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第三十六話
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ユササイド
今日はアノンが2号店に来る日か…
俺は本店の定休日の店内でカウンターに座り、アノンと多くの時間を過ごした此処でコーヒーを飲みながらアノンを思い出した。
まだ、未成年だったアノンに俺は遠回しに気持ちの整理をしろと偉そうにキヒヤのことを忘れるよう言ったくせに。
俺はあの日、自分の気持ちの整理もつけないまま成人したアノンを抱いた。
真っ白で純粋なアノンを抱けば抱くほど、俺はアノンを好きになってしまったんだと思い知らされ、それと同時に好きだったはずのルルに対して罪悪感が大きく膨れ上がっていった。
好きだ…付き合おう…
そうアノンに言いたいのに言えない。
自分が過去に犯してしまった罪が頭の中をよぎり、喉まで出かかっては飲み込んでいた。
もし…あの時…
俺がアノンにその言葉を伝えられていたら…
今の俺はこんなにも苦しまずに済んだのだろうか?
アノン…良い女に成長してたな…
アノンは俺を見てどう思ったかな…
俺はそんな事を思いながらまた、コーヒーを啜る。
すると、定休日なはずなのに入り口のベルがチリンチリンと鳴り、俺がゆっくりと振り返るとそこにはミネトの後ろに隠れるように下を向いて立つアノンの姿があった。
俺はアノンの姿が目に入ると慌てて立ち上がる。
Y「おぅ…どうした…」
M「俺がアノンを誘ったんだ。アンとしてではなくアノンとして会いに行かない?って。」
ミネトはそう言うと俺に眉毛をピクリとあげてドヤ顔をした。
Y「そうか…」
ミネトが立ち尽くす俺をよそにアノンをソファ席に座らせて、キッチンの中へと入って行き俺とアノンだけがホールに残された。
Y「打ち合わせ…無事に終わったか?」
A「あ…うん…」
Y「そっか。」
ぎこちない空気が漂い、話したい事や聞きたいことが山ほどあるのに何故か俺は何も聞けずにいた。
すると、アノンが口を開いた。
A「ユサは…今、幸せ?」
咄嗟に聞かれたアノンの質問に俺は固まる。
幸せ…
人は何を基準として幸せを判断するのだろう?
確かに仕事の面ではとても充実していた。
しかし、俺の心はどこかいつも隙間風が吹いているように凍えていて寂しかった。
Y「…幸せって…なんだろな…俺にはまだ分からない。」
俺がそう言うとアノンは髪を耳に掛けフッと笑い…俺はアノンの右手首を見て目を疑った。
そこには俺がプレゼントしたあのブレスレットが揺れていたから。
Y「そのブレスレット…」
俺がそう言うとアノンはハッとした顔をして手首を隠した。
Y「俺がプレゼントしたブレスレットだよな?」
A「そうだった?昔のことだから忘れちゃった。」
Y「俺との事も…忘れた?」
俺の言葉を聞いたアノンは一瞬、ピクッと表情を強張らせると言った。
A「私を追い出したのはユサの方だよ?なのに忘れたかなんて聞くのは…ちょっと…酷すぎるんじゃない?」
Y「そうだな…ごめん。俺が悪かった。」
A「いつもそう…ユサはいつもそうやって大事な時に何も言わずすぐ逃げる。私のことどう思ってたのかも、私とどういう感覚でいたかったのかも、なんで私を追い出したのかも、私の何がいけなかったのかも、いつも1番大事な事は何も言ってくれないじゃん!!」
冷静な口ぶりだったはずのアノンは突然、声に余裕をなくし捲し立てるように俺に向かってそういった。
そんなアノンの言葉を聞いた俺も募りに募った気持ちがつい、爆発してしまった。
Y「好きだから…!!本気で好きになっちゃったから…!!何も言えなかったんだよ…!!アノンを好きになればなるどルルに申し訳なくて…アノンを好きになればなるほど独占欲が増して、アノンがキヒヤといるのを見ただけで頭がおかしくなりそうだったから!!俺はもう…アノンの為にもアノンのそばにいちゃいけないって思ってアノンをここから追い出したんだよ!!」
この数年間、言いたくても言えなかった気持ちが波のように一気に押し寄せてきて、俺はアノンにその気持ちをぶつけてしまった。
そしてすぐに大きな後悔が押し寄せる。
シアと結婚するアノンに俺は何を言っているのかと。
我に返った俺は小さく息を吐き出しアノンに言った。
Y「悪い…言い過ぎた。今の忘れて。」
俺がそう言うとアノンは店を飛び出した。
ガチャンと大きな音を立ててしまった扉に驚いたミネトがキッチンから飛び出して俺の事を見る。
M「ユサくん…」
俺はミネトの呼ぶ声に返事をせず、ミネトの横を通り過ぎようとすると、ミネトは俺の腕を掴んだ。
M「もう十分だよ。」
Y「え?」
M「もう姉ちゃんに申し訳ないなんて思わなくていいから…いい加減自分の幸せ見つけなよ。今ならまだ間に合うよ。あのアノンがなんでシアさんと一緒にいるのか…ユサくんはもう知りたくない?」
ミネトはそう言うと俺に話し出した。
つづく
今日はアノンが2号店に来る日か…
俺は本店の定休日の店内でカウンターに座り、アノンと多くの時間を過ごした此処でコーヒーを飲みながらアノンを思い出した。
まだ、未成年だったアノンに俺は遠回しに気持ちの整理をしろと偉そうにキヒヤのことを忘れるよう言ったくせに。
俺はあの日、自分の気持ちの整理もつけないまま成人したアノンを抱いた。
真っ白で純粋なアノンを抱けば抱くほど、俺はアノンを好きになってしまったんだと思い知らされ、それと同時に好きだったはずのルルに対して罪悪感が大きく膨れ上がっていった。
好きだ…付き合おう…
そうアノンに言いたいのに言えない。
自分が過去に犯してしまった罪が頭の中をよぎり、喉まで出かかっては飲み込んでいた。
もし…あの時…
俺がアノンにその言葉を伝えられていたら…
今の俺はこんなにも苦しまずに済んだのだろうか?
