【BL】記憶のカケラ

樺純

文字の大きさ
上 下
33 / 45

33話

しおりを挟む
タカラside

イオリのことでぎこちなくなっていた俺たち幼なじみ7人グループは、いつの間にかあの頃のように戻り仲が良くなっていた。

キイチは変わらず幼なじみの中でも俺にべったりで、少年から青年へと成長していくキイチを間近で見ている俺は、自分の恋心に蓋をしなければと思いながらも密かに胸をドキドキと弾ませていた。

俺は高校卒業後、ミズキと一緒の不動産会社に就職し一人暮らしを始めた。

俺が順調に社会人生活を送っていると、俺が社会人2年目のとある日、キイチは突然、俺の家に転がり込んできて俺たちは5年もの間、一緒に暮らしていたのだ。

この5年間でさらにキイチへの想いは強くなり、ダメだダメだと思うほどキイチへの想いは強くなった。

そんな俺の気も知らずにキイチは酔っ払った勢いでイオリの面影を俺に重ねたのか、俺に濃厚なキスをし何度も襲われそうになった。

その度に俺の胸は痛かった。

まだ中学2年生と幼かったはずのキイチは同性であるイオリに恋をし、こんなキスを2人はしていたのか…?

俺の知らない所で2人はこんな事をしていたんだと知りたくもない現実を叩きつけられているような気持ちになったから。

そんな俺を見て幼馴染のみんなはキイチは俺に惚れていると言って俺を揶揄っていたが、キイチが惚れているのは俺でなくイオリ。

なくしたはずの記憶のカケラが酒に酔うと彷徨うのか、泥酔したキイチにキスされるたび、俺は二卵性の双子だというのに自分と同じ顔で先に生まれなんでも俺よりする事の早いイオリが羨ましかった。

俺がもし、イオリよりも先に生まれて何をするにもイオリよりも早くて…

俺が先にキイチに告白していたら何か変わっていたかなって未だに考える。

酒に酔って間違えるくらいならイオリの代わりに俺と付き合えばいいのに…

なんて俺はいつも喉の奥まで出かかった言葉をグッと飲み込みながらも、あんな奴の代わりなんてゴメンだと矛盾する自分の気持ちを行ったり来たりしながら生きてきて、自分自身の心のバランスをなんとか保っていた。

なのに…今になってキイチに1番会わせたくないイオリがキイチの前に現れるなんて俺は信じられなかった。

あの頃の俺と同じようなアッシュの髪色で同じような髪型をしたイオリ。

まるで1番苦しかったあの頃の自分を見ているようで俺は吐き気がした。

俺の心の中にあるキイチへの密かな恋はもう終わらせないといけないってこと?

俺は何も望んでなんていないのに…

イオリはまた、俺からキイチを奪うのか?

あの頃の苦い思い出が頭の中をよぎり胸が苦しくなる。

しかし、キイチは再会してしまったイオリに惹かれるように…

まだイオリの事が忘れられず愛してるかのように…

必死でイオリを求め探す。

俺はそんなキイチの姿…見たくなかった。

ずっとそばにいたのは…今も昔も俺なのに…

なんでキイチはいつも俺じゃなくイオリを求めるんだよ。

俺はそんな想いがついに我慢出来ず爆発してしまった結果……

自らキイチをこの家から追い出してしまった。

もう、キイチのそばでまたイオリとキイチが親しくする所を指を咥えて見る自信がなかったから。

キイチとの思い出が多くなり過ぎたこの部屋で独りぼっちになると、寒くもないのに身体が震え出し、俺はまた1人涙を流した。

苦しい辛い…こんなにキイチのことが好きなのに…

俺へ向けられているキイチの愛はイオリのモノ。

そんなこと昔から分かっていたはずなのに、キイチが自分の元から離れてしまう事の方が恐怖で震えはじめる俺はとてつもない後悔に襲われ、キイチが部屋を出て行った後すぐ俺はキイチの後を追いかけて探した。

しかし、その時にはもう既にキイチはどこかに消えていて…

道路に立ち尽くす。

T「…だ…大丈夫…キイチの事だもん…すぐ帰ってくる。」

俺は自分を落ち着かせるようにそう言い聞かせると家に戻った。

しかし、キイチは数日経っても家に戻ることはなかった。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

【本編完結】明日はあなたに訪れる

松浦そのぎ
BL
死してなお隣にいたい。ワンコ系×マイペース ※一応死ネタですが、最後まで二転三転するのでぜひ最後まで。 死を望む人達と生を望む人達、その両方のために 心臓さえも生きている人からの移植が認められた世界。 『俺』の提供者になってくれるというおにいさんは提供を決意したきっかけのお話をしてくれました。 それは、甘酸っぱくて幸せで、儚い、お話。 -------------------- 別サイトで完結済みのものを移動。 モデル×(別のモデルの)マネージャー 執着強めイケメン×担当モデルにぞっこん美人

【悲恋BL】家柄で評価されたくない若き将校×仲間を失ったひとりぼっちの亜人【完結済み】

DD
BL
異世界戦争モノです。 ※センシティブな表現があります。 【戦場の猫】 "ヤモク"と呼び蔑まれてきた猫のような特徴を持つ亜人、いち。 家柄を理由に出世する事を拒んでいる若き少尉、北葉月 アラタ。 二人は戦場で出会い、お互いの価値観の違いに苦しみながら少しずつ寄り添っていく。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

処理中です...