愛を知らないキミへ

樺純

文字の大きさ
上 下
10 / 49

第十話

しおりを挟む

私はシャワーを浴び終えると、着替えて店へと降りた。

A「ごめん。」

私がそう言うとユサはチラッと私の顔を見て言った。

Y「ミネトから聞いた。男の事でオレンジジュースを人にかけるって…10代の女がすることかよ。」

A「さぁ?あいつの頭がおかしいんじゃない?」

Y「オレンジジュースかけられるほど双子の姉に嫌われて恨まれるってことだろ?お前…気をつけろよ。」

ユサは少し飽きれた顔をしながらカウンターに座ってミネトの淹れたコーヒーを飲んでいる。

M「ってかさ?言いたくなかったんだけど…こんな事あったからやっぱり話しておいたほうがいいと思う…」

言いたい事ははっきりと言うタイプのミネトが珍しく口籠りながらそう話し出し、私とユサは思わず顔を見合わせる。

A「なに…?」

Y「アノンに関係することか?」

私とユサがそう問いかけるとミネトはふーっと息を吐いて言った。

M「ラノンってさ…たぶん…俺のこと好きだったんだと思うんだよね…」

ミネトは私とユサの顔を交互に見つめながら少しおどおどとしそう告白をした。

それを聞いた私とユサは驚き思わず固まる。

AY「はぁ!!!?」

A「どういうこと!!?ラノンにはキヒヤがいるじゃん。」

私が前のめりでそう聞くとミネトは拭いていたグラスを置いてカウンターから出て来た。

M「いや、昔の話だよ?小学生の頃、塾に通ってて…ラノンも俺と同じに塾に通ってたから俺…アノンと出会う前から実はラノンと知り合いだったんだよ。」

確かにラノンは小学校4年の時から親に塾に通わされていた。

私とは違い勉強でも期待されていたラノンだけが塾に通わせてもらい、私はそんなラノンが羨ましかったのを覚えている。

A「うそ…全然知らなかった…」

M「俺がアノンにはあえて言わなかったからね。それから中学入学する直前に突然、ラノンが家に来てラノンに告白されたんだよ…」

ミネトは過去のことだからと淡々と話しているが、そんな事があっただなんて全く知らなかった私は驚かなでしかなかった。

A「はぁ!?初耳なんだけど!?」

M「だって初めて言ったもん。でも中3の春にはラノンとキヒヤが付き合ってるって噂になってマジか!?って思ったら隣で誰かさんが今にも死にそうな顔してるからユサくんのお店に連れてきたってわけ。」

ミネトはそう言って自慢気に私に笑顔をみせるが、小学生の頃にミネトのことが好きだったラノンが今ではキヒヤと付き合ってるはずなのに、わざわざ店に私とキヒヤの事をチクリに来る程ミネトに執着していて少し怖かった。

Y「ミネトのせいで俺は今までコイツの面倒を見させられてるんだな。」

ユサはラノンとミネト、そしてキヒヤの関係を考えている私の横でコーヒーを飲みながら私の頭を人差し指で小突いた。

M「またまたそんな言い方して~ユサくんも素直じゃないんだから~」

A「ラノン…もしかして…ミネトのことまだ好きなのかも…」

私がそう言うとミネトは目をまん丸にして驚いている。

M「はぁ!?それはないだろ!?キヒヤと付き合ってるのに?」

A「それはそうだけど…私が高校辞める直前…私とミネトのことが学校中で付き合ってるじゃないかって噂になったの覚えてる?」

M「あぁ~あったね?その噂聞いて2人でありえないわ~って爆笑したよな?」

ユサはそんな事あっただなんて俺は聞いてないと1人でブツブツと言って拗ねていたが、私はそんなユサを無視してミネトに話を続けた。

A「その日にラノンに聞かれたのよ。ミネトと付き合ってるのかって…私はずっと口を利かなかったラノンが珍しく話してきたと思ったらそんなことだったから、腹が立ってその質問に答えなかったんだけど…そしたら次の日…学校で誹謗中傷の張り紙や落書きをされて…」

Y「もしかしてラノンがやったって分かっててなんも言わなかったのか?」

ユサは私の話を聞いて怒ったような顔をして私にそう言った。

A「うん…言っても仕方ないし。だから…ラノンは私とミネトが仲良くしてるのが気に入らないんだよ…自分の初恋がミネトだから。もしかしたら本当に私とミネトが付き合ってるって思ってさっきも、ミネトにわざと私とキヒヤがキスした事を言いに来たのかも…」

ラノンならありえる。

小さい頃から私が欲しいといったモノを全て取り上げ、私が好きなモノや私が好きな事も全て自分が先に始めたかのような顔をして、私が真似をしたかのように装うそんな子供だったから。

きっと、ラノンは自分の初恋であるミネトと私が仲良くする事が気に入らなくて、おまけに昨日はキヒヤまで私の元に来てキスしてる所をラノンが知ってしまったから、我慢の限界で私の所に嫌がらせをしに来だんだ。私はそう不思議と納得出来た。

Y「まぁ、それが本当だったら…なかなかヤバイやつだな?」

ユサにはラノンの事を殆ど話した事がなかったのでラノンの事を知ったユサは少し引いていた。

M「…アノンには身内のことこんな風に言って申し訳ないけど俺ムリなんだ…塾の帰りも付き纏われてさ…目が怖いもん。アノンと双子なのに似てない。」

別々に暮らすようになった今では確かにもう、似ていないかもしれない。

しかし、子供の頃や少なくともミネトと出会った時は親戚でも間違うほどよく似ていたのに、ラノンに嫌な思いをさせられたにも関わらず私に優しくしてくれてミネトに私は感謝しかなかった。

A「ミネトはさ?なんでラノンに嫌な思いさせられたのに私に優しくしてくれたの?」

私がそうミネトに問いかけると何故かユサの方が落ち着きのない顔をしてミネトの顔を見ていた。

M「実はさ…アノンは俺の大切な人にそっくりだから…だから放っておけなかった。寂しそうなアノンを救ってあげたかったんだ。」

そう言ったミネトの目には涙が微かに浮かんでいて私はもうそれ以上、ミネトに詳しく聞く事ができなかった。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

処理中です...