愛を知らないキミへ

樺純

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第三十一話

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ユササイド

落ち着かずイライラしながら待っていると呑気な顔してジオは帰ってきた。

J「ただいま~あぁ~疲れた。慣れないことは疲れるね~」

そう言ってソファに座ったジオの前に俺とミネトがドカっと座り身をのりだす。

Y「とりあえず…お疲れ。今から見せる写真を見てアンさんと似てるか…どうか…見比べるんだ…いいな?」

J「えぇ…もう疲れてるのに…喉乾いたし…」

なんて言っているジオにスマホの画面を見せると…なんだかんだ言いながらジオはその画面をじーっと見つめる。

M「どうなの!この子とアンさん…似てる?」

J「うーん…似てないよ…うん…似てないかな?なんか、バリバリキャリアウーマンって感じで落ち着いてて大人のセクシー系だったし全然違う。」

M「本当に違う!?よーく見て!!この子!本当の本当に違う?」

J「俺には違うように見えたけど?」

やっぱり別人だったか…あのブレスレッドも似てただけなんだ…そう思ったら俺は想像よりも落ち込んだ。

Y「そうか…今日は悪かったな…俺の代わりに交渉行ってもらって…視察の当日は俺が対応するよ…」

なんで俺…こんな落ち込んでるんだろ…

分かりやすくテンションの下がる自分に少し苦笑いしながら俺はみんなの元を離れた。

そして、視察当日

スーツに着替えて2号店に向かうとミネトがそわそわと落ち着かない様子で店内にいた。

Y「今日、アンさんに出すケーキ出来たのか?」

M「うん…準備は完璧…あぁ緊張する…」

そんな事を話していると店の前に黒塗りの高級車が止まり運転手が降りて後ろの扉へと回った。

Y「ミネト!来た!準備しろ!」

俺がそう声をかけるとミネトは走って中から出てきて俺の後ろに立つ。

俺は店の扉を開け出迎えようと一歩外に出ると…

運転手が車の扉をゆっくりと開けた。

そして、中から出てきた人を見て俺は固まった。

Y「アノン………」

俺の言葉を聞いたミネトも同じように食い入るようにその女性を見た。

M「いや、あれはアノンじゃないよ…全然別人じゃん?」

ミネトは俺の横でそう言うが、あの女性は間違いなくアノンで俺たちの顔を見て固まっている。

アノンは紫色のカラコンを入れ、艶やかなアメリカンチェリーのような髪色のロングヘアで太めの跳ね上がったアイラインに真っ赤な口紅、所々黒レースの入ったスーツにピンヒールを履いて俺たちの前に立ちつくしている。

アノンの秘書が不思議そうな顔をするとアノンはゆっくりと俺たちの前までカツカツとヒールの音を鳴らして立った。

Y「アノン…だろ?」

「アンです。このお店の方…いらっしゃいますか?」

俺が問いかけに表情を変える事なくそう言われた。

Y「え……あぁ…すいません…この店は私の店です。先日は私がお伺い出来なくて申し訳ございませんでした。」

「いえ、私も申し訳ないのですがお店のイメージが私のイメージとは違うのでこのお話はなかったことにしてください。」

そう言って店の中にも入らずに車に乗り込もうとするアノン…いやアンさんの手首を俺は思わず掴んだ。

Y「アノンだろ…どんなに見た目が派手になって変わっても俺には分かる…頼む…話そう?」

すると彼女はゆっくりと振り返り俺の目を見た…

やっぱり…どんなにカラコンでその瞳を隠したとしてもその寂しそうな瞳はアノンじゃん…

A「帰りは1人で大丈夫なので会社に戻ってください。」

アノンは秘書にそう言って店の中へ入っていき、俺も秘書に頭を下げてアノンの後をついて行こうとすると、ミネトはただ俺の横でポカーンと口を開けて固まっていたので俺はミネトを小突くとミネトは我に返っていた。

A「なんで…この前は全然知らない人たちが来たのに…」

そう話す口ぶりは間違いなくアノンだった。

Y「この店が俺たちの店だってバレたら契約してもらえないと思って。」

A「じゃなんで?まだ、正式に契約してないのに今日ここにユサとミネトがいるの?」

Y「それは……」

M「あの日、交渉に行ったジオくんにアノンの写真みせたら別人だっていうから…でも俺も分かんなかった…アノン大人になったね…」

A「もう…十分すぎるほど大人だからね…でも、契約は…しない方がいいと思う。」

M「アノンなんでそんな事言うんだよ…ここは2号店で俺が店長パティシエなの!お願い!今、注目浴びてるアノンとコラボして話題を集めたいんだよ…」

A「…………。」

Y「ミネト…ごめん。ちょっとアノンと2人で話…させてもらえないか?」

M「え…ぁ…わかった。」

ミネトは全てを察したのか俺に合図を送って店を出て行った。

A「話って…なに?」

Y「元気にしてたんだな…」

A「まぁ…」

Y「まさかお前がパティシエになるなんてな…」

A「そうだね…」

Y「今じゃ若手の注目パティシエになっちゃって…」

A「みんな物珍しいだけでしょ…」

Y「会いたかった…」

微かに震えたその声で俺が絞り出すとアノンは無言のままため息を1つ落とした。

A「あの頃の私はさ…ユサのお店という場所が全てだった。唯一、私の傷を癒してくれる場所で…私にとって特別な場所だったし…私はユサの特別な存在になれてると勘違いしてたんだよね。」

Y「特別だったよ…お前はずっと特別…」

A「でもね?気づいたんだよ…。あの頃はまだ幼かったからもっといい女になって誰かの代わりじゃなく私を愛してもらえるようにがんばろって…自分に自信が持てたらユサのとこに帰ろうって思ってた…けど…どんなに頑張っても自信がついても…亡くなった人には敵わないなって…大人になって気づいたの。だから、もう私たちは関わらない方がいい。私を見ればユサはルルさんを思い出して自分を責めるでしょ?私はユサに会えば自己嫌悪に陥る…だからやめとこう?」

Y「やめない。」

A「ユサ?」

Y「あの日…お前が出て行った日…俺はミネトにこのままアノンが出て行っても後悔しないのかって言われた…それに対して俺は後悔しないって言ったんだ…その方がお前の為だと思ったから…でも…今は…後悔しないって言った事を…後悔してる…キヒヤのことを好きなお前を俺のエゴで自分の中に閉じ込めてたら…ダメだと思ったから…でも…力尽くでもお前の手を離さなければ良かったって…今ならそう思う……」

A「もう…遅いよ…」

Y「遅くなんかない…これからだろ…俺たち…」

A「もう遅い…私…結婚するの。」

その言葉を聞いて俺は気が遠くなるのがわかった。

Y「だ…誰と…」

A「シアだよ?シアと結婚が決まってるの…たぶん、ユサと一緒に仕事するって知ったらシアも嫌がるだろうから…ごめんね…」

シアとアノンが?

戸惑いを隠せない俺はなんとか口を開く。

Y「そっか…おめでとう…」

A「ありがとう。じゃ…元気でね。」

そう言ってアノンはコツンコツンと高いヒールを鳴らしながら帰って行った。

俺…5年間もなにぼーっとしてたんだよ…

つづく
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