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俺は毎晩同じ夢をみる。
それは子供の頃の記憶なのか…
それとも俺の夢の中での妄想なのか…
それすらも分からない。
その夢の中の俺はいつも
キラキラと光る海辺にいて
目の前には誰かの後ろ姿がぼんやりと浮かび上がる。
その男の子は白のシャツを着ていて、明るいアッシュ色のボブのような長い髪を風になびかせ、まるで俺から逃げるように走って行ってしまう。
行かないで…
俺から逃げないで…
置いてかないでよ…
お願い…お願い…
夢の中の俺はいつも胸の痛みを抱えながら、その男の子の後ろ姿を追いかけ手を伸ばし捕まえようする。
苦しくて…切なくて…もどかしくて。
俺が必死で伸ばした手がようやく、その男の子の細くて赤いブレスレットを付けた手首を捕らえ、その男の子を引き寄せるように振り返らせると…
眩しい太陽の日差しによってその男の子の顔は遮られいつもそこで俺は目覚める。
K「またあの夢か…」
俺は重い身体を起こし首をボキボキと鳴らして立ち上がり洗面所に向かうと、そこには短く整えられた艶のある黒髪を濡らしている先客がいた。
この家に転がり込んだのは5年前のお話。
住んでいたアパートの家主が変わり、大幅な家賃の値上げにより、家賃が払えないからという自己中な理由を誰かさんに無理矢理押し付け、半ば強引に幼馴染みであり俺の長年の片想いの相手でもあるタカラくんの家に俺は住みついた。
タカラくんへの恋心に気づいたのはいつだろう?
この部屋に住み付くようになってからだろうか?
なぜか俺はタカラくんにいつ恋に落ちたかもあやふやだというのにその恋を諦める事も、前に進む事も出来ず、ただタカラくんのそばに居続けた。
眠い目を擦り上半身裸のままタカラくんをじーっと見つめ、この眼差しから俺の想いが少しでもタカラくんに伝わればいいのに…
なんてよくある歌詞のような事を寝起きの頭で考えながら熱い視線を送ると、そんな俺を横目にタカラくんは歯磨きをしていた口をすすぎクールに言った。
T「キイチさ…いつになったら家さがすの?もう貯金貯まったろ?」
まるで早くこの家から出て行って欲しいみたいな言われ方をしチクッと俺の胸が痛む。
どんなに熱い視線でこの人に訴えかけていてもきっと、タカラくんは俺の思いになんて一生気づく事はないだろう。
タカラくんの言葉で傷ついたくせになんともないような顔をして俺は言った。
K「え?なんで?もうしばらくはここにいるつもりだけど…邪魔…?」
T「邪魔とかじゃなくて男同士がいつまでも一緒に暮してたら変んな目で見られるじゃん。」
男同士…
今の時代、男同士が愛し合ってもおかしくないなんて世の中は簡単に言うけれど、実際問題まだこの世の中には同性愛に対する差別はあるわけで、タカラくんがそんな風に思うのは当たり前で何も不思議な事ではない。
しかし、俺はそんなタカラくんの言葉にまた傷つき、何も聞こえないフリをして歯磨きをし、顔を洗うと俺の横で顔を拭いていたタカラくんのタオルを横取りして自分の顔を拭く。
T「タオルくらい自分の使えよ。」
K「いいじゃん別に。同じの使った方が洗濯少なくて済むじゃん。」
T「はぁもう…そんな生意気なことばっか言って…仕事遅刻すんじゃねぇの。」
タカラくんの言葉でハッとした俺は、慌てて服を着ると大きなリュックを背負い飛び出していく。
T「走って行って転ぶなよ~」
K「行ってきます!!」
そう言って玄関を出た俺はアッと思い出し、また玄関の扉を開け顔を覗かせる。
K「タカラくん!!仕事終わったら忘れずにウチの店に来てよ!今日、Rossoの8周年パーティーなんだから!」
俺がそう部屋の中にいるタカラくんに叫べば、タカラくんはネクタイを締めながら返事をした。
T「はいは~い!!ノイルくん達によろしく言っといて~!」
K「いってきます!!」
T「気をつけて!」
そうして俺は猛ダッシュで店へと向かった。
