愛を知らないキミへ

樺純

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第四十八話

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アノンサイド

キヒヤとラノンの病院から帰って来たあと、ユサはキヒヤなんかにヤキモチ妬く訳ねぇーだろ!なんて言ってたけど、キヒヤとミネトの目を盗んで濃厚なキスをされた時にはユサに愛されてるんだと再確認してニヤニヤが止まらなかった。

その次の日から私はユサのお店を手伝いながら2号であるspaceとのコラボの話を進めていき、忙しい毎日となった。

私としては勿体無いしシアももう居ないのでこのまま今のマンションでもいいかな?と呑気に思っていたが、ユサはシアと住んでいた場所で過ごして欲しくないと意外な一面を発揮し、昔住んでいたユサの隣の部屋の住むようになった。

ユサは俺の部屋に住めばいいなんて言っていたけど、正直、今の私の荷物がユサの部屋に入り切る気がしないとユサにいうと、ユサはいつの間にDIYをするようになったのか、ユサの部屋と私の部屋が中で繋がるように壁の一部をくり抜いていた。

そんな私とユサの姿を見るたびにミネトとサラナは愛されてますね~と私を揶揄い、キヒヤはそんなストーカー気質なユサくんが嫌になったらいつでも俺のところに来ていいからな!とユサの目の前で言い放ちいつもゲンコツを落とされていた。

ラノンは私と会ったあの日からちゃんと薬を飲むようになり、食事も毎食取るようになって体力もついてきたと母から聞いた。

あの頃、大人だと思っていたユサは、ユサの代わりの仕事とコラボの件で忙しい私が構ってあげなくなると、想像していたよりも子供で私の膝に猫のように甘えてくるので非常に可愛い。

少し癖毛のユサの髪を撫でながら私はコラボのためのケーキの案をいくつも練っていく。

その度にミネトに送っては2人で相談を重ねて試作を作り二号店オープンの日に間に合うよう必死で話し合いをした。

デザインや味付けが決まり、ミネトも納得できるコラボ作品が完成し私はホッと胸を撫で下ろした。

A「疲れた~間に合ってよかったよ~」

M「アノンおつかれ!ありがとな!あとはオープン当日まで何度も作って手を慣らすよ。」

A「あとは頑張ってね…一応、オープン当日は私も顔出すけど。」

M「任せろ!」

そしてついに明日は二号店であるspaceのオープン日となり、私がそわそわしているとスマホには見慣れない番号から電話があり私がその電話に出た。

A「もしもし?」

「もしもし?アノン?私…ラノン。実はね今日から一泊二日で一時退院してるの。今、実家にいるだけど…よかったら来ない?忙しいならいいん…」

A「行く…!今、仕事終わったからすぐ行く。」

私がそう言って電話を切りるとユサが不思議そうな顔をして私の顔を見つめた。

Y「今からどっか行くのか?」

A「うん。ラノンが一時退院してるみたいだから実家に行ってくる。」

Y「そうか。気をつけて行けよ?明日はspaceのオープン日なんだし。」

A「分かってる。遅くなるかもしれないから先に寝ててね。」

Y「わかった。」

そうして着替えた私はそのままタクシーで何年振りかの実家に戻った。

16歳から家を出てほとんど実家には帰らなかったしばらくの間私は家の前に立ち、眺めていた。

すると突然、家の扉が開き玄関からあの日よりはるかに元気になった顔をしたラノンが飛び出してきた。

L「アノン!何してるのよ!早く中に入って!」

A「うん。」

ラノンの腕を引かれそのまま玄関に入ると久しぶりに会う両親がいて、母の目には少し涙が滲んでいた。

リビングのなかに入るとそこにはテーブルの上に沢山の私が好きな料理が並んでいて、ふとリビングの隅を見ると見慣れない男性が立っていた。

私が不思議そうに見つめていることすらラノンは気にすることなく、私をソファに座らせ両親も座るとその男性もゆっくりと座った。

ラノンは私のためにお皿に沢山の料理を入れてくれて私はあの男性は誰なんだ?と思いながら箸を口に運ぶ。

母もあれを食べろこれを食べろと私の前に沢山の料理を置き、それがひと段落した隙を見て私は問いかけた。

A「あの…どちら様ですか?」

私がその男性にそう問いかけるとラノンはあっ!とした顔をしてその男性横に寄り添うように座り直す。

L「アノンあのね?実は私、彼と結婚するの。」

A「え!?け…結婚!?」

L「そう。アノンがお見舞いに来てくれたあの日にね?彼が病院内の花壇のお世話をしててね?アノンとちゃんと話が出来て気持ちがスッキリした私は久しぶりに病院の外に出て花壇に花を見に行ったの。そしたら、久しぶりに日差しに当たったからか貧血になっちゃってね。彼が倒れそうになった私を受け止めてくれたのがきっかけ。」

A「へ…へぇ…お…おめでとう。」

「僕のこと…覚えてない?」

突然、そうラノンの婚約者に問いかけられた私は何故か後ろめたい事もないのにドキッとし、黒目をキョロキョロと動かす。

A「えっと…私と知り合いでしょうか…?」

L「アノン何言ってんの!タツくんだよ!幼稚園でキヒヤとよく喧嘩してて、年長の時に引っ越しちゃったタツくん!」

私はラノンにそう言われて幼稚園時代のわずかな記憶を探りハッとする。

A「え!!もしかして泣き虫のあのタツ!?」

T「えへへ~ようやく思い出してくれた?幼稚園の頃、アノンは俺と結婚する~って言ってくれてたけどごめんね?俺ラノンと結婚するよ。」

L「もうやだ!タツくんは私の!」

T「当たり前じゃん。俺はラノンのだよ!」

ラノンと泣き虫なタツはそう言っていちゃいちゃし始めた。

確かにそうだった。

私の初恋はいつもキヒヤと喧嘩してすぐに泣くタツだった。

泣きじゃくるタツが可哀想で、私がいつもタツの味方してキヒヤに言い返すとキヒヤはアノンのばか~!!っと言って泣いていた。

A「ラノン、本当におめでとう。タツ、ラノンのことよろしくお願いします。」

私がタツにそう頭を下げるとタツは泣き虫タツに戻ったのか、絶対に幸せにしますと言いながら泣いていた。

そして、そのまま夜遅くまで母とラノンと女3人で話に花を咲かせた私は実家に泊まることになり、母とラノンと川の字で初めて眠った。

そして、寝不足と疲れが溜まっていた私はつい、寝坊してしまった。

A「やばぁぁあぁぁい!!」

慌てて起きた私がバタバタしていると朝ごはんを並んで作っている母とラノンは不思議そうに私を見つめる。

母「もうすぐ朝ごはんできるよ。」

L「はい!ここ座って。」

A「ごめん!ほんとごめん!今日、二号店のオープンなの!ほんとごめん!また、帰ってくるから!ほんとごめん!行って来ます!」

母「相変わらず慌ただしい子ね。いってらっしゃい!」

そして、私は一旦家にかえるとそこにはもう、ユサの姿はなく慌ててシャワーを浴び、服を着替えタクシーに乗り込んだ。

つづく
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