アノン…良い女に成長してたな…
アノンは俺を見てどう思ったかな…
俺はそんな事を思いながらまた、コーヒーを啜る。
すると、定休日なはずなのに入り口のベルがチリンチリンと鳴り、俺がゆっくりと振り返るとそこにはミネトの後ろに隠れるように下を向いて立つアノンの姿があった。
俺はアノンの姿が目に入ると慌てて立ち上がる。
Y「おぅ…どうした…」
M「俺がアノンを誘ったんだ。アンとしてではなくアノンとして会いに行かない?って。」
ミネトはそう言うと俺に眉毛をピクリとあげてドヤ顔をした。
Y「そうか…」
ミネトが立ち尽くす俺をよそにアノンをソファ席に座らせて、キッチンの中へと入って行き俺とアノンだけがホールに残された。
Y「打ち合わせ…無事に終わったか?」
A「あ…うん…」
Y「そっか。」
ぎこちない空気が漂い、話したい事や聞きたいことが山ほどあるのに何故か俺は何も聞けずにいた。
すると、アノンが口を開いた。
A「ユサは…今、幸せ?」
咄嗟に聞かれたアノンの質問に俺は固まる。
幸せ…
人は何を基準として幸せを判断するのだろう?
確かに仕事の面ではとても充実していた。
しかし、俺の心はどこかいつも隙間風が吹いているように凍えていて寂しかった。
Y「…幸せって…なんだろな…俺にはまだ分からない。」
俺がそう言うとアノンは髪を耳に掛けフッと笑い…俺はアノンの右手首を見て目を疑った。
そこには俺がプレゼントしたあのブレスレットが揺れていたから。
Y「そのブレスレット…」
俺がそう言うとアノンはハッとした顔をして手首を隠した。
Y「俺がプレゼントしたブレスレットだよな?」
A「そうだった?昔のことだから忘れちゃった。」
Y「俺との事も…忘れた?」
俺の言葉を聞いたアノンは一瞬、ピクッと表情を強張らせると言った。
A「私を追い出したのはユサの方だよ?なのに忘れたかなんて聞くのは…ちょっと…酷すぎるんじゃない?」
Y「そうだな…ごめん。俺が悪かった。」
A「いつもそう…ユサはいつもそうやって大事な時に何も言わずすぐ逃げる。私のことどう思ってたのかも、私とどういう感覚でいたかったのかも、なんで私を追い出したのかも、私の何がいけなかったのかも、いつも1番大事な事は何も言ってくれないじゃん!!」
冷静な口ぶりだったはずのアノンは突然、声に余裕をなくし捲し立てるように俺に向かってそういった。
そんなアノンの言葉を聞いた俺も募りに募った気持ちがつい、爆発してしまった。
Y「好きだから…!!本気で好きになっちゃったから…!!何も言えなかったんだよ…!!アノンを好きになればなるどルルに申し訳なくて…アノンを好きになればなるほど独占欲が増して、アノンがキヒヤといるのを見ただけで頭がおかしくなりそうだったから!!俺はもう…アノンの為にもアノンのそばにいちゃいけないって思ってアノンをここから追い出したんだよ!!」
この数年間、言いたくても言えなかった気持ちが波のように一気に押し寄せてきて、俺はアノンにその気持ちをぶつけてしまった。
そしてすぐに大きな後悔が押し寄せる。
シアと結婚するアノンに俺は何を言っているのかと。
我に返った俺は小さく息を吐き出しアノンに言った。
Y「悪い…言い過ぎた。今の忘れて。」
俺がそう言うとアノンは店を飛び出した。
ガチャンと大きな音を立ててしまった扉に驚いたミネトがキッチンから飛び出して俺の事を見る。
M「ユサくん…」
俺はミネトの呼ぶ声に返事をせず、ミネトの横を通り過ぎようとすると、ミネトは俺の腕を掴んだ。
M「もう十分だよ。」
Y「え?」
M「もう姉ちゃんに申し訳ないなんて思わなくていいから…いい加減自分の幸せ見つけなよ。今ならまだ間に合うよ。あのアノンがなんでシアさんと一緒にいるのか…ユサくんはもう知りたくない?」
ミネトはそう言うと俺に話し出した。
つづく
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