愛を知らないキミへ

樺純

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第二十九話

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ミネトサイド

アノンがこの店を出て行ってから5年という長い月日が流れた。

ユサくんの店は今ではお酒とケーキを楽しめる店として雑誌で掲載されるほど有名店となり、2号店となるケーキ専門店のオープンが決まった。

そして、俺はユサくんから2号店の店長兼パティシエを任される事になった。

M「ユサくん?オープン記念にどこかの有名パティシエとのコラボ商品を目玉として出したいなって思ってるんですけど?どうですか?」

Y「あぁいいんじゃない?誰かいいパティシエいるの?」

M「うん。アンさんっていう人なんですけど、顔とか一切メディアには出てないんですけど、彼女がプロデュースするケーキはSNS映えするって言って今、若者の間で有名なんだよ?」

Y「ふ~ん。初めて聞いた。でも、SNS映えしても味が大したことなかったら意味ないな…」

俺はアンさんに興味なさそうなユサくんにアンさんのSNSを開けて見せた。

M「これこれ…めっちゃ綺麗じゃない?そういえば、この前宇宙をイメージして作ってたお菓子があったんだけど……あ!これ!」

それはまるで星が散りばめられていてキラキラと光るドーム型のケーキが写っていて、ユサくんの好きそうなデザインのケーキだと俺は思っていた。

Y「え……このケーキの名前spaceって…ウチの2号店と名前かぶってんじゃん。」

そう、アンさんが作ったケーキの名前と2号店の名前が同じと言う事もあり、俺はアンさんとのコラボが実現しないかと考えていたのだ。

M「これを目玉としてウチとコラボしてもらえないのかなって思って。なんか、調べてみたら元々海外にパティシエ修行へ行ってて有名店で働いてたみたいなんだけど最近、個人事務所を立ち上げてスイーツアーティストとして活躍してるみたい。でも、顔や年齢、本名は全て非公開で担当者を通じて仕事を選んでるみたいだよ。」

俺がそうアンさんについて調べた事をユサくんに伝えていると、SNS映えなんて興味ないと言いながらもユサくんはアンさんの写真を真剣な目でみていた。

すると、突然ユサくんの手が止まり表情が変わった。

M「ユサくん?どうしたの…?」

俺そう不思議そうにユサくんの顔を見ているとユサくんが俺に見せた写真にはケーキが映し出されており…

一緒に写り込んでいた華奢な手首にブレスレットが光っていた。

Y「このブレスレットって……」

M「見覚えあるの?」

Y「あぁ…俺が手作りで作った世界で一つのブレスレットだ…」

M「え!?じゃ、ユサくん…アンさんと知り合いって事!?」

Y「アンって…まさかアノン……?」

ユサくんの口から出たアノンの名前に俺は勢いよく立ち上がり…また、ゆっくりと座る。

M「本当にアノンなの……?」

Y「間違いない…このブレスレットはアノンの成人の誕生日の日にプレゼントしたから…。」

M「なら…コラボは難しいね…」

Y「だな?」

もし、ユサくんの言うようにアンさんがアノンなら元気で夢に向かって過ごしていたんだと嬉しく思う反面、目の前に座るユサくんの顔はまだ悲痛に歪んでいて俺の胸は痛む。

このアンさんが本当にアノンなら本当はオファーをしたい。

だが…もし俺たちからのオファーだと知ったら断られるかも…

そんな事を考えていると俺はふといい案が浮かんだ。

M「ユサくん!ジオくんなら…もし、このアンさんがアノンだったとしても…顔を知られてないんでうまく話を進めて契約まで出来るんじゃないですか!!?」

ジオくんとはこの5年の間に新しく仲間に加わったパティシエで、アノンとジオくんは面識がないため、俺やユサくんが話を聞く前に断られるかもしれないけど、ジオくんならその可能性なく交渉までいけるのではないかと俺は思った。

Y「そう言われれば…そうだけど…」

ユサくんは自分から出ていけとアノンに言ったことを気にしてるのか、誰よりもアノンと会いたいはずなのに素直にはならない。

J「え?オーナーのユサさんが交渉しに行かず俺に行けってこと?」

後ろで聞き耳を立てていたのかジオくんがそう言いながら俺たちに近づいてきた。

M「まぁ…そうなるね…?」

J「ユサさんがオーナーなのにそれはちょっと…」

Y「だよな…」

ユサくんはジオくんの反応を見てもう半分諦めている。

M「ジオくんの頭の回転の速さがあれば大丈夫!ユサくんを助けるためだと思って…どうか…どうかよろしくお願いします!!」

そうして俺は渋るジオくん説得すると、SNS上からアノンかもしれないアンさんにコンタクトを取った。

するとすぐに、DMでの返信がきてとんとん拍子に話が進み担当者と打ち合わせ日時が決まった。

つづく
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