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第一章

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お店に着き、店中へ入るとジラさんとヨイさんはなんだかんだ言いながらも仲良く並んでメニューを一緒に眺めて注文していく。


そんな様子を俺とテヤサさんは並んで見つめると、テーブルの下でテヤサさんの手と俺の手がぶつかった。


ビクッと反応した俺が咄嗟に手を引こうとするとガシッと掴まれそのまま指を絡めるテヤサさん。


ドキッとした俺が思わずチラッとテヤサさんの顔を見ると、テヤサさんはイタズラに笑っていた。


T「ねぇ、キオ。キオはなに食べたい?」


俺の目をじーっと見つめてそういうテヤサさん。


その目は俺の勘違いじゃない…俺を誘っている…


テヤサさん…なに食べたいって…


俺は…


テヤサさんを食べたい…


そう馬鹿なことを思っていると目の前に生ビールが到着した。


J「なに2人で見つめ合ってんの。ビールきたけど。」


ジラさんの言葉なんか耳に届かない俺はただただ、テヤサさんに見惚れる。


Y「ほんと鈍感ですよね…ジラさんって。」

J「なにが鈍感なんだよ!見つめ合ってるからなんで見つめ合ってんのって聞いてなにが悪いのさ!!」

Y「聞かなくても見たら普通わかるじゃん。あれは求愛行動だよ。ほんと…そんなんだから…」

J「きゅ…求愛!?ってか!!そんなんだからってなんなのさぁ~!!」

Y「もういいからとりあえず乾杯するぞ。見つめ合うのは後にしろ。ビールがぬるくなる。」


ヨイさんの言葉に俺たちは渋々視線をビールに向け、冷えたジョッキを手に持つ。


「かんぱーい」


渇いた喉を潤すようにビールをゴクゴクと流し込むと、横にいるテヤサさんは両手でジョッキを持って少しだけ飲むと唇の上に泡でお髭を付けていた。


K「んふふふwテヤサさん泡でお髭できるw」


あまりの可愛さから笑いがこみあげる俺がそういうと、テヤサさんはえ?とトボけた顔をするもんだから俺が手を伸ばしてその泡を取ろうとすると俺の手を邪魔する何者かが現れた。


