【BL】記憶のカケラ

樺純

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10話

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キイチside

俺はあの後ろ姿を間違いなく知っていて、あの人と俺の夢にはなにか関係があると俺は何故か確信していた。

あの人は一体、誰なのか…

あの人に似た後ろ姿がなぜ毎日のように俺の夢に出てくるのか…

あの夢の中で感じるもどかしくて切ない気持ちはなんなのか…

俺はそれを知りたくてたまらなかった。

そんな思いからか俺は夢中であの人の後ろ姿を探し、必死になる俺はふと思った。

もしかして…俺はあの人のことが…

K「好きだったのか…?」

なのに何故、俺はあの人を覚えていない?

あの人の後ろ姿を見たときはドキッとしたのに、あの人の顔を見ても俺は何も感じずむしろ、恐怖心のような気持ちが込み上げてきた。

このとてつもない湧き上がってくるような違和感はなんなんだろう…

幼なじみであるみんなはあの人と知り合いで、あの人が来ると気まずそうに目を背け、俺から視線を逸らしタカラくんの様子を伺っていた。

あの人を知らないのは俺だけ…?

もしかしてこれはあの時の事故の影響なのだろうか?

そんなことを考えながらあの人を必死で探していると、突然手首を掴まれ振り返るとそこには息を切らしたタカラくんがいた。

T「ちょっと…キイチ…誰のこと探してんの…」

タカラくんのその顔はどこか悲しそうにも不安そうにも見えて俺の胸を揺さぶる。

K「さっきのあの人探してる…イオリさんって人……」

俺がそう言うとタカラくんは引き攣った顔で掴んだ俺の手首を強く引っ張り、強引にタクシーへ乗り込んだ。

K「ちょ…タカラくん!!離せって!」

そうもがいてもタカラくんは俺のことを無視したまま運転手に家の住所を伝えている。

K「運転手さん!止めてください!」

T「止めずにそのまま行ってください!」

俺たちの攻防に運転手さんは困り果て、これ以上迷惑をかける訳にもいかないと思った俺が口を閉ざすと運転手さんはタカラくんの言う通り、タカラくんのマンションにタクシーを走らせた。

互いに無言のままタクシーをおりるも、タカラくんは相変わらず不安気な目をして俺の手首を掴んだままオートロックを開け、マンションの中へと入っていく。

そして、部屋の中へと入った俺の苛立ちともどかしさは頂点へと達した。

K「もういい加減にしろって!何とか言えよ!」

俺がそう叫び、タカラくんの手を振り払うとタカラくんの顔はじわじわと歪み、目にはゆらゆらと涙が揺れていて俺はその涙に驚き動揺した。

俺はタカラくんが泣くほどの何かをしてしまったのかと不安に陥り、思わずタカラくんの頬を両手で包み込む。

K「…タカラくん…な…なんで泣いてんの…」

T「なんで…なんでアイツのこと探すの…」 

K「え…?」

T「イオリの事!!」

T「…そんなことで泣いてんの……?」

タカラくんはそんな事で今、泣いてるの?

俺があの人を探してるからってだけで、こんなにも不安そうな目をして泣いてる?

混乱する俺はただ、タカラくんの顔をじっと見つめる。

T「なんでアイツなんだよ!頼むから…アイツには関わらないでくれよ…」

俺はタカラくんの言っている意味が分からず、そう言って暴れるタカラくんを落ち着かせようと抱きめるが、タカラくんは抵抗し涙をポロポロと流している。

俺はただ夢の中に出てくるあの人が誰なのか知りたかっただけで…

その後ろ姿にそっくりだったあの人がその夢の中のあの人なのか確かめたかっただけだ。

なのに俺の腕の中にいるタカラくんはあの人に心を乱され、涙を流し悲しそうな顔をしている。

そんなタカラくんを見て俺は思った。

まさか… タカラくんはあの人のことが好きだった?

と…

それとももしかして…その涙は俺のことを想って泣いてくれてる?

そんな自惚れを起こすほど今、目の前で泣いているタカラくんは俺の胸を鷲掴みにする。

俺はもう…そう考えるとタカラくんを目の前にして我慢することが出来ず、タカラくんの頬をぎゅっと両手で固定するとタカラくんの唇を塞いだ。

つづく
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