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この香りが鼻をかすめると…
俺はいつもあの人を思い出す。
大きく一重の三白眼に綺麗な鼻筋…
厚みある唇が奏でるあの惑わしい声色。
「コウ…俺…金木犀の匂いが好きなんだ。」
名前を呼ばれるだけで胸が疼いて、自分に向けられた訳でもない「好き」というその言葉をずっとあの人の声色で聞いていたかった。
なのにもう…
あの人は…もう俺の名を呼ばない。
3年前の秋
俺はあの人と待ち合わせをした。
いつも、俺を待たせてばかりのあの人。
そんな自由でマイペースなあの人にイタズラをしようと俺はわざと、約束の時間より少し遅れてその場所を訪れた。
道路を挟んだ木の影であの人を見つめると、冷たくなり始めた夜風に身を縮こまらせて、不安気な目をして俺を待っていた。
俺を探すようなその仕草が、まるで俺を必要としているみたいで愛しい…
「トウマくん可愛いな…でも風邪引いちゃうといけないしな…」
俺はそう呟き金木犀の匂いが漂うなか、道路の向こう側にいるあの人が気付くように大きく手を振り名前を呼んだんだ。
それが…全ての間違いだった。
K「おーい!!トウマくん!」
大きな声で叫びながら手を振ると、俺を見つけて嬉しそうな顔をするトウマくん。
その場でぴょんぴょんと跳ね手を振るトウマくんは一目散に走り出した。
車通りの少なくなった交差点。
のはずだった。
横断歩道の信号が赤から青に変わり、トウマくんは横断歩道の白の部分だけをぴょんぴょんと跳ねて、俺の元にやって来る。
そんな姿が愛おしかったんだ。
なのに…
ブブッー!!キィー!!ドンッ!!
まるで映画の世界のような鈍い音が鳴り響き…
俺の目の前で大切な人が宙を舞った。
何が起きたのだろう…すぐには理解出来なかった。
目の前にある横断歩道の信号は青が点滅し始める。
震える膝がいうことを聞かず転びそうになにりながら俺はトウマくんの元へと這うようにして向かった。
すると、そこには綺麗なトウマくんの顔が鮮明な紅色に染まっていた。
K「ト…トウマくん?」
恐る恐る声をかけると僅かに目を開けて俺を見つめるトウマくん。
K「大丈夫…大丈夫だから…ごめん…俺が待たせたりしたから……」
居眠り運転で信号無視をした運転手は青白い顔をしながら車から降りてくる。
T「…コウ………」
K「ん?なに?」
俺はかすかに震えながらトウマくんの口元に耳を当てる。
T「…コウ…遅いよ…」
トウマくんはその言葉を残してゆっくりと目を閉じた。
そして、トウマくんは真っ白なベッドの上で眠ったまま3度目の秋を迎え、未だ目を覚さない。
毎日トウマくんの元を訪れ、トウマくんの手をマッサージしながらいつの間にか慣れてしまったひとり言。
なぜ俺はあの日…トウマくんに意地悪をしようとしたんだろう。
あの日あの時…俺がいつも通り約束の金木犀の木の下でトウマくんの事を待っていたら…
こんな事にならなかったのに。
全ては自分で招いてしまった出来事。
K「…ごめんね…俺のせいでこんな目に遭わせて…もう俺…限界だよ…」
俺は流れる涙を拭き眠るトウマくんのおでこにゆっくりと口付けて病室を出た。
あの日から避け続けていたあの横断歩道。
俺は1人その横断歩道に立ち月を見上げる…
すると横には金木犀の匂いが好きだと俺に微笑みかけるトウマくんの姿が見えたような気がした。
それと同時に俺の鼻をかすめる金木犀の香り…
K「トウマくん…」
この愛しいすぎる名前を呼ぶのはもう…これが最後かもしれない…
K「トウマくん…金木犀っていい香りだね……」
トウマくんと出会わなければ金木犀がこんな香りだったなんて気にも止めなかっただろう…
俺は眩しいヘッドライトが視野の中に入った瞬間…
俺は重い一歩を踏み出した。
