ…会いに来たよ…」
すると、俺の服に金木犀の花びらが付いていたのだろうか?
フワッと金木犀の香りが漂ったような気がした。
俺はジャケットを椅子の背もたれにかけゆっくりと腰掛けると、いつも通りコウの手をマッサージしながら視線を手のひらに落としコウに話しかける。
T「コウは金木犀の香り好き?そういえば聞いたことなかったなと思ってさ…俺はね?もう嫌い…この香りが漂う時にコウがいなきゃ全然良い香りに感じないんだもん。」
手のひらを刺激しながらそう話しかけると、自然と涙が溢れてきてコウの手が涙で滲み、コウの手のひらに俺の涙がぽたぽたと落ちる。
すると、コウの中指がピクッと動いたような気がして俺は固まり慌てて涙を拭いてコウの指を見つめた。
ピクッ…
T「動い…た…」
今まで毎日マッサージしてもこんな事はなかった…
そして、恐る恐るコウの顔に目を向けると…
T「コウ!!」
コウはまん丸の綺麗な目を開けて目尻から涙をこぼしていた。
T「コウ…」
俺の瞳からも涙が溢れコウに近づくと、俺の涙がぽたぽたと落ちシーツに染みをつけていく。
すると、微かな声が聞こえて俺は顔を起こしコウの顔を見つめる。
T「コウ?」
K「す…好き…」
そう震える唇で絞り出すように掠れた声で言ったコウの言葉に俺の胸はギュッと締め付けれ身体が震える。
T「コウ…俺も好き…俺もコウの事が好きだよ。」
俺がそういうとコウは目尻を下げて微笑むとゆっくりと俺の頬に手を添えた。
K「…きん…もくせいの…香り…」
コウはそう言ってぎこちなく笑うから、俺はハッとして思わず恥ずかしさのあまり、コウから離れようとするとコウは俺の手を握った。
K「ト…トウマくん…ぁっ…会いたかった…ずっと言え…なかったんだけど…お…俺…トウマくんが…好きみたい……」
T「コウ…」
ずっと聞きたかったコウのその声で1番欲しかった言葉を目覚めてすぐにくれたコウ。
俺は胸がいっぱいになりながらコウの細くなってしまった手をそっと優しく握り返した。
つづく
あの日、歩く事がやっとだった俺は1人ゆっくりとした足取りで周りの風景を見渡しながらあの横断歩道を訪れる。
心を凍らすような孤独な冬が訪れ…
花々が咲き誇り虚しく散る春が過ぎ去り…
ぼんやりと浮かぶ入道雲が夏の終わりと共に消え…
T 「コウ…俺…金木犀の匂いなんて…大嫌い…。」
俺が目覚めてから2度目の金木犀の香り漂うこの季節が訪れた。
ずっと好きだと思っていたこの金木犀の香り…
なのに今はこの香りが鼻をかすめると涙が溢れてこぼれ出す。
信号が赤から青に変わり横断歩道をゆっくりと渡ると、いつもコウと共に俺を待っていた金木犀の木が俺をじっと見つめ俺を問い詰める。
なぜ…コウを待たせたのだ…
なぜ…自分の気持ちを早く伝えなかったのだ…
と…
その金木犀の木に答えるように俺が見上げれば、黄金の小さな花を付ける金木犀のはなびらが風に舞い、俺を包み込むようにはなびらを纏わせる。
そして俺は金木犀の香りに包まれて気づく。
俺はこの金木犀の匂いが好きだっだのではなく…
コウと会うといつもこの香りで包まれて、コウと幸せな思い出の時にはいつもこの香りが華を添えるから金木犀が好き…そう思っていたのだと。
そこにコウがいなければ…俺にとってみれば何の意味も持たない香り。
俺は小さなため息を落としその場をあとにし、コウの眠る病院へと向かう。
ゆっくりと病室の扉を開きいつものように愛おしいコウの頬を撫でて声をかけた。
T「コウ…会いに来たよ…」
すると、俺の服に金木犀の花びらが付いていたのだろうか?
フワッと金木犀の香りが漂ったような気がした。
俺はジャケットを椅子の背もたれにかけゆっくりと腰掛けると、いつも通りコウの手をマッサージしながら視線を手のひらに落としコウに話しかける。
T「コウは金木犀の香り好き?そういえば聞いたことなかったなと思ってさ…俺はね?もう嫌い…この香りが漂う時にコウがいなきゃ全然良い香りに感じないんだもん。」
手のひらを刺激しながらそう話しかけると、自然と涙が溢れてきてコウの手が涙で滲み、コウの手のひらに俺の涙がぽたぽたと落ちる。
すると、コウの中指がピクッと動いたような気がして俺は固まり慌てて涙を拭いてコウの指を見つめた。
ピクッ…
T「動い…た…」
今まで毎日マッサージしてもこんな事はなかった…
そして、恐る恐るコウの顔に目を向けると…
T「コウ!!」
コウはまん丸の綺麗な目を開けて目尻から涙をこぼしていた。
T「コウ…」
俺の瞳からも涙が溢れコウに近づくと、俺の涙がぽたぽたと落ちシーツに染みをつけていく。
すると、微かな声が聞こえて俺は顔を起こしコウの顔を見つめる。
T「コウ?」
K「す…好き…」
そう震える唇で絞り出すように掠れた声で言ったコウの言葉に俺の胸はギュッと締め付けれ身体が震える。
T「コウ…俺も好き…俺もコウの事が好きだよ。」
俺がそういうとコウは目尻を下げて微笑むとゆっくりと俺の頬に手を添えた。
K「…きん…もくせいの…香り…」
コウはそう言ってぎこちなく笑うから、俺はハッとして思わず恥ずかしさのあまり、コウから離れようとするとコウは俺の手を握った。
K「ト…トウマくん…ぁっ…会いたかった…ずっと言え…なかったんだけど…お…俺…トウマくんが…好きみたい……」
T「コウ…」
ずっと聞きたかったコウのその声で1番欲しかった言葉を目覚めてすぐにくれたコウ。
俺は胸がいっぱいになりながらコウの細くなってしまった手をそっと優しく握り返した。
つづく
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