29 / 46
29話
しおりを挟むトウジサイド
ねぇさんと話し終えてねぇさんを作業室から追い出したあと、自分のソロの音楽を作っていると誰かがやってきた。
ねぇさんがまた戻ってきたのかとそう思いながら扉を開けると、そこにいた人物に俺は目を疑った。
T「リ…ノン…?」
俺が唯一、この事務所内で2人で会いたくないスタッフ。
こいつが俺らの担当から離れたのは俺のせい。
いや、俺がそうしてくれとスタッフに頼んだ。
でも、この事実は俺とリノン、そして数名の幹部しか知らない。
リ「トウジに会いたくてきた。」
リノンは男を落とす為に覚えたかのような上目遣いで俺を見つめ言ったが、俺はリノンのその目が腹わたが煮え繰り返るほど大嫌いだ。
T「今朝ホテルの廊下で会ったじゃん。要件はなに?」
こんな言い方他の人には絶対にしない。
それだけ俺はリノンと関わりたくないのだ。
リ「相変わらず冷たいね?そんなに私のこと…嫌い?」
T「あぁ…死ぬほどな。」
リ「ここで話しても私は別に構わないんだけど?ここで話したらあなたの大好きなミラさんが大変な事になるから中に入れた方が身のためだとは思うけど?」
相変わらず憎たらしい顔して俺を見るこの女は根っからの性悪だと俺は心底思うし、この会社でこの本性を知ってる人間はどれだけいるのだろうと俺は思った。
T「…入れよ。」
それなのにリノンの口からねぇさんの名前を出されてしまうと、過去の記憶が頭の中を過り素直に従ってしまう俺は…
どれだけねぇさん…
いや、ミラに惚れてしまってるんだろか。
リノンはずかずかと厚かましく俺の様子を伺うように中に入るとソファに座って足と腕を組んだ。
リ「ねぇ、ミラさんとトウジって付き合ってんの?」
T「んなわけ。」
リ「だよね?じゃ、ミラさん…ジュイと付き合ってるってことね?」
リノンの口からジュイの名前が出た瞬間…
俺の身体から一瞬にして血の気がサッーっと引いていき、俺は見たくないはずのリノンの顔を呆然と見つめた。
リ「相変わらず顔に出やすいね?可愛い…そういうとこが好きよ。」
そう言って立ち上がったリノンはわざとらしく俺の首に腕を巻きつけて、俺の身体に自分の身体を密着させた。
T「で?要件はなんだよ。」
俺は冷静なフリをしてそう問いかける。
リ「いいもの…見せてあげる。」
そう言ったリノンが俺に見せてきたスマホの画面には、扉を開けたジュイがねぇさんにキスをして抱きしめて部屋の中へ入っていく動画が流れていた。
このホテルは確か昨日泊まった韓国のホテルで、明らかに物影から隠れて撮られているような怪しい映像だった。
リ「たまたまコンビニから部屋に戻ろうと思ったらミラさんが廊下に立っててね?声かけようと思ったら部屋からジュイが出てきたから咄嗟に動画撮っちゃったの。そしたらこれだもん…あの人見た目よりやるよね?」
普通に生きていれば誰かと誰かがいても動画を撮ろうなんて考えはしないはず。
相手が芸能人であり、その映像が世に出回ってしまえばマイナスになることをよく理解していてこいつは映像を撮影した。
よりによってそんな奴が俺たちの所属する事務所スタッフだと思うだけで俺は怒りから手が微かに震える。
T「で?そんなの俺に見せてどうしたいの?俺には関係ないし…」
リ「もう忘れられたの?大好きなミラさんのこと。大好きで仕方ないミラさんを自分が可愛いがってる年下のメンバーに奪われるのはどんな気持ち?あの時…私にしといたら良かったのに。私のこと振るから…こうなるのよ?」
T「なんの話だよ?俺がねぇさんを好き?笑わせんな。」
俺はそう言ってとぼけると、くっ付いてくるリノンの手を振り解きながら距離を取ろうとするがリノンはそれを許さない。
リ「とぼけないで。あの人せいでトウジは私を愛さなかった。みんなから愛されて可愛がられて信頼されて…見ててムカつくの…消えてほしいの。」
T「お前なに言ってるか分かってんの?」
リ「この動画…流したらミラさんどうなるんだろね?今の時代、すぐに身元がバレて大変じゃない?こんなのが流れたら…あの人…居場所なくなっちゃうね?トウジの大切な大切な…ミラさんの居場所。」
T「俺にどうしてほしい。はっきり言えよ。」
リノンの魂胆は全て分かっている。
俺の弱味であるいいネタを見つけ、それで俺を支配し言いなりにさせようとしていることぐらい。
だから、俺はリノンの望みを聞いたのだ。
リ「そうね…あ!そうだ…私と付き合ってよ。それだけで今まで通りミラさんもジュイも日常通りに過ごせるのよ。いい話だと思わない?」
T「嫌われてる男と付き合ってなにが楽しいんだよ…意味わかんねぇ…」
リ「私と付き合ったらトウジは私のこと絶対に好きなる。で?どうするの?」
絶対にリノンと付き合ってもリノンを好きになることなんてありえない。
なのにリノンのその自信はどこからくるのだろうと俺はもう内心、呆れていた。
自信満々なくせに、こんなこんなセコい手口で俺を言いなりにしようとするリノンの神経が俺には理解が出来なかった。
T「…………………。」
リ「大好きなミラさんが苦しむとこみたくないでしょ?あ、それともミラさんが泥沼に堕ちていく所…私と一緒に見たいとか?」
T「ふざけんな…。」
リ「じゃ、どうするのかはっきり言えよ!?」
今まで猫撫で声で俺に甘えるように話していたリノンは突然、声を荒げそう言った。
T「…付き合えばいいんだろ……。」
リ「トウジ…大好き…。」
また猫撫で声でそう言うリノンは俺の首にぎゅっとしがみつくように抱きしめ、ねぇさんの名前が出た途端、リノンの言いなりになってしまう自分に情けなくなった俺の指先は冷え切っていた。
リ「じゃ…また、連絡するね。連絡無視したら…ミラさんがどうなるか分かってるよね?」
T「分かってるから早く行けよ。」
俺がそう言うとリノンは満足気に微笑み、まるで恋人かのように手を振りながら俺の部屋を出て行った。
つづく
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru
悲恋 (一部BL要素含む)
樺純
恋愛
王が世を支配する時代。
トナとコハクは愛し合いながら穏やかな日々を過ごしていました。
そんな時、トナとコハクの住む町に王が現れます。
トナは王に身染められ、愛するコハクと別れ胸を痛めながら王宮に入る事になります。
王宮に入ったトナに次々と起こる試練。
トナを失い悲しみに暮れるコハク。
そんな二人に幸せな日々は訪れるのでしょうか…?
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ after story
けいこ
恋愛
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~
のafter storyになります😃
よろしければぜひ、本編を読んで頂いた後にご覧下さい🌸🌸
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ついて、いった
吉川元景(きっかわ もとかげ)
恋愛
気づいた時には遅いってこと、恋愛ならよく有りますよね?
小説家になろうとカクヨムにも載せています。
課題の一環として執筆しました。
写真はしーわん(Instagram:xiwang.tp311)様からお借り致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる