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第七話
しおりを挟むベッドに倒れるようにして寝転ぶとまた、鮮明に蘇るキヒヤの唇の温もりと感触にドキッとまた胸を鳴らし、それと同時にラノンはキヒヤからあんなキスをされているのかと思うと胸がズキズキと痛かった。
なんで私にあんな事…するの…?
そう考えるとまた涙が溢れ出し、気づいた時には泣き疲れて眠っていた。
そして、心地よい温もりに包まれていることに気づいた私は目が覚めた。
ゆっくりと目を開けるとそこには眠っているユサが私に添い寝して胸の中にすっぽりと私を閉じ込めていた。
静かな部屋の中でユサの微かな寝息の音だけが聞こえる。
ユサは私を絶対に不安にさせたりしない。
いつも、辛い時にそばにいて欲しい言葉を冷静に言ってくれ私にも味方がいるんだと自覚させてくれる。
私は思わずゆっくりと手を伸ばしユサの真っ白なキメの細かい肌を撫でた。
Y「子供のくせに色気づくな。」
眠っていると思っていたユサはいつの間にか起きていて、目を閉じたまま私にそう言った。
A「別に色気づいてなんかないし。そっちが先に私のこと抱きしめてきたんじゃん。」
ユサに子供扱いされて拗ねた私はユサの胸をポンっと叩く。
Y「あんな男にキスされて発情してんのか?」
ユサはさらに私を煽るように顔を覗き込んでそう言った。
A「はぁ!?最低!!もう、あっち行ってよ!!」
私は起き上がりベッドで横になるユサをグイッグイッと押すがユサはビクとも動かない。
Y「まぁ、そう怒んなって。な?」
ユサは私を抱き直すように腕を動かし、私をギュッと胸の奥に閉じ込めると私の顔色を伺う。
A「・・・・・・・・。」
Y「ほぉ~俺を無視するのか?根性だけはあるよな?」
私はそんなユサの行動で鼓動が早くなるのが分かりまともにユサの顔が見られない。
A「・・・・・・・・。」
Y「ごめん…嘘だよ。あと少しだけ待て…成人したら…アノン…お前を抱いてやる。」
ユサのその言葉に私の顔が一瞬にして赤く染まり、身体が火照るのが自分でも分かった。
A「はぁ!?なに言ってんの!?」
Y「だからいい加減…キヒヤのこと…自分の中でケジメつけろ。分かったな?」
ユサはそう言って起き上がり私の頭をくしゃくしゃっと撫でると自分の部屋へ戻っていった。
私は戸惑いながら起き上がりふと、横のテーブルを見るとそこにはパンケーキとホットミルクが置いてあった。
A「ユサのばか…変なとこだけ真面目すぎなんだよ。」
大好きだったはずのキヒヤにキスされて沈んでいた複雑な気持ちが、不思議とユサの行動と言葉によって高揚していた。
ユサになら初めてを捧げてもいいのに…まだユサの事が好きだと自覚すらしていなかったはずなのに何故かこの時の私はそうユサに思っていた。
そして、私はその日初めてユサの作ったパンケーキを涙なしで食べた。
つづく
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