つづく
それは子供の頃の記憶なのか…
それとも俺の夢の中での妄想なのか…
それすらも分からない。
その夢の中の俺はいつも
キラキラと光る海辺にいて
目の前には誰かの後ろ姿がぼんやりと浮かび上がる。
その男の子は白のシャツを着ていて、明るいアッシュ色のボブのような長い髪を風になびかせ、まるで俺から逃げるように走って行ってしまう。
行かないで…
俺から逃げないで…
置いてかないでよ…
お願い…お願い…
夢の中の俺はいつも胸の痛みを抱えながら、その男の子の後ろ姿を追いかけ手を伸ばし捕まえようする。
苦しくて…切なくて…もどかしくて。
俺が必死で伸ばした手がようやく、その男の子の細くて赤いブレスレットを付けた手首を捕らえ、その男の子を引き寄せるように振り返らせると…
眩しい太陽の日差しによってその男の子の顔は遮られいつもそこで俺は目覚める。
K「またあの夢か…」
俺は重い身体を起こし首をボキボキと鳴らして立ち上がり洗面所に向かうと、そこには短く整えられた艶のある黒髪を濡らしている先客がいた。
この家に転がり込んだのは5年前のお話。
住んでいたアパートの家主が変わり、大幅な家賃の値上げにより、家賃が払えないからという自己中な理由を誰かさんに無理矢理押し付け、半ば強引に幼馴染みであり俺の長年の片想いの相手でもあるタカラくんの家に俺は住みついた。
タカラくんへの恋心に気づいたのはいつだろう?
この部屋に住み付くようになってからだろうか?
なぜか俺はタカラくんにいつ恋に落ちたかもあやふやだというのにその恋を諦める事も、前に進む事も出来ず、ただタカラくんのそばに居続けた。
眠い目を擦り上半身裸のままタカラくんをじーっと見つめ、この眼差しから俺の想いが少しでもタカラくんに伝わればいいのに…
なんてよくある歌詞のような事を寝起きの頭で考えながら熱い視線を送ると、そんな俺を横目にタカラくんは歯磨きをしていた口をすすぎクールに言った。
T「キイチさ…いつになったら家さがすの?もう貯金貯まったろ?」
まるで早くこの家から出て行って欲しいみたいな言われ方をしチクッと俺の胸が痛む。
どんなに熱い視線でこの人に訴えかけていてもきっと、タカラくんは俺の思いになんて一生気づく事はないだろう。
タカラくんの言葉で傷ついたくせになんともないような顔をして俺は言った。
K「え?なんで?もうしばらくはここにいるつもりだけど…邪魔…?」
T「邪魔とかじゃなくて男同士がいつまでも一緒に暮してたら変んな目で見られるじゃん。」
男同士…
今の時代、男同士が愛し合ってもおかしくないなんて世の中は簡単に言うけれど、実際問題まだこの世の中には同性愛に対する差別はあるわけで、タカラくんがそんな風に思うのは当たり前で何も不思議な事ではない。
しかし、俺はそんなタカラくんの言葉にまた傷つき、何も聞こえないフリをして歯磨きをし、顔を洗うと俺の横で顔を拭いていたタカラくんのタオルを横取りして自分の顔を拭く。
T「タオルくらい自分の使えよ。」
K「いいじゃん別に。同じの使った方が洗濯少なくて済むじゃん。」
T「はぁもう…そんな生意気なことばっか言って…仕事遅刻すんじゃねぇの。」
タカラくんの言葉でハッとした俺は、慌てて服を着ると大きなリュックを背負い飛び出していく。
T「走って行って転ぶなよ~」
K「行ってきます!!」
そう言って玄関を出た俺はアッと思い出し、また玄関の扉を開け顔を覗かせる。
K「タカラくん!!仕事終わったら忘れずにウチの店に来てよ!今日、Rossoの8周年パーティーなんだから!」
俺がそう部屋の中にいるタカラくんに叫べば、タカラくんはネクタイを締めながら返事をした。
T「はいは~い!!ノイルくん達によろしく言っといて~!」
K「いってきます!!」
T「気をつけて!」
そうして俺は猛ダッシュで店へと向かった。
つづく
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