「テヤサ?こんなとこに泡つけて。はい、テヤサの好きな焼き鳥だよ。」


そう言ってテヤサさんの肩を抱きながら親指でテヤサさんの唇についた泡を拭った女。


T「ミニどこ行ってたの?さっき来た時いなかったじゃん。」

M「ん?あぁ~ヒナタから電話来てたから折り返してたの。じゃ、ゆっくりしていってね?」


そう言ってミニさんという女は店のキッチンの方へと消えていった。


K「仲良し…なんですね?あの女の人と…」

T「あぁミニ?うん…高校の同級生でねここの店のオーナーだよ?なんで?」

K「いやその…」


俺が口籠っていると焼き鳥をもぐもぐと食べながらじーっと見てくるヨイさんとジラさん。


全く正反対の表情をしておきながら何か言いたげな瞳は全く同じ。


K「なんでもないです。」


俺がそう言うとヨイさんとジラさんがズッコケる。


Y「こりゃ先が思いやられるわ。」

J「キオ…少しは俺を見習ってアピールすることも大切なことなんだよ?」


ジラさんはそう言ってビールを勢いよく飲むと


Y「ジラさんはアピールしすぎなんだよ…マジでストーカーだし。」


ヨイさんの言葉によってジラさんは俺の顔面にビールを吹き出した。


J「ブッーーゴホゴホッ!!」

Y「なにやってんだよほんと手のかかる人だな。」


そう言いながらもヨイさんは咳き込むジラさんの背中をさすり、おしぼりで口元を拭いてあげてる。


一方の俺は…


T「キオ大丈夫!?ビショビショじゃん!!」


俺の顔面とTシャツはジラさんが吹き出したビールによってビショビショにされた。


そんな俺を一生懸命にテヤサさんはおしぼりで拭いてくれるが…なにせアルコール。


ビールで濡れた所がベタベタして気持ち悪い。


K「ベタベタするんでトイレで洗ってきます。」

T「待って…」


トイレに立ち上がろうとする俺をテヤサさんが止めた。


T「俺の家すぐ近くだから着替えかしてあげるよ。行こう。ヨイさん、俺たちすぐ戻ってくるから。」

Y「別にすぐ戻ってこなくていいよ。」


ヨイさんはビールを飲みながらテヤサさんにそう言った。


T「じゃキオ、行こう。」

K「いいんですか?」

T「うん。」


テヤサさんは俺の腕を引き店を出て歩き出した。


外に出ると湿った匂いがして空を見上げるとポツ…ポツ…と雨が降り出した。


T「あ…雨だ…走ろう…」

K「はい…」


いつのまにか繋ぎ合わせられていた俺たちの手のひらは、湿った温もりを纏わせながらも離れないように絡み合う。


ポツ…ポツと降り出した雨は突然、雨足が早くなりコンクリートを打ちつける音も大きくなった。


一瞬にしてビショ濡れになってしまった俺たちは仕方なく近くの木の下に駆け込んだ。


T「通り雨だといいけど…」

K「雨…やみそうにないですね…」


すると、目に刺さるような光がさしピカッと光った。


そして、俺は無意識に横にいたテヤサさんをギュッと抱きしめる。


それは雷が怖いと言っていたテヤサさんの言葉が頭に焼き付いているから。


テヤサさんは俺の胸に顔を埋めてギュッとシャツを握る。


T「雷…怖い…」

K「うん…俺がいるから大丈夫…でもここにいたら危ないから移動しましょ。」


雷は木に落ちるから雷が鳴ったら木から離れろとばあちゃんが言っていた。


俺はテヤサさんを抱き寄せたまま走り出すとテヤサさんが指をさした。


T「俺のマンション…あれ…」

K「分かった。」


そして、俺たちはずぶ濡れのままテヤサさんのマンションに入る。


エントランスに着くとほっとした俺はそっとテヤサさんから離れた。


そして、テヤサさんは身を縮こめたままエレベーターのボタンを押す。


エレベーターに乗り込みテヤサさんの背中を見つめると、その背中が照明に照らされて気づく…


テヤサさんの服が微かに透けていることに…


咄嗟に俺は目を逸らした。


部屋の階に着き、テヤサさんが鍵を開けて玄関の扉を開けた。


T「どうぞ…」


そう言われて俺は一歩中へ入る。


すると、テヤサさんは俺を通り越して先に部屋へ上がろうとするので、俺はテヤサさんの手首をガシッと掴んだ。


締め切った室内…


蒸し暑い空間で部屋の中はムッとした空気が漂っている。


そんな中、俺たちはただ視線だけを通わせお互いの心を探り合う。


雨音はさっきよりもさらに酷くなり窓に雨が打ちつけていた。


部屋の中に響くのは俺たちの呼吸音と雨音だけ…


テヤサさんの手首からスルスルと手を這わせあの綺麗な指に自分の絡めようとした瞬間…


ピカッ…!!


思わずまぶたを閉じるような光が差し込み、テヤサさんは俺の胸の中に飛び込んできた。


ドキ…

ドキ…

ドキ…


全身が容赦なく脈を打ち、テヤサさんの温もりがさらに俺の頭をおかしくする。


ゆっくりとテヤサさんは俺を見上げると俺の胸から離れることなくじーっと俺を見つめた。


K「離れないと…あとで後悔しますよ。」


俺がそう呟いてもテヤサさんは俺から離れようとしない。


K「早く離れないと俺…!!」


そこまで言いかけた時…


テヤサさんは俺の言葉を遮るように俺の唇を塞いだ。


つづく
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