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最終話

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カイルサイド

電車を乗り継いで向かった先は俺の地元。


春になるととても綺麗な桜があるのにその地を知る人は少なくいつ訪れても穴場の公園。


その場所を俺に教えてくれていたのは幼き頃のテオンくんだった事を俺はテオンくんと再会してから知った。


俺は大人になり幼かった記憶の中にあるはずの思い出すらも忘れていたが、俺は大人になってからも不思議と何度もこの場所を訪れていた。


そこに行き、桜を見ればなぜか胸がドキドキしてまるで初恋をした時の気持ちになったから。


今思えばそれは自分が初恋であるテオンくんとファーストキスをした場所だったからなんだな…と思うと可愛い想い出にニヤニヤが止まらない。


残念ながら春は過ぎ去り、桜は散ってしまったがこの時期だとあの公園ではハナミズキの花が満開を迎える頃。


俺たちはその公園を散策したあと、近くにある会長の知り合いが営んである温泉旅館で1泊することになっている。


待ち合わせ時間に向かうとひと足先にジノくんとユアさんが到着していた。


K「あ…いたいた。おはようございます!!」


俺が少し離れた所からそう声をかけて手を振ると何故か、仲良く並んで立っていたジノくんとユアさんが慌てたような様子で距離を取る。


T「あれ…なんか邪魔しちゃった感じ?あの2人今…手繋いでなかった?」

K「まさか。あのユアさんがこんな早くジノくんに落ちるわけないでしょw」

T「確かに…それもそうか。ユアちゃんは超~理想が高いし!」


そう言って俺とテオンくんは走って2人の元に行くと、何故か2人はソワソワとして落ち着かない。


T「2人ともそんなソワソワしてどうしたの…?ってかソウスケくんは?」

Y「あぁ…なんか今日は都合悪いみたいでやめとくって……」

T「ふーん。ってかさっきふたりさ?手繋いでた?」


とぼけた顔して無邪気にそう聞くテオンくんの言葉に、珍しく挙動不審になるユアさんといつもオーバーリアクションなジノくんがさらにオーバーリアクションになる。


J「なーに言ってんの!!まさか手なんて繋ぐわけないじゃんねぇ!ユアちゃん!!」

Y「テテテテテオンの見間違いよ。」


そう言って俯いたユアさんの顔色とジノくんの唇に微かについているリップを見て、俺は空気を察し2人の関係を問い詰めようとするテオンくんを止めた。


K「ほ~ら早くハナミズキを見に行きましょうね~!テオンくんここの桜は見たことあるけどハナミズキ見たことないって言って楽しみにしてたでしょ?」


そう言って強引にテオンくんの手を引いてハナミズキが満開な公園に連れて行く。


T「隠さなくても付き合ってるなら付き合ったって言えばいいじゃん。なんで隠すのー?」

K「ほら、まあさ?まだ付き合う前の微妙な時期かも知れないし?」

T「ええーーー気になる!!絶対手繋いでたもん!!やっぱもう一回聞いてくる!!」


天然なのに実に目敏い…ぽやっとしていても不思議とそういうところはちゃんと見ているのがこの人だ。


俺はそんなテオンくんの手を引いて歩き進める。


K「もういいから!!ねぇ?一緒にハナミズキ見て楽しもう?ここは俺たちの思い出の地だろ?」


そう言いながらもチラッと後ろを振り返ると、ジノくんがユアさんを引き寄せるように抱きしめキスをしていて、目ん玉が飛び落ちそうになった俺はテオンくんがこの状況を見たら大喜びして2人の邪魔をしそうだと思い、焦りながらテオンくんが振り返る前に駆け足で走り出す。


