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1話
しおりを挟む「トモヤ…頼みがあんだけど?」
俺が高校の時からバイトとして働いていたカフェバー。
今では社員として新人教育までするようになった俺がグラスを拭いていると、同僚のユキトくんが今日はオフだというのにわざわざ店にきて、俺の前のカウンターでウイスキーを飲みながらそう呟いた。
T「ユキトくんが頼み事なんて珍しいね?なに?」
俺がそう問いかけるとユキトくんはまだ内心は俺に頼もうか悩んでいるのか、口籠もりながらウイスキーのグラスを回し氷をカランカランと鳴らす。
俺はそんなユキトくんを眺めながらグラスを拭き続け、ユキトくんが口を開くまで無言で待っていると、ようやくユキトくんが言った。
Y「俺の女になってくれねぇか?」
そう言われた瞬間、俺はまさかの言葉に硬直し手に持っていたグラスを落とすとグラスはガチャンッ!!と大きな音を立てて割れた。
確かに子供の頃はよく女の子に間違われていたし、いまだに俺はよく中性的な雰囲気だとは言われている。
がしかし、俺の性別は正真正銘の男だし恋愛対象は女。
ユキトくんこ言葉に俺は焦り、笑って誤魔化しながら言葉を返す。
T「な…何言ってんのw俺…女じゃなくて男だしw」
Y「んな事知ってる。だから頼んでるんだ。頼む…一回だけでいい…女装して俺の女になってくれ。」
T「はぁぁぁぁあぁぁあん(;꒪ö꒪)!!!?」
俺の叫び声が店内に響き渡り、俺はハッとしてお客様に頭を下げるとユキトくんは俺に事の経緯を詳しく話し出した。
ユキトくんの話によれば数ヶ月前からずっとしつこく言い寄ってくる女がいて、断っても断ってもずっと付き纏ってくると。
最近は家の前でぼーっとユキトくんの事をみて立っている事も多く、昼間は音楽プロデューサーとして活動しているユキトくんのスタジオまで付いてくる事もあり、ユキトくんはそんな日々に頭がおかしくなりそうだと嘆いていた。
それは完全にストーカー行為だから警察に相談した方がいいと俺が言うと、どうやらそのユキトくんに付き纏っている女がユキトくんが所属する事務所幹部関係者の娘らしい。
それもあり被害届を出す事もできず悩んでいた所、その女に腕を掴まれ無理矢理抱きつかれそうになった勢いで、モデルの彼女がいるからと言ってしまったらしい。
それによりその女はその彼女と会わせてくれたらもう諦めると言い……その結果…
T「何で俺が女の子フリしなきゃなの!?ユキトくん!モデルの知り合い多いじゃん!!その人たちに頼めばいいじゃん!!」
Y「実在するモデルにそんな事頼んで噂にでもなったら大変だからな。お前が女と偽って実在しないモデルを演じてくれればなんの問題もないんだよ。」
「うわぁぁあぁぁあぁぁ!!なになにぃ~そのめためた楽しそうなお話ぃ~」
そう俺たちの元にうるさい声と共にやって来たのはこの店の経営者であるオカマ店長のカヲルちゃん。
T「ちょっとカヲルちゃんは黙ってて!!話がややこしくなる!!」
付けまつ毛をパタパタとさせながら目を輝かせているカヲルちゃんを黙らせると、俺はユキトくんとの話に戻った。
T「言っとくけど!!俺!絶対絶対!女装とか嫌だから!そもそも俺、身長何センチあるか知ってる!?175センチ!いくら俺の顔が超絶可愛いからって女の子と偽ってもバレるに決まってるじゃん!?ユキトくんよりも6センチも高いんだよ!6センチも!」
俺が必死になってそう熱弁しているのに目の前にいるユキトくんは何一つ顔色を変える事なくウィスキーをのみ、店内にお客様がいなくなったのをいい事にカヲルちゃんはゴソゴソと何やらデッカい箱のような黒いボックスを持ってきた。
T「な…なにするつもり…カヲルちゃん…」
ニコニコなご機嫌顔のカヲルちゃんは俺の腕を掴みカウンターに座らせ、パカっとそのボックスを開けるとキラキラと光るメイク道具がこれでもか~と入っていて逃げ出そうとする俺にカヲルちゃんは満足気に微笑む。
「イッツアショ~タ~ム♪」
カヲルちゃんのその楽しそうな声を聞いた俺は大きなため息と共に全てを放棄し…ゆっくりと瞳を閉じると、クリスマスツリーのネオンがキラキラと暗闇の瞼の中を照らした。
つづく
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