愛を知らないキミへ

樺純

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第四十五話

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アノンサイド

私は数年ぶりにユサの店で働くことになった。

私のせいでユサに怪我をさせてしまい、ユサの怪我が治るまでの間、ユサの店で働きミネトとコラボパティシエとしての計画も進めていくことになった。

しかし、私はユサの店で働く前にちゃんと過去の自分のことを整理しておかないといけないと思い、ユサに1日猶予をもらった。

午前中から私は一人でシアがいる留置所に向かった。

面会室に入ってきたシアは私の顔を見るなり目に涙をためてぽろぽろとこぼしていた。

A「シア…」

S「やだよ…見捨てないで…1人にしないで…」

シアは私のことを母親だとでも思っているのだろうか?

まるで子供のように泣きじゃくりながらガラスに手を置いて私に縋る。

A「ごめんね…もう、終わりだよ…私たちは終わり…」

私がそう言ってもシアは泣きじゃくるばかりで私の声が届いているのかわからなかった。

A「シア…今までありがとう…私が落ちぶれる事なくこうやってパティシエとして生きていけてるのは間違いなくシアとシアのお父様のおかげだよ…だからお願い…ちゃんと罪を償ってね…」

微かに震える私の声にシアの涙は止まり、私の目をじっと見つめると私の頬にはひと筋の涙がこぼれ落ちた。

面会時間の終わりが迫り私がゆっくりと立ち上がりシアに背中を向けるとシアは私を呼び止めた。

S「ア…アノン!!」

私はその声に振り返る事なく扉に手をかける。

S「アノン!…本気で好きだった…」

シアのその言葉に私は思わず振り返る。

すると、そこには落ち着いた瞳で私を見つめるシアがいた。

S「それだけは…アノンに対するその気持ちだけは…嘘偽りないよ…好きすぎて…アノンに手を出せなかった……今までごめんな…」

シアは私にそう言うとゆっくりと立ち上がり、私を置いて先に面会室から出て行った。

シアとの面会を終えて外に出るとそこには車の中から手を振るキヒヤの姿があった。

A「え…こんなとこで何やってんの?駅で待ち合わせのはずじゃん?」

K「いやさ?昨日、電話で午前中はここに行くって言ってたからちょっと心配になって迎えに来た。」

キヒヤは車から降りながらそう言うと助手席の扉を開けてくれ、私はそのまま助手席に乗り込んだ。

助手席の扉を閉めたキヒヤは運転席に乗り込みシートベルトを締めてハンドルを握る。

K「ラノンの面会に行く前にさ?ちょっと時間あるから俺に付き合ってくんない?」

A「いいけど…どこ行くの?」

K「秘密。」

キヒヤは少し笑いながらそう言って車を走らせた。

幼い頃からずっと一緒に育ってきたキヒヤが車を運転してる事が少し不思議な感じがして、私はそれだけの月日をこの街から離れて暮らしていたんだと思うと少し胸の奥がチクっと痛くなった。

私たちは仲の良かった子供の頃に戻ったかのようにくだらない話をしていると、キヒヤはゆっくりと車を止めた。

私はそれに気づきゆっくりと外を見て驚いた。

そこは私が子供の頃、テレビで見たことをきっかけに、大人になったらここに行ってみたいと毎日のようにキヒヤに言っていたカフェレストランだった。

A「ここって……」

K「子供のころアノンがずっと行きたいって言ってた店だよ…やっと連れて来れた。」

キヒヤはそう言うと車から降りて助手席の扉を開け、私は少し戸惑いながら車から降りてキヒヤの後ろをついて行った。

店内には沢山のお花が飾られていて、窓からは海が一望出来る。

キヒヤは戸惑う私の手首を掴み、席に連れて行き座らせた。

K「ここでランチ食べてから行こう。」

キヒヤに言われるがまま座ると私の前にはお皿とナイフとフォークが用意されていき、綺麗な料理たちが運ばれてくる。

その度にキヒヤは美味しい?嬉しい?感動した?なんて言いながら少し戯けていた。

とても美味しい料理を食べ終えコーヒーとデザートが運ばれてきて私はキヒヤに問いかけた。

A「急にどうしたの?私とここに来るなんて…」

K「え?だって子供のころずっと大人になったら連れて行けってうるさかったじゃん?」

A「それはそうだけど!そんな…」

K「もう…俺たちの間に色恋は無くならなきゃいけないと思ったからだよ。」

キヒヤは私の言葉に被せ気味にそう言った。

K「って言っても…まだ引き摺ってるのは俺の方でアノンは俺のことなんてもう何とも思ってないと思うけど…自分の気持ちにケジメつけたくて。アノンが子供の頃から来たがってたこの店に連れてくるのはユサくんでも誰でもない…俺だって思ったんだ。最初で最後のデート。」

キヒヤはそう言うとクスッと笑っているのに私はキヒヤのその笑顔を見て泣き出してしまいそうになったのをグッと堪えた。

つづく
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