愛を知らないキミへ

樺純

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第二十八話

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アノンサイド

公園のベンチに座っていると人の気配がし、ゆっくり顔を上げるとそこにはミネトが立っていた。

M「アノン…探した。」

A「ユサに出て行けって言われた…」

M「うん…聞いたよ…」

A「私…また居場所なくなっちゃた…」

M「ルルって人の話…聞いたんだって?」

A「うん…聞いた…ユサの元カノでしょ?」

M「ユサくんの元カノっていうか…好きだった人って言い方が正しいかな…そのルルっていう人…俺の姉ちゃんなんだ…」

A「え?」

M「事故で亡くなったんだけどね…ユサくんはそれを今でも自分のせいだって…責めてる。」

A「ユサ…その人と駆け落ちしたんでしょう?」

M「違うよ…」

A「え?ユサはそう言ってたよ…」

M「ユサくんは…姉ちゃんに頼まれたんだ…1日だけ自分と過ごしてほしいって…姉ちゃんのワガママを誰にも言えなくてユサくんは自分が駆け落ちしようって言ったって今でも嘘ついてる…姉ちゃんの名誉を守る為に…」

A「え?どういうこと?」

M「たぶん…姉ちゃんは最初で最後のユサくんとの思い出を作りたかったのかな?姉ちゃんは初めっからシアさんの所に戻るつもりもユサくんと付き合うつもりもなかった。俺に最後に残したメールが…ミネトこんなお姉ちゃんでごめんね…ずっと大好きだよ。ユサにも一緒に過ごしてってワガママ言ってごめんって伝えてって。そのメールを見ておかしいな…って思ったら…親たちが2人がいなくなったって騒ぎ始めたんだ。」

A「もしかして…お姉さん…」

M「今思えば初めからユサくんとの想い出を最後に自分で命を絶つつもりだったんだろね…2人を見つけた人が追いかけてる時に…姉ちゃんは自ら車の前に飛び出して…ユサくんは助けようとしたけど助けることが出来なかった…それをユサくんは今でも…自分のせいだって思ってる…」

A「そんな…」

M「自分さえいなければシアさんと姉ちゃんがうまくいってたのにって…自分が邪魔したんだって…自分がいなければ姉ちゃんが死ぬこともなかったのにって……」

A「ユサ……」

M「シアさんは今でもユサくんを恨んでるよ…自分を裏切って自分から姉ちゃんを奪ったって…ラノンがシアさんの店で働いてるのもたぶん、ヒサトくんが姉ちゃんに似てるってシアさんに言ったからだと思う…」

A「シアさんね…私のことを見る目が怖かった…あの目は…危ない人の目だった…」

M「アノン?お願いだからユサくんの所に戻って?シアさんには何がなんでも絶対に近づいたらダメ。」

A「戻りたくても…戻れないよ…ユサに迷惑だって言われたし……」

M「あの人が本気でそんな事言うと思う?もう、こんなに一緒に過ごしてるのにまだあの人の性格分からない?」

A「今の私には…きっとユサの悲しみ…埋めてあげれないから…」

M「え?」

A「ユサの苦しみや悲しみ寂しさや孤独に気づかずユサに甘えてばかりの私には……ユサの心の隙間を埋めてあげることはできないよ。」

M「本当にそう…思ってる?ユサくんの事…アノンは好きじゃない?」

A「…………………好きだよ…ユサの事が好きだから……ユサは私を見てるじゃなくて…私の姿に誰かの面影を重ねてるじゃないかと思ったら…………胸が痛くて苦しかった……」

M「アノン……」

A「ユサのそばにいても…私は一生…ルルさんの代わり……」

M「そんな事ないって…!お前…まさか…本気でユサくんの所…出て行くつもりなの?」

A「うん…」

M「出て行ってどうするんだよ?どこに住むんだ?仕事は?金あんのかよ!?」

A「ミネト……こんなに良くしてもらったのに本当にごめんね…」

M「やめろ…そんなお別れの言葉みたいなこと…俺に言うな…俺はもうこれ以上…大切な人を失いたくないだよ…だからユサくんのためじゃなくていい…俺のために…ここにいろよ…」

私はゆっくりとミネトを抱きしめた。

A「ごめんね…ありがとう…大好きだよ…ミネト。」

私はぎゅっとミネトを抱きしめるとミネトを振り切るようにしてその場を後にした。

自分の部屋に戻り荷物を詰め込む…

置き手紙に大きな家財道具は処分してくれと書き、手持ちの費用を封筒に入れてテーブルに置いた。

重いトランクを持ち階段を降る。

ここで過ごした私のほろ苦い青春。

キヒヤとの悲しくて辛かった想い出とミネトの優しい想い出…そして、ユサとの甘くて温かい思い出…

沢山の時間を過ごしたこの場所から私は出て行く。

まさか…ここを離れる日が来るなんて…

私は茜色に染まった空を見上げ、涙に濡れた頬を拭きながら一歩…また一歩と歩き出した。

つづく
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