嘘からはじまった恋

樺純

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3話

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サツキサイド

今まで可愛い笑顔を見せてくれていたメイタくんは急に真顔になって怖い顔をしていた。

そして、さっきまでのフレンドリーな距離とは真逆に店に向かうまで驚くほどにぎこちなくなった。

どうしたんだろ…少し不安に思いながら私はその大きな背中について行く。

M「あぁ…ここです。」

そう言われて案内されたのは小さな居酒屋。

メイタくんが暖簾を潜るとメイタくんを迎える親しげな声がして私も一緒に暖簾をくぐった。

J「いらっしゃい。メイタの友達か?」

M「ジンさん違うよ。ウチの民泊のお客様…サツキさんだよ。サツキさんこっちがジンさんでこっちがジンさんの彼女のユウキさん。」

M「よろしくお願いします。」

J「よろしね?」

Y「あれ……もしかして…?」

ユウキさんは私の顔をみて何か言いたげな顔をしている

M「?」

J「ユウキ…知り合い?」

Y「知り合いっていうか……もしかしてタイチさんの…奥さんじゃない?」

思いも寄らない所でタイチさんの名前が出て私は思わずドキッと心臓が止まりそうになる。

顔色が変わらないように…平常心を保てるように…

必死で口角をあげ何食わぬ顔をした。

Y「やっぱそうだよね?タイチさん元気?」

S「は…はい。元気ですよ。」

Y「タイチさんはバイト時代の先輩でね?この前、東京で会った時に写真見せられたから…この子が俺のお嫁さんだよって。私、タイチさんが結婚してる事全然知らなくてびっくりしたけど、タイチさん結構酔っててそのまま寝ちゃってゆっくり話せなかったんだよね。」

S「そう…だったんですね。」

M「…………サツキさん結婚してたんだね…?」

横に座るメイタくんは虚な目で私を見つめてそう言った。

結婚…結婚か…

そんな約束もしたね。

私はタイチさんと結婚するもんだと思ってた。

でもね…私…捨てられたんだ…

好きな人が出来たって結婚の話も破綻になったんだ。

だから苦しくて全て忘れたくて東京を離れて傷を癒しにここに来たんだよ。

なんて…

傷口がザクザクと疼き、膿も吐き出し切れてない状態の私にはそんな事を言う心の余裕はまだなかった。

捨てられたと認めるにはまだ…

私の小さなプライドが許せなかったんだ。

あの恋が本物だと悲劇のヒロインみたいに思っていたから…

S「…うん…」

J「へぇ~結婚してるのに小豆島には1人できたの?」

S「た…たまには一人旅もいいかな…って。」

J「そっか。小豆島は良いとこだよ?どれくらいいるの?」

S「1週間くらい…です。」

カウンターにメイタくんが座り、私もその横に並ぶようにして座った。

J「メイタ、良かったね?最近、民泊するお客さん少なくて寂しいって言ってたじゃん。」

ジンさんは私たちにおしぼりを出しながらそう言った。

M「まぁ…」

私と目を合わせてくれないメイタくんの膝に、私の膝がコツンと当たるとメイタくんはビクッとして私を見た。

M「あ…ごめん…」

S「ううん…」

咳払いをして座り直したメイタくんの膝はまた、微かに私の膝に当たっていて…

お互いに膝を意識しながらも…

その膝を離す事はなかった。

Y「これは私からの結婚祝いだから。」

そう言ってユウキさんがお酒と料理を私の前にどんどん出していく。

S「ありがとうございます…メイタくんも一緒に食べよ?」

私はタイチさんと結婚なんてしてないのに厚かましくユウキさんのご好意を受け取る。

M「じゃ、遠慮なく…」

美味しい料理のお陰であまり飲めないはずの酒がスルスルと喉を通り、ついついペースが上がっていく。

S「メイタってさ?民泊の経営だけで生活してるの?」

M「シーズンの時は海に出てダイバーの講師したり、シーズンオフは町のお年寄りの何でも屋さんだよ。俺はさ…写真家になるのが夢なんだ…金貯めて海外に留学して写真の勉強していつか自分の写真展を東京で開きたい。」

S「へぇ~ただのフリーターかと思ったらちゃんと夢あったんだね?」

M「今はその資金を貯めてるの!!海外でホームステイを受け入れてくれる人も見つかったし、あとは金が貯まるのを待つだけ…!!」

S「どんな写真撮ってるの?」

M「あれとか俺の作品だよ?」

そう言ってメイタは店内に飾られてある写真を指差した。

その写真はとても綺麗な花を撮った写真で色合いが優しくて…温かい…そんな作品だった。

S「あの花って…サツキ?だよね?」

M「そう、サツキさんと同じ名前の花だよ。サツキは俺の誕生花なんだ。サツキの花言葉が好きでさ…」

S「花言葉?」

M「幸福って言うんだ…」

S「へぇ…素敵…自分と同じ名前なのに花言葉なんて知らなかった…メイタの夢も叶うといいね…」

M「うん…」

メイタはそう言って微笑んだ。

メイタは年下なのに酒に強いのか顔色一つ変える事なく熱く夢を語り、ふわふわと私だけが酒に酔っていく。

いや…もしかしたら私は…

酒ではなく…

この空気に酔ってしまったのかもしれない。


つづく
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