T「なになに?なんかあったの?」

K「何にもないよ~ほらあそこ綺麗だね~」

T「ほんとだ!!めちゃくちゃ綺麗!!写真撮ろうっと!」


そう言ってテオンくんは無邪気にカメラを構えて微笑みながらハナミズキの写真を撮っていた。


そして、そのテオンくんの横顔をみてふと、アンドロイドのオンが桜の写真を見たときのあの顔を思い出した。


初めて写真で桜を見たオンはアンドロイドだというのに桜を綺麗だと言った。


桜が咲いたら一緒に見に行こうと交わした約束…


守ることは出来なかったがきっと、桜が咲く頃には空の上から一緒に見ているだろうと、そんなことを考えながら薄紅色と真っ白な花をつけるハナミズキを眺める。


T「見て~カイル~めちゃくちゃ綺麗に撮れた~!!」


クルッと振り返ったテオンくんは満面の笑みで俺を見つめたと思ったら目を見開き飛びつくようにして俺の元に駆け寄る。


T「ぇぇえぇぇぇえ!?見て見て!!ジノくんとユアちゃんがチュウしてるーーー!!!!」

K「えぇ!?あのふたりまだキスしてんの!?」


テオンくんにつられて俺もまた振り返ると、ジノくんとユアちゃんのキスは周りに人がいないのを良いことにさっきよりも激しく盛り上がっていた。


テオンくんはそんな2人を見て嬉しそうにカメラを構えシャッターを切った。


アンドロイド・オンと全く同じ顔をしたテオンくん。


いや…正しくは悪い大人たちの陰謀によってアンドロイド・オンがテオンくんと全く同じ顔して生まれてきてしまった。


明るくて元気いっぱいで少しヤキモチ焼きだけど笑顔溢れるテオンくんに比べて、オンはアンドロイドだから全く表情はなかった。


しかし、2人とも感情はとても豊かで…ひと目で俺を夢中にさせる不思議な魅力があった。


T「あぁーーー!!いま違うこと考えた!!」


不思議とテオンくんはいつもオンのことを思い出すとすぐに気づきそう言って拗ねる。


その顔があまりにも可愛くて俺は肩を抱き寄せながら笑った。


K「あははは~バレた?テオンくんと一緒にハナミズキ…見れて幸せだなと思ってね?今度は桜…一緒に見に来ようね?」


T「うん…俺も幸せ。ねぇ…俺たちもアレする?」

K「アレ?」

T「チュウ…」

K「チュウ?」

T「桜の木の下で俺たちはファーストキスをしたでしょ?今度はハナミズキの木の下で永遠の愛を誓うキスをするの…それが俺のカイルへの想い…カイルは俺の想い受け止めてくれる?」

K「えへ?なにそれ可愛ぃ…」


そう言った時にはもう既に俺の唇には心地よい温もりを感じていて、ぬとっとした舌が俺の舌に絡みついていた。


いつの間にかこんなキスをできる関係となった俺とテオンくん。


季節はいつの間にか春から夏に変わろうとしていて、ハナミズキの花びらが舞い散り、俺たちを包み込むと温かい風が吹き抜ける。


来年の春…ここに来た俺は桜を見て何を思うのだろうか?


テオンくんと再会した喜びを思い浮かべる?


それともテオンくんが振り向いてくれなかった切なさを思い出し胸を痛める?


いや、きっとまた俺は桜を見ながら初恋を思い出し、横にいるテオンくんにまた恋をするだろう。


俺はテオンくんの唇が離れてしまうのが惜しいのに、テオンくんの綺麗な瞳が見たくて、仕方なく離れるとテオンくんは頬を薄紅色に染めて笑っていた。


ハナミズキの花びらが揺れる中、幼き頃にキスをした場所でまた、俺たちは甘いキスを繰り返す。


互いの温もりを味わいながら微かに季節の変わり目を感じ…


俺たちはまた、約束を交わした。


今度は桜を一緒に来ようね…って。


おわり


*桜の花言葉(フランス)
私を忘れないで

*ハナミズキの花言葉
私の想いを受け止めて下さい(日本)
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