愛を知らないキミへ

樺純

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第五話

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そして、私は親の反対を押し切り高校3年生の6月に中退し、実家を飛び出しネットカフェで寝泊まりしながらユサの店でアルバイトとして働くようになった。

ユサとミネトには心配を掛けたくなくて実家を飛び出した事は伝えなかった。

しかしある日ネットカフェから出てくる私をミネトが偶然見かけてネットカフェで寝泊まりしている事がユサにバレた。

Y「お前なに考えてんだ!?今すぐ家に帰れ!」

ネットカフェで寝泊まりしている事を知ったユサはそう言って怒った。

A「やだよ!家には絶対に戻らない!私が今までお年玉を貯めた貯金で寝泊まりしてるんだよ!?なにがいけないの!!」

Y「ダメに決まってるだろ!?バカか!!」

そう言い合う私とユサの間にミネトが入り私たちを落ち着かせる。

M「ちょっとユサくんもアノンも落ち着いて!!」

A.Y「落ち着いてるよ!!」

私とユサが同時にそう言うとミネトは後退りした。

Y「家を飛び出さないといけないほど家の居心地悪いのかよ…」

A「家に私の居場所なんてない…現実、私が家を飛び出しても誰も探してなんかないじゃん。あの家にいたくないの…」

私がそう言うとユサは頭を抱えるようにカウンターに座りしばらくの間、黙り込んでいた。

私もどうすればいいのかわからずぼーっと立っているとユサがカウンターから立ち上がった。

Y「アノンの気持ちは分かった。でも、ネットカフェはダメだ。女の子が1人でいて目をつけられたら危ない目に遭うかもしれない。な?」

A「でも私には行く場所なんてないもん…」

私がそう言うとユサは私の腕を優しく掴み、私と視線を合わせるように屈み言った。

Y「ウチの部屋が空いてるからアパートを借りる金が貯まるまでここで寝泊まりしろ。分かったな。」

ユサはそう言うと初めて店の2階に連れて行ってくれ、空いていた部屋を私に貸してくれた。

その日から部屋は違えど同じ建物にユサと一緒に住み始めた私は、月日が経つうちに傷ついた心はいつの間にか完全に塞がる事はなくとも自然と穏やかになっていった。

夏になる頃にはユサの店はカフェからCaffe Barへと名前を変えてリニューアルオープンをした。

ユサはおじいちゃんから受け継いだ店を建物ごと建て替えてリニュアールした。

ユサの好きな黒を基調とした2階建1軒屋風のお店で、1階をCaffe Barとして2階をユサの住居として作られていた。

ユサは私にお金を貸してやるから改装リホームと同時にどっかでアパートを探せなんて言っていたけど、結局は改装リホーム中まで自分の泊まるホテルの隣の部屋を私のために用意してくれて、リホームを終えた建物にはちゃんと私の部屋までユサは用意してくれていた。

私は高校を辞めて生活が一変したが、高校を辞めてからもう1つ変わったことがあった。

それはあんなに私を避けていたキヒヤから毎日のように連絡が来るようになった事。

まぁ、普通に考えてみれば幼なじみだし連絡が来たとしても不思議ではない。

ただ、キヒヤは突然あんなにも私を嫌い避けていた。

なのに高校を辞めてから毎日連絡をしてくるなんて一体、どういう神経をしているんだろうと私は不思議で仕方なかった。

キヒヤからの連絡はいつもたわいもない話ばかりで、そんなこと私とではなく恋人のラノンとすればいいのに…と私は内心思いながらも惚れている弱みなのかどこかキヒヤからの連絡が嬉しくもあった。

M「なぁ、まだあいつから連絡くんの?」

ミネトはグラスを拭きながら私にそう問いかける。

A「あいつって?」

私はグラスをスポンジで洗いながらミネトの問いかけに問いかけで返した。

Y「アノンに構うもの好きはミネトかキヒヤとかいう奴だけだろ?」

ユサは私とミネトの働きぶりをカウンターに座って監視しながらコーヒーを飲んでいる。

M「ユサくんだって十分構ってると思いますけどー。」

Y「うるせぇ。俺はアノンの親代わりだからだ。」

A「なにそれ。まぁ…キヒヤからは連絡来てるよ…毎日。」

私がそう答えると隣にいるミネトはわざとらしくため息をついて信じられないと言った様子で首を横に振る。

Y「アノンの双子の姉と付き合ってんだろ?」

A「うん……」

Y「なのにアノンに毎日連絡してくるとかどういうつもりなんだ?アノンの気持ち弄んでるみたいで俺はそいつが気にくわない。」

ユサは私の話を聞いて苛立ったように珍しく早口でそう言ってバンッとテーブルを手のひらで叩いた。

M「ユサくん俺よりアノンに構ってるし。」

ミネトはそんなユサを見てケラケラと笑っている。

A「でも…幼なじみだし…」

私がそう口籠ると暫くの静けさのあと、ユサが一点を見つめて話しはじめた。

Y「も…もしかして…その…キヒヤとかいう男は…背が高くて黒髪に色白でクリっとした目をして顔に似合わず筋肉質な男か?」

何故かキヒヤのことを知らないはずのユサが的確すぎるキヒヤの特徴を言い始めて、私は驚きユサの顔を見つめる。

A「え…言われてみればそうだけど…なんでユサ知ってるの!?」

すると、ユサはため息をつきながら顎で店の入り口あたりを指し、私はユサの行動を見て慌てて振り返った。

すると、そこには大きな窓から店内を怪しげに覗くキヒヤがいた。

A「え…なにしてんの……」

キヒヤは私と目が合うと窓から姿を消して隠れてた。

M「俺が追い払ってくるー。」

ミネトはタオルとグラスを置いてそう言いながらカウンターの中から出て行く。

Y「おう。頼んだ。血だけは流させるなよ?」

ユサさそんなミネトを煽るかのようにそう言ってそっとコーヒーをカウンターに置いた。

M「はーい。」

なんてミネトは陽気な返事をして入り口に向かおうとするので、私は慌てカウンターから出るとその腕を掴み止めた。

A「ちょちょちょっと待った!私が追い払ってくるから。」

すると、ミネトは不満そうに口を尖がせてユサの顔色を伺っている。

すると、ユサはチラッと私の方を見て言った。

Y「休憩…30分で戻ってこい。」

A「…ごめん…ありがとう。」

気を利かせてくれたユサに頭を下げた私は小走りで店を出てキヒヤの元へと行った。

つづく
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