嘘からはじまった恋

樺純

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息を大きく吸い込み…

ふぅ~と力を抜くように心の闇を全てを吐き出す。

目の前にはキラキラと光る小豆島の海。

私は大好きだった東京という煌びやかな街から逃げてきた…

あの人を忘れる為に…

「ごめん…他に好きな人ができた…」

そう告げられて終わった私たちの恋愛。

あの日、私の誕生日にあなたがくれたこのペアリングには一体どんな意味が込められていたのだろう…

傷口が疼き、まだ外すことさえできないその指輪をクルクルと回し私は歩き出す。

スーツケースはガラガラと鈍い音を立て私について来る。

今の私について来てくれるのはきっとこのスーツケースとこの野良猫くらいかな?

チラッとその野良猫に視線を送ればニャーっと返事をしてくれた。

宿…探さなきゃ…

そう思いながら知らない街をただただ歩くのは、歩いている間に心の傷が癒えるんじゃないかと思っているからなのに、傷口が癒える気配なんて全くなく私はただ歩くだけ。

すると、ガッタン!!とスーツケースから大きな音が聞こえた。

え…まさか…

私は振り返りしゃがんでスーツケースのコマを見ると…

はぁ…やっぱり…

スーツケースのコマが1つ取れてしまった。

困ったな…知らない街でスーツケースを探す羽目になるとは思いもよらなかった。

つくづく今の私は付いてないんだと取れてしまったコマを手に取り大きなため息と一緒に確信した。

「大丈夫ですか?」

少し訛りがあるイントネーションでそう聞かれた私はゆっくりと顔をあげた。

*「あぁ…スーツケースのコマが取れちゃって…」

「あちゃ~この辺は田舎だからスーツケース探すの大変ですよ?」

*「ですよね…。あの…この辺に観光案内所とかってありますか?」

「まさか。こんな田舎にそんなのある訳ないじゃないですか。ここには観光で?」

その人は私に微笑みながらそう問いかけた。

*「まぁ…泊まるところ探してて…」

「あぁ…じゃ、ウチに来ます?」

*「え?」

「俺、じいちゃんの家で民泊やってるんですよ。なので、そこ良かったら…今日から1週間はちょうどお客さん入ってないし?」

*「本当に…いいんですか?」

「もちろん!お客さまですから。」

そう言って彼は笑いながら私の手にあるスーツケースをヨイショと軽々持ち上げ歩き出す。

「あ!お名前聞いていいですか?」

S「サツキです。」

M「俺はメイタです。よろしくお願いします。」

S「こちらそ…」

メイタさんは曇りのない真っ直ぐな瞳で私を見つめ優しく微笑んだ。

それが私とメイタの出会い。


つづく
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