愛を知らないキミへ

樺純

文字の大きさ
上 下
37 / 49

第三十七話

しおりを挟む
アノンサイド

私はユサの本音を初めて聞いて取り乱していた。

ユサは私のことを本気で好きだと思ってくれていたの?

ルルさんに申し訳ないと思うほど私のことを好きでいてくれてた?

ウソ…なんでそんな事、今さら言うのよ…ばか…

店を飛び出した私は動悸が激しい胸を押さえながら歩く。

ユサの本当の気持ちをユサの口から聞きたいとあの頃から思っていた私はいざ、ユサの本音を聞いて後悔した。

あの時、泣き喚いてでもユサに縋りつき店を出て行かなければ良かったと。

いつの間にか私は家の前にまで帰ってきていて、ほとんどどうやって帰ってきたのか記憶は残っていたかった。

家の中に入り、着替えようとクローゼットを開けると勘の鋭いシアは何かを察したのか私を後ろからギュッと抱きしめ、唇を首に這わせる。

A「やめて…指一本触れない約束でしょ…」

シアを避けるように体をよじらせるがシアは手を止める事なく私のスーツの中に忍ばせようとする。

A「やめてってば…」

S「もうアノンは十分すぎるほど一人前になったじゃん?だからもう…約束通り…抱いてもいいよね?こんなに我慢したんだもん。」

シアはそう言うと自分のベルトを緩める。

A「その約束はお父様が社長を辞任した時にはもう…解消されてるはずだけど。私たち表向きでももう、婚約者ではないでしょ。」

S「それは違う。俺との約束は約束だよ。」

シアはそう言うと無理矢理、私のシャツを破り私の下着が露わになった。

A「離して!!」

S「俺に隠れてユサと会うなんて許さない。一体、2人で何を話してたんだ?久しぶりに再会して恋心を再確認でもしたのか?」

シアは何故か私がユサと会っていた事を知っていて、シアのその目は猟奇的だった。

A「なんで…ユサと会った事…知ってるの!?」

私の身体に唇を這わせようとするシアに抵抗しながらそう問いかけると、シアは私の手首を掴み言った。

S「ナイルから報告受けてるからね。」

私はそれを聞いてゾッとした。

まさか、信頼していたナイルが私を裏切りシアに言われるがるまま私を監視していただなんて。

A「最低…もう金も権力もないくせに…一体今のシアに何ができるっていうの?まだ幼かった私を脅して言いなりにしたみたいにまた私を脅すの!?」

S「ユサで脅すよりも…アノンのここに既成事実を頑張って作ろうと思ってね。」

シアはそう言うと私のお腹を撫でた。

やばい…逃げなきゃ…

私は頭の中でそう思うのに、シアはいつの間に怪我からこんなにも回復したのかと思うほど力が強く動けない。

すると、スーツのポケットの中に入れていた私のスマホが鳴り響き、シアの動きが一瞬止まった隙に私は思いっきりシアを突き飛ばすと、シアは開きっぱなしになっていたクローゼットの扉に背中を打ち付け顔を歪ませる。

私はその隙にベッドから起き上がり、カバンを持って部屋を飛び出し出た。

涙がポロポロと溢れ出し、シアに触れられた所が微かに痛み震えながら私は走る。

同じ家に住んでいればシアがこんな事をしてくる日がいつか訪れる。

そんな事、私でも分かっていた。

むしろ、あのシアからしたらちゃんと約束を守り、よくここまで我慢したと言う方が正しいかもしれない。

微かに夜風が冷たくなり、破けたシャツを隠すように手のひらできゅっとシャツを掴む。

すると、後ろから懐かしい声が聞こえた。

「アノン?」

その声に振り返るとそこにはキヒヤが立っていた。

A「キヒヤ…」

私はキヒヤの顔を見た途端にさらに涙が溢れ出し、キヒヤは再会した途端に泣き出す私を見て慌てた顔をしている。

K「どうした?え…なんだよこの服…」

キヒヤは破けたシャツを見て何かを悟ったのか、自分の上着を私の肩に掛けてくれた。

K「ユサさんのとこまで送るよ。」

キヒヤはそう言って私の腕を取り、ユサの所まで連れて行こうとするので私は動かずにじっと固まっていた。

K「アノン?」

A「私…もうユサのとこにはいないの…ごめん…大丈夫だから…」

そう言ってキヒヤの手を離そうとするとキヒヤの顔色が変わる。

K「大丈夫なわけないだろ…服も破かれて引っ掻き傷までつけられて…1人には出来ない。」

A「お願い…大丈夫だから…」

そう私とキヒヤが話しているとキヒヤのスマホが鳴った。

K「ちょ…ちょっと待ってろ。」

キヒヤは私にそう言ったが私はキヒヤの言うことを無視し、走ってその場を後にした。

また、私は行き場をなくしてしまった。

誰に頼ることも出来きない…かと言って今、シアのいる自分の家に戻ってしまえば間違いなくシアに犯される…どうしよう…そう憂鬱に思っているとスマホがなり、そこに名前は表示されず番号だけが表示されていた。

なのに…私はその番号を見ただけでその電話の主が誰なのか分かってしまった。

私は微かに震える指でその電話に出ようとするのに、心のどこかではダメだと思う自分もいて指が動かない。

そうしている間に電話は切れてしまい私は辿り着いた公園のベンチに座り、ただぼんやりと過ごす。

孤独で寂しくて胸が締め付けれる。

すると、また涙が溢れ出しぽたぽたと頬をつたって膝を濡らす。

泣き声が出てしまいそうになるをグッと歯を食いしばって堪えていると人が走ってくるのが分かった。

私は見知らぬ人に不審に思われないよう慌てて涙を拭くとその人は息を切らし駆け寄ってきた。

「電話出ろよ!心配するだろ!?この馬鹿やろ!!」

そう言われ顔を上げるとそこには余裕のない目をしたユサが息を切らして立っていた。

A「ユサ…なんで…」

Y「さっき、キヒヤから連絡あった。アノンがこの辺で1人泣きながら歩いてたから行ってくれって。自分は用があって行けないからって。」

ユサはそう言いながら私の横に座り息を整える。

Y「何があったんだよ…」

A「別に…」

Y「シアさんと…喧嘩でもしたのか…?」

ユサは私に気を使うように言葉を選びながら話す。

A「……。」

私がユサの問いかけに答えずにいるとユサが言った。

Y「昔…アノンが高校中退してすぐの頃だったっけ?そん時も今と同じようなこと…あったな?」

ユサにそう言われて私は思い出す。

そうだ…あの時はラノンと付き合っていると思っていたキヒヤにキスされて動揺して私は公園のベンチで泣きじゃくっていたんだ。

あの時もユサは余裕のない目をして息を切らしながら私を探してくれていた。

A「うん…懐かしいね…ってかなんでキヒヤがユサの連絡先知ってるの?」

Y「あぁ…あいつ今、俺の店で働いてるから。」

A「えぇ!!!?」

まさかの組み合わせに私は驚きを隠せなかった。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...