つづく
俺はいつもあの人を思い出す。
大きく一重の三白眼に綺麗な鼻筋…
厚みある唇が奏でるあの惑わしい声色。
「コウ…俺…金木犀の匂いが好きなんだ。」
名前を呼ばれるだけで胸が疼いて、自分に向けられた訳でもない「好き」というその言葉をずっとあの人の声色で聞いていたかった。
なのにもう…
あの人は…もう俺の名を呼ばない。
3年前の秋
俺はあの人と待ち合わせをした。
いつも、俺を待たせてばかりのあの人。
そんな自由でマイペースなあの人にイタズラをしようと俺はわざと、約束の時間より少し遅れてその場所を訪れた。
道路を挟んだ木の影であの人を見つめると、冷たくなり始めた夜風に身を縮こまらせて、不安気な目をして俺を待っていた。
俺を探すようなその仕草が、まるで俺を必要としているみたいで愛しい…
「トウマくん可愛いな…でも風邪引いちゃうといけないしな…」
俺はそう呟き金木犀の匂いが漂うなか、道路の向こう側にいるあの人が気付くように大きく手を振り名前を呼んだんだ。
それが…全ての間違いだった。
K「おーい!!トウマくん!」
大きな声で叫びながら手を振ると、俺を見つけて嬉しそうな顔をするトウマくん。
その場でぴょんぴょんと跳ね手を振るトウマくんは一目散に走り出した。
車通りの少なくなった交差点。
のはずだった。
横断歩道の信号が赤から青に変わり、トウマくんは横断歩道の白の部分だけをぴょんぴょんと跳ねて、俺の元にやって来る。
そんな姿が愛おしかったんだ。
なのに…
ブブッー!!キィー!!ドンッ!!
まるで映画の世界のような鈍い音が鳴り響き…
俺の目の前で大切な人が宙を舞った。
何が起きたのだろう…すぐには理解出来なかった。
目の前にある横断歩道の信号は青が点滅し始める。
震える膝がいうことを聞かず転びそうになにりながら俺はトウマくんの元へと這うようにして向かった。
すると、そこには綺麗なトウマくんの顔が鮮明な紅色に染まっていた。
K「ト…トウマくん?」
恐る恐る声をかけると僅かに目を開けて俺を見つめるトウマくん。
K「大丈夫…大丈夫だから…ごめん…俺が待たせたりしたから……」
居眠り運転で信号無視をした運転手は青白い顔をしながら車から降りてくる。
T「…コウ………」
K「ん?なに?」
俺はかすかに震えながらトウマくんの口元に耳を当てる。
T「…コウ…遅いよ…」
トウマくんはその言葉を残してゆっくりと目を閉じた。
そして、トウマくんは真っ白なベッドの上で眠ったまま3度目の秋を迎え、未だ目を覚さない。
毎日トウマくんの元を訪れ、トウマくんの手をマッサージしながらいつの間にか慣れてしまったひとり言。
なぜ俺はあの日…トウマくんに意地悪をしようとしたんだろう。
あの日あの時…俺がいつも通り約束の金木犀の木の下でトウマくんの事を待っていたら…
こんな事にならなかったのに。
全ては自分で招いてしまった出来事。
K「…ごめんね…俺のせいでこんな目に遭わせて…もう俺…限界だよ…」
俺は流れる涙を拭き眠るトウマくんのおでこにゆっくりと口付けて病室を出た。
あの日から避け続けていたあの横断歩道。
俺は1人その横断歩道に立ち月を見上げる…
すると横には金木犀の匂いが好きだと俺に微笑みかけるトウマくんの姿が見えたような気がした。
それと同時に俺の鼻をかすめる金木犀の香り…
K「トウマくん…」
この愛しいすぎる名前を呼ぶのはもう…これが最後かもしれない…
K「トウマくん…金木犀っていい香りだね……」
トウマくんと出会わなければ金木犀がこんな香りだったなんて気にも止めなかっただろう…
俺は眩しいヘッドライトが視野の中に入った瞬間…
俺は重い一歩を踏み出した。
つづく
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