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第十六話
しおりを挟むミネトとユサは少し離れたベンチに座りパンフレットを眺めていて、サラナはカチューシャを選びながらため息まじりに言った。
SR「ねぇ、アノンってどんなけ悪運強いわけ!?なんでこんな所に来てまでラノンとキヒヤと遭遇するのよ。」
サラナはそう言って頭を抱える。
A「私だってびっくりしたよ。とりあえず、カチューシャじゃなく被り物にして2人に会わないようにするよ。」
私は気持ちを切り替えるようにわざと戯けながら恐竜の被り物をかぶる。
SR「ねぇ、1度お祓い行った方がいいんじゃない?」
サラナは真顔のまま呆れたように私の被り物を脱がし、可愛いカチューシャを手に取り私に着けてくれた。
すると…懐かしい声が私の耳に飛び込んできた。
「久しぶりだね。」
その声を聞いて私は思わず固まる。
振り返ったサラナも驚いた顔をして手を止めている。
ゆっくりと声の方を向くとそこにはキヒヤが私の方を見て微笑んでいた。
A「ひ…久しぶり…偶然だね…?」
私は動揺しながらも辛うじてそうキヒヤに返事をする。
K「あぁ…今、アノンが来てるってヒサトくんから聞いて…ラノンもいるよ?」
A「そう。」
K「姉妹なのにそれだけ?アノン…冷たいね…」
キヒヤがそう言うと黙って見守っていたサラナがグイッとキヒヤの前に立ち言った。
SR「アノンが冷たい?お言葉ですけどアノンは冷たくなんかないから。あんたの方が100万倍冷たいから。」
K「お前……誰だ?」
キヒヤは同じ幼稚園と低学年を小学校で過ごしたサラナのことを覚えていないのか、不思議そうな顔をしてじっと見ている。
A「サラナだよ…覚えてない?」
K「あ…気の強い…サラナ…」
SR「うるさいわ!あんたにはね言いたい事山ほどあるけど…今日はやめとくわ。早くあっち行って。」
サラナは手を払いながらキヒヤの元から離れようと私の腕を引っ張る。
K「アノン…あの人と一緒なんだろ?働いてる店の…」
A「ユサのこと?そうだよ…なんで?」
K「アノンはさ…?結局…どっちの男と付き合ってるわけ?」
私は突然、意味の分からないことはキヒヤに言われ言葉を失う。
A「そ…それ…どういう…意味…?」
SR「あんたね!いい加減に………」
サラナがカチューシャを放り投げてキヒヤに掴みかかりそうになり、さすがにそれは私が止めた。
すると、後ろから知らない顔の男の人がやってきた。
K「あ…シアさん……」
キヒヤは振り返るとその人をシアさんとそう呼び、親しそうな顔をして話していた。
S「え…ラノンと同じ顔があるんだけど…?」
K「ラノンの双子の妹のアノンですよ。似てるのは顔だけなんで。」
キヒヤにそう言われたのがまた、私の胸を刺激しチクチクと痛む。
S「そうなんだ…俺はシア。アノンよろしくね?こいつら俺の実家でバイトしてんだよ。」
そう言ってシアさんという人は私に握手を求めた。
A「どうも……」
S「顔は全く同じなのにラノンと雰囲気全然違うね?シアくんって呼んでね?俺もアノンと仲良くなりたいな…ダメ?」
シアさんは私の手を握ったまま私の顔をマジマジとじっと見る。
「なんでシアがここにいるんだよ…。」
その声のする方をシアさんがゆっくりと振り返りると…シアさんニヤッと笑い、私はその微笑みに背筋が凍った。
S「ユサじゃん?久しぶりだね?元気だった?」
ユサとシアさんは知り合いなのかお互い顔を合わせるとそんな事を言った。
しかし、ユサの顔を見ると珍しく動揺した顔をしていた。
Y「アノン行くぞ。サラナちゃんもあっちの店でカチューシャ買おう。」
ユサはシアさんと目を合わせることなく、私の手を引いてその場から立ち去ろうとするとシアさんがそれを引き留めた。
S「久しぶりの再会なのに挨拶もなしかよ…?」
K「シアさん、知り合いなんですか?」
キヒヤが不思議そうな顔をしてシアさんに問いかける。
S「うん。もちろん。ユサは俺の婚約者を……」
Y「アノン行くぞ。」
そう言って私はユサに強引に手を引かれてミネトの元へと連れて行かれた。
振り返るとサラナはなぜかその場に残り、キヒヤに威嚇しているが、私のところではサラナがキヒヤに何を言っているかまでは分からない。
しかし、サラナのあの顔を見る限りキヒヤに激怒しているのは間違いない。
M「ユサくん…どうしたのその顔…」
ただならぬ様子でミネトの元に戻ってきたユサを見てミネトは戸惑っていた。
Y「サラナちゃんをあそこから連れてこい。帰るぞ。シアがいた。」
ミネトもシアさんと知り合いなのかユサからその名前を聞いてミネトの顔色が変わる。
A「ねぇユサ!シアさんって人と知り合いなの?」
Y「帰るぞ。」
M「分かった。」
ユサとミネトは私の言葉に返事することはなく、ミネトは慌ててサラナの元へと向かった。
A「ねぇってば!ユサどうしたのよ…」
Y「会いたくない人がいた。だから帰る。お前も会いたくないやつがいたんだろ?それとも本当は会いたくて仕方なかったのか?あのキヒヤってやつと!」
もうすでにユサを愛しはじめてしまった私にとってその言葉にトゲを感じ私の心は疼く。
A「なんでそんな言い方するの…」
Y「違ったか?会いたくて仕方ない男と会いたくなくて仕方ない女がいたの間違いか?」
ユサが煽るようにそう言った瞬間、私は無意識にユサの頬を殴っていた。
A「最低…ユサにだけは…そんな風に言われたくなかった…。」
私は涙を堪えたままユサの腕を振り払いその場を離れた。
つづく
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