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108話

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ジョウキside

そろそろお開きの時間になり、それぞれ帰る準備をしているとアナが珍しく自ら俺の元へとやって来た。

J「ん?どうした?」

俺がアナの顔を覗き込むとアナは目線をすぐにそらし言った。

A「うん…今日は思ったより遅くなっちゃったし。実家より 私の家の方がここから近いから久しぶりにマンションに戻ろうかと思って…?」

ふ~ん…え?

俺は一瞬、聞き流しそうになったがまさかそれって…同じ方向だから一緒に帰ろうよ…って誘ってくれてる!?舞い上がる俺は冷静に言った。

J「あっ、そうなんだ!じゃ、気をつけて帰れよ?」

少しアナに意地悪したくて、俺がわざと素っ気ない顔でそう言うとアナの顔はあからさまに落胆して俺はドキッと胸を鳴らす。

なんだよ…そんな顔されたら俺期待しちゃうよ?そう思っているとアナが俺の目を見て言った。

A「一緒に帰ろう?ジョウキの部屋に置いて来ちゃったあのウサギのキーホルダー返してほしいし…あれ私のお守りだから…」

J「うん。分かった…」

そして俺たちは同じタクシーに乗り俺のマンションへと向かった。

タクシーの中でなぜかアナはずっと悲し気な目をしたまま流れていく景色を眺めていた。

J「アナがさ入院中にアナのお母様と話したんだ…」

A「うん…」

アナは外に視線をやったまま俺の話に相づちを打つ。

J「俺たちさやっぱり子供の頃から知り合いだったよ。アナがジョジョって呼んでた子は俺で、俺が知ってるチエリはアナの以前の名前なんだって。だからあのキーホルダーも俺がプレゼントしたキーホルダーなんだよ?」

俺は早くこの事実を何も知らないであろうアナに伝えたくて少し興奮気味だったかもしれない。

しかし、アナはあの取り乱したのが嘘みたいにとても冷静だった。

A「ごめんね…何も覚えてなくて…ねぇ…MVってあれからどうなったの?」

やっぱり本当に何も覚えてないのか… 話はあっけなくアナの言葉によってすり替えられた。 

J「ライブ映像をはめ込んで仕上げた…」

A「そっか…ごめんね私のせいで…」

アナは流れる景色を見ながらそう言った。

そして結局、そのあとは無言のまま俺のマンションへと着いた。

J「上がってくだろ?」

A「うん…」

アナは初めて俺の部屋に来た時の様子が嘘のように落ち着いた顔で俺の後ろを着いてくる。

部屋の扉を開けリビングへ向かうとアナが軽い深呼吸をした。

A「やっぱりこの匂い…本当…大好き…」

その言葉がまるで自分に向けられているみたいで俺の心臓は高鳴り、思わず後ろからアナを抱きしめた。

アナは俺の腕を払う事をせず俺の手首をキュッと小さな手で握った。

なんだよ…そんなことされたら…我慢出来なくなっちゃうよ…俺…


つづく
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