【BL】金木犀〜キミが目覚めたとき〜

樺純

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2話

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トウマside

クラクラとする頭の中…俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。

その声はどこか聞き覚えがある声だった。


「トウマくん…金木犀っていい香りだね…」


その言葉を聞いた瞬間…全身に力が入り眩しい光が視野の中へ飛び込んでくる。

思わず目をしかめると…


「やっと目覚めたね……」


そこにいたのは友人でもあり医者のシュンくんだった。


S「トウマ…遅いよ…目覚めるの…」


そう言ったシュンくんの目にはみるみるうちに涙が滲んだ。


T「…コウは…?」


俺がコウの名前を出した途端、シュンくんの顔色が変わった。


S「コウの話は後でゆっくり話そう…先に検査と診察しよう?」


シュンくんはそう言って俺の肩を優しくなでた。

そして、俺はシュンくんの言われた通りに車椅子に乗せられいくつかの検査をした。

検査室から病室まで母ほどの年齢の看護師さんが車椅子を押してくれた。


「トウマさん疲れてないですか?」

T「ちょっと…」

「体力も落ちてますからこれからゆっくりリハビリ頑張りましょうね?」


そう穏やかに話しながら、とある病室の前を通った瞬間…

俺は微かな違和感を感じた。


T「あの!!」


突然出した大きな声に驚いた看護師さんは思わず車椅子を止めた。


「トウマさん?どうしました?」


俺はゆっくりと振り返りその病室を見つめる。


T「あの…病室…って…」

「あの病室がどうかしましたか?」

T「あの病室に…行きたいです…」

「え?」

T「お願いです!!」

「ダメです!!戻りますよ!病室で休まないと!!」


看護師さんの声は少し威圧感のある声に変わり、強引に車椅子を押して俺は病室へと戻された。


「ずっと眠ってて免疫も落ちてるので、ゆっくり休んでくださいね。」


看護師さんは俺にそっと布団を掛けて部屋を出て行った。

あの病室を通った時に感じた違和感は何だったのだろう…?

俺は不思議とあの病室のことが気になって仕方ない。

俺の検査の帰りを病室で待っていた母にコウのことを聞いても、ぎこちない笑顔を見せるだけで何も答えてくれない。

会いたいのに…

まだ自分の気持ちさえ伝えてないのに…

大好きで仕方ないコウに1番会いたい。

あいつは一体どこに行ってしまったのだろう。

俺は母が帰ると車椅子になんとか自力で乗り、周りの目を気にしながらあの病室へと向かう。

まだ慣れない車椅子を必死で動かし、廊下を通ってまるで俺はその病室に導かれるように引き寄せられた。

ゆっくりとその病室の扉を開き車椅子で中に入ると、規則正しい機械音と呼吸を補助する機械の空気音が聞こえ…

俺は車椅子でそばにまで近寄るとそっと白いカーテンを動かした。


T「え…ウソ…なんで…」


なんと、カーテンを開けたそこには痛々しい傷跡だらけのコウが眠っていた。


T「え…何してんの…コウ!!コウ!!目開けろよ!!コウ!!」


気づいた時には俺は車椅子から滑り落ち、ベッドに眠るコウに縋り付くように涙を流し震える。

俺の声を聞いた看護師が慌てて中に入ってきて、俺を見て驚くとすぐにコウから俺を離れさせようとする。

俺は必死でもがきコウの名を呼ぶが、俺はそのままコウの眠る病室から連れ出さた。

自分の病室に戻された俺はベッドに押さえつけられ、注射を打たれた俺はそのままぼんやりと眠りに落ち…
夢を見た。

つづく
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