【BL】記憶のカケラ

樺純

文字の大きさ
上 下
5 / 45

5話

しおりを挟む
キイチside

タカラくんが来るのが遅くて、心配になった俺はパーティーの準備を終えると、ノイルくんにタカラくんを迎えに行くと言って店を飛び出した。

もうとっくの昔にミズキくんはヒノハちゃんを連れて店に来てるのに…

あの人は一体どこで何やってんのホント…

まさかナンパとかされてれないだろうな!?

そう思いながら歩いていると、俺の目の前に突然どこからともなく現れたのか、明るいアッシュ色の長い髪をした白シャツを着た見覚えのある後ろ姿の男性が歩いていた。

その姿は俺の夢の中にいつも現れるあの人物がそのまま大人になったかのような姿で思わず俺の視線が釘付けになる。

K「え…あの人…」

咄嗟に追いかけようと足を早めたものの横断歩道の信号が赤に変わり、俺は足止めをくらい目の前を車が通り過ぎていく。

俺は身体を左右に動かし背伸びをして向こう岸をのぞくものの…

車が過ぎ去ったそこにはもう、その人の姿はなかった。

俺は青信号に変わると思わず駆け出し周りを見渡しながらその人の後ろ姿を探した。

なぜだろ…

なぜ俺はあの後ろ姿がそんなに気になるんだろう…

あの事故のあとから毎晩みるようになったあの夢。

苦しくて…辛くて…切ない…

あの人の顔を見ればその夢の時に抱いてる感情の謎が分かるかもしれない。

そう思ったら俺は自分でも驚くほどに必死でその人の姿を探した。

すると…

ブッブーッ!!

大きなクラクションの音が背後から聞こえ、俺が振り返ると、そこにはタカラくんが立ち尽くしていてトラックがタカラくんの目の前まで迫っている。

やばい…なにやってんだよ!!

そう思った俺はタカラくんの方へと走り出し飛びつくようにギュッと抱きしめると、地面を転がるようにしてトラックの前から逃れた。

タカラくんはしばらくの間、呆然としていたが俺の手の怪我を見て我に返ったのか、自分のスーツからハンカチを取り出す。

T「ご…ごめん…俺……え…キイチ、怪我してるじゃん!!」

K「あぁ…大したことないから。ワイン割れなくて良かったね。」

そう言うとタカラくんは小さく頷き泣きそうな顔で俺の手にハンカチを巻いてくれた。

俺はそんなタカラくんの顔を見て思うんだ。

あぁ…やっぱ俺はこの人が大好きだな…って。

その複雑な感情を口にしてしまえば「幼馴染」というこの親しい関係が終わりを迎えてしまいそうで、臆病な俺は自分の気持ちを口にする事なくタカラくんに微笑む。

そして、俺たちは寄り添うように歩きRossoまで向かった。


つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

【本編完結】明日はあなたに訪れる

松浦そのぎ
BL
死してなお隣にいたい。ワンコ系×マイペース ※一応死ネタですが、最後まで二転三転するのでぜひ最後まで。 死を望む人達と生を望む人達、その両方のために 心臓さえも生きている人からの移植が認められた世界。 『俺』の提供者になってくれるというおにいさんは提供を決意したきっかけのお話をしてくれました。 それは、甘酸っぱくて幸せで、儚い、お話。 -------------------- 別サイトで完結済みのものを移動。 モデル×(別のモデルの)マネージャー 執着強めイケメン×担当モデルにぞっこん美人

【悲恋BL】家柄で評価されたくない若き将校×仲間を失ったひとりぼっちの亜人【完結済み】

DD
BL
異世界戦争モノです。 ※センシティブな表現があります。 【戦場の猫】 "ヤモク"と呼び蔑まれてきた猫のような特徴を持つ亜人、いち。 家柄を理由に出世する事を拒んでいる若き少尉、北葉月 アラタ。 二人は戦場で出会い、お互いの価値観の違いに苦しみながら少しずつ寄り添っていく。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...