愛を知らないキミへ

樺純

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第三十四話

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アノンサイド

シアは少しづつ元気になっていき顔色も良く食欲も出てきた。

しかし、私は看護師さんから聞いていた。

もしかしたらシアはもう2度と歩けないかもしれないと。

S「なぁ…アノン…?」

シアは病室から窓の外をじっと見つめて私の名前を呼んだ。

A「うん?」

S「本当に好きだよ…俺と結婚しよ…」

シアは突然、私にそう言うと私の手を握って微笑んだ。

しかし、どんなにシアが私に愛の言葉を囁こうとも同情心はあっても私の心がシアに揺らぐことはなかった。

シアはリハビリを開始し、車椅子ではなく杖があればなんとか歩けるようになり、退院してからはシアの住む場所が見つかるまで私の家に住むことになった。

S「ごめんな…何から何まで迷惑かけて…」

A「そう思うなら早く住むとこ探して…」

S「結婚しよって言ってるのに……アノンがいないと生きてる意味ないのに…」

ベッドから起き上がるシアを少し助けながら私がそう言うとシアは寂しそうに笑った。

シアがこんな事になり、さすがにもう隠しきれずサラナには伝えないと行けない気がして私はそのままを包み隠さずサラナに伝えた。

SR「ちょっと待って…脅されて今までずっと一緒にいたの!?いくらシアさんのお父様が留学の費用を出してくれたからってアノンがシアさんそこまでする必要ある!?」

サラナは怒った様子でそう言った。

A「そうだけど……」

SR「ユサさんの所に戻りなよ…」

サラナは私の言葉を遮るようにそう言う。

A「もう今さらユサの所には戻れないよ…ユサに追い出されたのに…」

苦笑いをしながら私は自分の気持ちを悟られたくなくてサラナから視線を逸らしそう言った。

SR「ユサさんはキヒヤとアノンがお互いに好き同士だって思ったからアノンに出て行けって言ったんだよ!?これ以上、自分がアノンを引き止めたら自分が邪魔者だからって!!なのに今のアノンは何!?キヒヤと幸せに暮らしてる訳でもなく、ユサさんのことを理由にアノンを脅してそばにいさせたシアさんといるって!?馬鹿じゃないの?ユサさんがそんな事知ったらどれだけ傷つくと思う!?」

A「…もう…ユサとは会うこともないから。」

私がそう言うとサラナは怒った顔で立ち上がる。

SR「そう…もう勝手にしなさい。」

そう言ってサラナは店を出て行った。

正直、私は自分でもどうすればいいのかわからなくなっていた。

脅されていたとはいえ、事故に遭ったばかりで唯一の肉親であったお父様をなくし、まだ精神が不安定な今のシアを1人にするなんて出来ないと私は思ってしまった。

幼かった孤独な自分をシアに重ねて…

そんな日々を過ごしながらも仕事は順調で次々と仕事が決まっていきシアの精神状態も落ち着きはじめた時、シアは私に言った。

S「俺…アノンと結婚したいと思ってるの本気だから…」

A「やめて…そんな風に私のこと思わないで…もう怪我も落ち着いたんだしそろそろ住むとこ探したら…」

S「嫌だよ。次、俺に出ていけなんて言ったら…俺…アノンの前で死ぬからね。」

シアの目はあの日、私を連れ去ろうとした日と同じ目に戻っていて私はゾッとする。

A「何言ってんの…」

S「あ…間違った…アノンを殺してから…俺も死ぬよ。」

その目は脅しでもなんでもなく本気なんだと私は感じそれ以上、シアになにも言葉を返せなかった。

シアとそんな事があった次の日、数日前にコラボの依頼を受け私が気に入ったお店の見学に向かった。

お洒落でセンスのいいケーキの写真を見せられた私は何故かユサの事を思い出した。

その写真に写るケーキはユサの作るケーキにどことなく似ていたから。

どんな店なのか…ワクワクしながら向かい、秘書が車を止め私が車から降りると、そこには会いたくて堪らなかったユサが立っていた。

5年ぶりにユサの顔を見た時は心臓が暴れ出し、この5年間で私は見た目も心も変わったと思っていたのに何も変わってなかったことに気付かされた。

少しでも長くユサといてしまうと、またユサ無しじゃ生きていけなくなりそうでゆっくり話をしたいというユサに私は残酷な嘘をついた。

結婚するつもりもないシアと結婚すると。

それは大好きだったユサに見放され追い出された私の小さな復讐心だったのかもしれない。

そして私はその場を逃げるように離れた。

動揺する気持ちを落ち着かせるように深呼吸して歩いて家に戻ったが、何故かシアの目は見るとこが出来なかった。

つづく
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